新作ストレート

「新作ストレート」昼の部に行きました。「喬太郎師匠がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!」と題した昼の部は高座を終えた後に、企画者である瀧川鯉八師匠、弁財亭和泉師匠とゲストの柳家喬太郎師匠とのトークの時間が設けられ、これが素晴らしい内容だった。
喬太郎師匠が新作に限らず落語への向き合い方や芸人としてのあり方について真剣に語ってくださり、感銘を受けた。また、落語からさらに広げて、映画や小説などのエンターテインメント全般への考察もまた興味深いもので、トークは1時間を超えた。喬太郎師匠のこんなに深く、濃い“芸論”を伺える機会は滅多にない。この会を企画して聴き手となった鯉八、和泉両師匠に厚く御礼を申し上げたい。
「CM家族」三遊亭東村山/「黄金風景」瀧川鯉八/「鶏もつ煮込み」柳家喬太郎/中入り/「私が私が」弁財亭和泉/トーク 喬太郎・鯉八・和泉
鯉八師匠。主人公が昨夜の夕食はカレーだったと言ったことに端を発して、同級生が次々と夕食のメニューを喋っていると、マサルが「ビーフストロガノフだった」と言う。同級生はマサルの家が貧乏なのは知っていて、虚勢を張っているのがよくわかっている。
主人公は学校の帰りにマサルの家を覗くと、サンマ三匹を家族8人で分け合って食べていた…。「貧乏はみじめ」という概念が吹っ飛び、その光景が楽しそうに主人公には見えるというのが美しい。「黄金風景」というタイトルにもセンスを感じた。
和泉師匠。喫茶店で繰り広げられるオダワラさんとアオヤマさんの会話を和泉師匠は「甘嚙み」と表現したが、僕はこの二人は本気で噛み合っているのではないかと思う。あのマウントの取り合いは、悪意とは言わないがお互いに「負けたくない」という意地の張り合いであり、そこが面白い。
オダワラさんは夫の親から譲られた文京区の土地に建てた一戸建てに住み、美大時代の先輩から「お前の才能が埋もれるのは勿体ない」と言われ、アルバイト感覚でウェブデザイナーをしている。
アオヤマさんは大学時代に青山ベルコモンズで買い物をしていたことから友人からベルと呼ばれ、インスタグラムのアカウント名にしている。ドクモ(読者モデル)をしていた経験があり、今でも「太れない体質」「10歳は若く見られる」のが“コンプレックス”だという。東小金井の実家暮らし。今の彼氏は21歳年下の元地下アイドル。
この二人の会話と会話の間の黒い霧みたいなものに、喫茶店のバイトとして働く大学1年生の男子が「メンタルをやられてしまう」と店長に訴えるのも判るような気がする。だが、酸いも甘いも嚙み分ける50代の店長は、こういう会話を味わえるのが「喫茶店経営の醍醐味」と言うのもよく判る。
「新作ストレート」夜の部に行きました。夜は「マジカルミステリー二ツ目新作落語ツアー」と題した、若手の新作競演だ。
「夏の昼食」弁財亭和泉/「ホッピーおじさんの行方」三遊亭ごはんつぶ/「わかればなし」立川笑二/「ヌルヌル」春風亭昇咲/中入り/「最後の夏」瀧川鯉八/「神に誓って」笑福亭笑利/「衝突」笑福亭茶光/「ダダンダンダダン」鈴々舎美馬
和泉師匠には珍しく論理的構成ではなく、語感の面白さで聴かせるのが良い。夏休みに入って、息子に昼食を作らなくてはいけないお母さん。そうめん、そうめん、そうめん、ひやむぎ、そうめん、そうめん、そうめん、揖保乃糸…。毎日のメニューを息子が記録して、これを呪文のようにリズミカルに叫んで、不平を訴えるのが可笑しい。ちなみにお父さんの会社の昼飯は、おにぎり、おにぎり、おにぎり、ランチパック、おにぎり、おにぎり、ナイススティック…!
ごはんつぶさんは漫談の延長のテースト。浅草のホッピー通りに外国人観光客が押し寄せるようになり、“ホッピーおじさん”が消えたのはなぜか?アサヒビールの野望という説を唱えるところがユニークだ。
笑二さんはこの日一番完成度の高い新作だと思った。アヤカは彼氏のヒロ君が自分のアパートに50日も居座っていることに嫌気がさして、出て行ってほしいと頼むが…。実はアヤカはヒロ君が邪魔になって殺して床下に埋めて逃げていたのだった。四十九日を過ぎたから、もういいだろうと戻ってきたら、ヒロ君がまだいる。それは地縛霊だからという…。アヤカはアパートのオーナーである父親に頼んでアパートを解体し、駐車場にしてもらったが…。恋愛に怪談が絡んで、とても良く出来た作品である。
昇咲さんの発想が面白い。金造がかく汗はなぜか、いい匂いがして、ヌルヌルしている。名医の玄庵先生に診てもらったら、その汗はごま油というとても珍しい病気で、「油に選ばれし者」だけが罹るという。かつてフランスから来た宣教師のピエール・サルバトール・ホットカプチーノが口からオリーブオイルを吐く病気になり、幕府囚われの身になったという…。金造は格闘していると、ある噂を耳にする。「将軍様の鼻から石油が出た」。奇想天外で面白かった。
鯉八師匠は人間ドラマ。あと一つのアウトで憧れの甲子園出場を果たせたのに、吉田がエラーしたことで出場を逃してしまった。監督は吉田に対し、「気にするな。この経験はきっとお前の財産になる。責任は全部監督にある」と言うが、「あと3日で定年だったのに」「ホームランを打たれたなら諦めがつくが」「確認だが、何か恨みがあったわけではないよな」…未練たらたらなのが可笑しい。「皆!甲子園に代わる夢を持たせてくれた吉田に礼を言おう」(笑)。
笑利さんもハイテンションな傑作。3年前にハルオとヤスコが結婚式を挙げた教会で、「離婚式」がおこなわれた。牧師が滅茶苦茶怒っていて、呼び出されたのだという。「軽々しく誓うな!キリスト教をなめているのか!」。挙句にヤスコが浄土真宗だということがわかり、「阿弥陀如来に誓え!」。爆笑!
茶光さん。お笑い芸人を目指していた男が、自動車に轢かれそうになった子どもと犬を助けようと突き飛ばした拍子に、自分が轢かれることに…。というところで、時間経過がスローモーションのようになり、運転手とその男が会話をするのだが、自分のボケに対して運転手の突っ込みが上手いという…。じゃあ、漫才のコンビを組んで、名前は「車あたる・はねる」だ!よく計算されている。
美馬さん。女子高生のラブちゃんが昼休みに屋上へ行くと、同じ学年の男子が宇宙人と交信、つまりチャネリングをしているという。3年A組のオカムラ君、ラブちゃんはオカルトンと渾名をつけた。ラブちゃんは父親が霊媒師で、どちらが先に宇宙人もしくは幽霊を出すことができるか競った。翌日、A組に会いに行くと、オカムラという男子はいないという。担任教師に訊くと、10年前に我が校始まって以来の天才といわれた生徒がいて、それがオカムラ君。卒業前に病死したという…。不思議な魅力を持った創作に感心した。