駒治伝説 古今亭駒治「KO線」「愛のソフィーナ」、そして柳家喬太郎独演会「錦木検校」

「駒治伝説~古今亭駒治勉強会」に行きました。「KO線」「愛のソフィーナ」「ワイヤレスな日々」の三席。

「KO線」。京王線にまつわるトリビア満載で面白い。東京と八王子を結んでいるから京王線だが、新宿―八王子間は中央線で500円、京王線で410円。JR八王子駅と京王八王子駅は350メートルも離れていて不便。

京王新線の謎。京王線と都営新宿線を相互乗り入れするために作られた。50年も前なのに、未だに新線。幡ヶ谷と初台は新線のみの駅だから、知らずに新宿から京王線に乗ると笹塚に着いてしまう、京王線あるあるが可笑しい。都営新宿線の小川町は神田、岩本町は秋葉原、馬喰横山は浅草線の乗り換え駅になっているが、皆遠くて不便というのも同感。九段下の東京メトロ半蔵門線との壁が取れたが、未だに「38度線」と言われている…。

井の頭線は京王線傘下だが、実は小田急線の息子だったという衝撃。下北沢駅は地下化でようやく小田急線と井の頭線は分離したが、それまでは小田急線だった名残で改札を出ないで乗り換えができたのでキセル乗車の巣窟だった…。さらに言うと、戦時中は「大東急」といって東急、小田急、京王などが一つの鉄道会社だった。東急が井の頭線に明大前は南田園調布、永福町は北田園調布という駅名をあげるから、こっちへ来ないかと誘う擬人化も笑える。

「愛のソフィーナ」。スキンケアに目覚めた中年男性のキヨタさんが主人公。ソフィーナの美容液を求めるのに、「妻に頼まれて…」と店員に言い訳しながら購入するのが可笑しい。そして、肌がスベスベになったことに女子社員が気づいてくれたら…と期待していたら、専務に呼び出され、「どこの化粧水を使っているの?」と訊かれ、最初に気づいたのが男性の専務だったという…。

キヨタさんは専務と今度の日曜日に伊勢丹の化粧品売り場、いわゆるデパコスに行こうと約束。最近、パパが洗面所でコソコソしているので、調べたら棚の裏に隠し扉があって、ヒアルロン酸やら敏感肌用やらの美肌グッズが出て来て、ママと娘のユズハが「女ができた」と思い込み、後をつけると…。

キヨタさんは男の人(専務)と会っていた!そんな趣味が!?しかも、ジバンシィのエクペレンス・フェイス・モイスチャーライザーについて店員に説明を受けていた!ママが問い詰めると、「お肌の手入れをするとワクワクして、楽しいんだよ」。専務との関係についても誤解が解けてハッピーエンドという…。駒治師匠らしいセンスを感じる作品だった。

柳家喬太郎独演会に行きました。「すなっくらんどぞめき」と「錦木検校」の二席。開口一番は春風亭昇ちくさんで「真田小僧」、ゲストはものまねの江戸家猫八先生だった。

「錦木検校」。角三郎と錦木の心の交流が胸に滲みる。父親の酒井雅楽守に疎んじられ、大塚の下屋敷に家臣同様の扱いで住むことになった次男坊の角三郎は実に肚の大きな人物で、「それもまた面白いではないか」と前向きに捉える了見がまず素晴らしい。そして、按摩の錦木との出会い。名前を訊いて「汚づくりの錦だな」と軽口を叩いたが、錦木の父親の命名にこめた想いを知り、「済まなかった」と謝る素直さも良い。盲目だからといじけるのではなく、心に錦を着て、木のように真っ直ぐに育ってほしいという想い。美しい。

角三郎と錦木はすっかり気が合い、毎日療治に通い、十年来の親友かのような存在になったという。これも角三郎の了見の良さゆえだろう。そして、錦木が本所の学者先生の講義を聞いて学んだという「大名になる骨格」に角三郎はピタリとはまると言う。雅楽守の倅であることを隠していた角三郎は「家臣が大名になることはない」と否定しながらも、万が一大名になったら、「お前を検校にしてやろう」と約束する。

錦木が風邪をこじらせ寝込んでしまったとき、長屋の源六にこぼした本音。今度ばかりはつくづく自分が嫌になった。せめて目が見えればと初めて思った。生きていても仕方ない、死んでやろう。だが、首を括ることも目が見えないとできない、と。そのときに源六が錦木を励まそうと話した酒井雅楽守の代変わり。角三郎は「馬鹿殿」と世間は思っていたが、いざ新しい殿様になってみると、「下々の心がわかる名君。先代よりも立派だ」と評判だと言う。

これを聞いた錦木は「俺、検校だよ」と喜び、早速雅楽守の屋敷を訪ねるが…。いざ対面となると、錦木は顔を上げることができない。余りの嬉しさに伺ったが、後光が差しているようで眩しいと言う。そして、検校の約束も畏れ多いと遠慮してしまう。あまりの身分の違いに恐縮してしまうところが、錦木の謙虚で優しい気持ちを表しているのかもしれない。

角三郎だった雅楽守が言う。その方と会いたくて、話したくて、揉んでもらいたくて仕方がなかった。錦木!大名になったよ!お前は名人だ。わしは心のどこかで父を疎ましく思っていた。そんな心をお前はほぐしてくれた。お前が大名にしてくれたようなものだ。心より礼を申す。約束したよな。その約束を果たすときが来たのだ。皆の者!今日より按摩錦木は検校である!胸を張れ。顔をあげろ。

だが、錦木はすでに事切れていた。雅楽守は叫ぶ。馬鹿!お前はわしを恩知らずにする気か!これからお前に心をほぐしてもらいたいことが山ほどあったのに…。従来の「三味線栗毛」はハッピーエンドだが、喬太郎師匠はあえて哀しい結末にしている。それによって、錦木と雅楽守の心の交流がより明確に打ち出される。素晴らしい「錦木検校」だった。