新鋭女流花便り寄席 神田阿久鯉「徳川天一坊 越前再調べ」、そして鈴々舎美馬独演会「お見立て」

新鋭女流花便り寄席に行きました。

「南総里見八犬伝 序開き」神田山兎/「五條橋 弁慶・義経出会い」神田おりびあ/「道元禅師」神田紅希/「黒雲お辰」田辺凌天/漫談 なっきー/「第一次南極観測隊物語」宝井梅福/中入り/「源太しぐれ」国本はる乃・玉川鈴/「三年目」三遊亭美よし/紙切り 三遊亭絵馬/「徳川天一坊 越前再調べ」神田阿久鯉

凌天さんの「黒雲お辰」。大和国黒木村の領民が殿様の黒木大和守の出世を願って、75両を集めて賄賂に使ってほしいという発想は田舎ののんびりした雰囲気から生まれるものなのだろうか。その大切な75両を託されて殿様の江戸屋敷に運ぶ新兵衛さんもどこかのんびりしているから、両国橋で巾着切りに遭うのだろう。

途方に暮れて昌平橋で身投げしようしていた新兵衛から事情を聞いた、実は巾着切りの元締めの黒雲お辰の義侠心。金持ちからしか盗まないというルールを犯した子分に代わって85両を拵えて、新兵衛に渡し、「10両は帰りの路銀だ」と渡す心配りがカッコイイ。

10年後にお縄となったお辰が討ち首になるところ、身代りを名乗り出る者が多く出たというのも庶民から信頼された盗賊ということだろう。大岡越前守は10年前の新兵衛を助けた善行により、お辰の死罪を赦免し、出家を勧めた。尼法師妙達として諸国を廻り、黒木村で新兵衛と巡り会ったというのも良い結末だと思った。

はる乃さんの「源太しぐれ」。信楽屋徳兵衛の子分、源太郎は仇敵の久右衛門を討った功績が買われ、徳兵衛の娘お藤の婿に入り、跡目を継ぐことになったが…。お藤には言い交わした恋仲の喜助がいることを知っていた源太はこの祝言をぶち壊してほしいと一膳飯屋で知り合った旅廻りの義太夫語りのおよしに10両の御礼を出すからと頼みこむ。源太が6年前に江戸に剣術修行に行っていたときに女房になった竹本小よしという触れ込みの一芝居だ。

源太がお藤と喜助のことを思っての義侠心から打った狂言は首尾よく運んで、めでたしめでたし。だが、噓から出た真。およしは「これが芝居じゃなくて、いっそ本当のことになればいいのに」と言って、御礼の金は要らないから私を連れていっておくれと懇願する。素敵な恋の物語をはる乃さんが力強い節回しと啖呵で聴かせてくれた。

阿久鯉先生の「越前再調べ」。天一坊は悪相であると睨む大岡越前守は、大坂城代、京都所司代、そして老中屋敷も御落胤であることを認めたにもかかわらず、将軍家に願い出て、再調べをおこなうことになる。

天一坊以下、山内伊賀之亮、天中坊日真、藤川左京、赤川大膳が滞在する品川八ツ山の宿に白石治右衛門を使者として走らせる。「南町奉行の越前屋敷に赴くように」と、将軍家名代として命じた。数寄屋橋の越前屋敷を千代田城と心得よという通達だ。これでは、天一坊たちは赴かないわけにはいかない。

堂々800余名の行列をなして、越前屋敷へ。だが、表門が開いていない。門番の池田大助に尋ねると「潜りから入れ」と言う。天一坊一行は「無礼だ」と言って、一旦は「還御!」と号令をかけ、立ち帰ろうとする。しかし、池田大助は「まだ御落胤と定まったわけではない。今、背を向けて帰ることは、上様に背くことにあたる」と言って、「召し捕れ!」と叫び、500~600の捕手が取り囲む。

伊賀之亮は無礼とは思ったが、ここで刀を抜いては相手の思う壺と心得、素直に潜りから中に入る。そして、通されたのは莚のような部屋で、御座の間ではない。粗末な扱いである。これも挑発しようという越前側の魂胆が見え隠れするが、伊賀之亮の指示によって天一坊以下5人はこれを素直に受け入れる。

改めて、伊賀之亮が「大坂城代、京都所司代、そして老中方のお調べが済んでいる。御落胤であることは認められた。無礼ではないか」と抗議する。すると、襖が開いて出てきた大岡越前守は「尋ねたきことが幾つかある。返答頂きたい」と伊賀之亮に投げ、伊賀之亮も「返答致します」と応じる。ここから越前守の厳しい追及に伊賀之亮が見事に論破する、いわゆる「網代問答」と呼ばれる部分に入るわけだが、きょうの高座はここまで。惜しい切れ場であった。

「たっぷり!美馬~鈴々舎美馬独演会」に行きました。「新聞記事」「一眼国」「お見立て」の三席。

三席とも古典が並び、しかも美馬さんのカラーがほとんど感じられないオリジナリティに乏しい独演会で、非常に残念だった。古典は本寸法でいくのであれば、新作を一席加えても良いのになあというのが正直な感想だ。

「お見立て」。千葉から出て来る杢兵衛大尽を喜瀬川花魁が極端に嫌っている噺だが、どこが嫌いなのかはっきりしない、つまりは杢兵衛大尽のキャラクターに説得力がない。喜瀬川も「死んでしまったことにしてくれ」と喜助に頼む割りには、杢兵衛を嫌っている台詞のボキャブラリーが乏しい。

喜瀬川はなぜ死んだのか。杢兵衛が2ヶ月ほど顔を見せなかった。どうして来てくれないのか。他に女でもできたのではないか。悲しい。そう言って、恋い焦がれ死にをした。だから、あなたが殺したようなものですよ。

こういう嘘を思いつくのは、杢兵衛大尽を「客なのだが気持ち悪い存在だから会いたくない」と思っているからで、田舎っぺ丸出しの杢兵衛大尽をきちんと描かないと喜瀬川に共感できない。まあ、客をほったらかしにする、職場放棄するような喜瀬川に共感はできないが、それはまた別の話。なるほどね、杢兵衛大尽のこういうところが気持ち悪いのね、と思わせるキャラクターを作ってほしい。