柳枝のごぜんさま 春風亭柳枝「酢豆腐」、そして集まれ!信楽村 柳亭信楽「犬」

「柳枝のごぜんさま~春風亭柳枝勉強会」に行きました。「酢豆腐」と「鴻池の犬」の二席。

「酢豆腐」はキザな伊勢屋の若旦那を町内の若い衆がからかうところが眼目だろうが、前半の建具屋の半次に茄子の古漬けを取り出すように頼む部分も面白い。糠味噌桶の中に手を突っ込むことなんかできないという、皆が共通して持っている江戸っ子気質がよく出ている。

小間物屋のミー坊が「立て引きが強い」半次のことを岡惚れしているとおだてられ、「モノを頼まれて嫌と言ったことがない」と半次は見得を切るが…。その頼みが「糠味噌桶から古漬けを取り出すこと」と聞いて、引き下がれなくなった半次は音をあげてしまい、「これで勘弁してくれ」と1円を出す。そこまでして、江戸っ子は糠味噌桶に手を入れるのを嫌うのか。

腐った豆腐を無理やり食わせるという一点においては「ちりとてちん」に似ているけれど、江戸っ子連中のわいわいがやがやの愉しさを表現しているという意味においては江戸前の落語として「酢豆腐」が優れていると思う。

「鴻池の犬」はさん喬師匠から。本所の乾物屋、角屋の小僧の定吉が拾って来た三匹の仔犬。主人は「引き取り手が現れたら手離す」ことを条件に飼うことを承知するが…。クロ、ブチ、シロの三匹のうち、クロを譲ってほしいと大坂の鴻池善右衛門の江戸番頭から頭を下げられ、クロは大坂へと行ってしまう。

クロを寵愛していた定吉が、残ったブチとシロに邪険な扱いをして餌もろくに与えないというのが可哀想だなと思う。実際、道に落ちていた芋を拾おうとしたブチが大八車に轢かれて死んでしまう。残されたシロの心細さといったらないだろう。だから、兄のクロを頼って「大坂に行こう!」と決心するのだ。

幸い、旦那の代参で伊勢におかげ詣りに行く犬のハチと巡り会って、道中をともに出来た。箱根山、富士山、清水次郎長、名古屋城、桑名の焼き蛤…。旅の楽しさで寂しい気持ちもまぎれたシロは、伊勢に向かうハチに別れて大坂船場へ。

持ち前の気っ風の良さで船場を取り仕切っている鴻池のクロと運命の再会をして、鯛の浜焼きやら鰻巻きやら、美味しいものを沢山振る舞われてハッピーエンドになる。だけど、どうしてもシロを邪険にした定吉のことがとても気になるのである。

「集まれ!信楽村~柳亭信楽勉強会」に行きました。「犬」「アキラとスグル」「青菜」の三席。開口一番はやなぎ弥七さんで「つる」だった。

「犬」は初めて聴いたが、3年くらい前に創った作品らしい。面白かった。高橋さんが飼っているゴールデンリトリバー、ジョンがハチという犬に出会って、「ロックをやろうぜ。黒人音楽にビートルズという白人が革命を起こしたように、今度は犬が革命を起こすんだ。ロックで世界を変えよう。ロッケンロールだ!」と誘われて、自我に目覚めるのが面白い。

これまでは飼い主の言いなりになっていれば、ぬくぬくと暮らせていたが、それでいいのか?自分の意思というものを発信するべきではないか?散歩に連れ出され、投げられたフリスビーを上手にキャッチして褒められ、ジャーキーを貰って美味いなあと満足する生活に疑問を持ったのではないか。

ジョンはギターのハチに他のメンバーを紹介される。ドラムのマロン(チワワ)、ベースのゴンタ(スピッツ)。ジョンはボーカルを担当することに。音響機材が充実しているのはビクターの犬と知り合いだからというが笑える。マネージャーもいる。エンドウさん。人間だ。犬と喋れる特殊能力があるというのが可笑しい。

バンド名も「イーヌーズ」に決まり、エンドウさんが売り込むと、氷室京介の前座の仕事が早速入る。観客は「犬のバンドなんて、引っ込め」と馬鹿にしていたが、その演奏を聴くと、「上手い!カッコイイ!」と大盛り上がり。氷室さんだけでなく、布袋寅泰さんも褒めてくれたという…。犬も歩けばBOOWYに当たる!(笑)。

「アキラとスグル」は新作ネタおろし。噺家に入門志願したイトウスグルが二重人格で、アキラというもう一人の自分と格闘するという構図。スグルとアキラは正反対の性格なのだが、入門試験で八五郎が隠居を訪ねる冒頭を真似しろと言われて演じるが、これに関してはスグルもアキラもどちらも棒読みに超下手くそで一緒というのが可笑しかった。一人の人物で二人の人格を演じ分ける難しさがあると演じ終わった後に信楽さんがおっしゃっていたが、これがピタリとはまるともっと面白くなると思った。今後に期待大だ。