琴調の夏 天保六花撰を読む 宝井琴調「市の丞破獄」「丑松本所の血嵐」

上野鈴本演芸場七月下席六日目夜の部に行きました。今席は宝井琴調先生が主任を勤め、「琴調の夏 天保六花撰を読む」と題したネタ出し興行だ。きょうは「市の丞破獄」だった。

「黄金の大黒」柳家小じか/奇術 ダーク広和/「真柄のお秀」田辺凌天/「ざるや」金原亭小馬生/「かんしゃく」柳家小満ん/漫才 すず風にゃん子・金魚/「女子アナインタビュー」春風亭百栄/「山崎合戦 洞ヶ峠」神田菫花/中入り/紙切り 林家二楽/「蜘蛛の糸」宝井琴凌/「道灌」古今亭文菊/粋曲 柳家小菊/「市の丞破獄」宝井琴調

琴調先生の「市の丞破獄」。金子市の丞と暗闇の丑松の二人で吉原に遊びに行ったが、上がった店に客人が「市の丞さんにお会いしたい」と訪ねて来た。店の周囲を見渡すと数人の岡っ引きが取り囲んでいるのが判って、市の丞は観念した。自分は入牢するだろうが、あそこは娑婆の土産がモノを言う。100両を都合してくれと丑松に頼み、市の丞は縄に掛けられる。

丑松は練塀小路の河内山宗俊のところへ行き、事情を話して「200両貸してほしい」と頼む。河内山は「森田屋清蔵がいれば何とかなったが」と言いつつ、丑松に紙屑屋の格好をさせ、自分は頭を丸めて坊さんとなり、袋物屋の丸屋利兵衛、通称丸利に出向く。珊瑚玉を出してもらい品定めをしていたが、「あそこの枝珊瑚が見事だ。いくらするか」と番頭に問いかけ、目を逸らすと、懐紙を取り出して鼻をかむふりをして、手に持っていた六分五厘の珊瑚玉を包み、それを格子外に投げて、それが見事に紙屑屋姿の丑松が背負う籠の中へ。

番頭は六分五厘の珊瑚玉がなくなっていることに気づき、主人を呼んで耳打ちする。主人が河内山に言う。「恐れ入りますが、珊瑚玉が見当たりません。あなた様の袂などに入っていないか、確かめさせていただけないでしょうか」。河内山は言われた通り、煙草入れ、紙入れを出し、さらに着ている着物を脱いで下帯一本になった。さらに「疑いを持たれるのは嫌だ」と言って、下帯も外し、素っ裸になった。「どうだ?」。困惑する主人と番頭。

河内山は「これから屋敷に戻って、このことを支配頭に報告する。盗賊の疑いをかけられたのだから、切腹するしかない。この店の暖簾はどうなることか…」と強硬姿勢だ。丸利の主人は平身低頭で、「お屋敷はどちらでしょうか。これからお詫びに伺います」。すると、「下谷だ」「下谷のどちらで?」「俺の面を知らないのか?練塀小路の河内山宗俊だ!」。すっかり怯えた丸利主人は300両を詫び賃として支払った。

これを河内山から丑松が受け取り、伝馬町の牢にいる市の丞に届ける。牢では鼻薬としての金次第で扱いが変わる。市の丞は病人の扱いとなり、北町奉行所に行くのにも、人足が担ぐもっこに乗って移動した。担ぎ手の車仙七に対し、市の丞は「お仕置きは承知の上だ。心残りは神田今川橋の脇にある金の字が彫ってある石の下に埋めた百両の金だ。その金を掘って、金子市の丞という石塔でも建ててくれないか」と伝える。すると、仙七は市の丞の後ろの手の縄を緩めてくれた。もっこの伴をする同心二人が来ると、市の丞はもっこからわざと落ちて、同心が脇差を抜くが、市の丞は神道無念流の達人。逆に同心を突き殺した。いわゆる「もっこ抜け」成功である。

市の丞は流山にいる母親に一目会いたいと向かうことにするが、猿若町の伊勢屋で按摩から「三千歳が市の丞への恋煩いで入谷の寮にいる」という情報を得る。翌日の「三千歳市の丞道行」へと繋いだ。

上野鈴本演芸場七月下席九日目夜の部に行きました。今席は宝井琴調先生が主任を勤め、「琴調の夏 天保六花撰を読む」と題したネタ出し興行だ。きょうは「丑松本所の血嵐」だった。

「たらちね」三遊亭歌きち/太神楽 翁家社中/「細川茶碗屋敷由来」一龍斎貞奈/「粗忽の釘」古今亭菊志ん/「藪医者」柳亭市馬/漫才 風藤松原/「道具や」春風亭百栄/「幸せの黄色い旗」神田茜/中入り/紙切り 林家八楽/「出世浄瑠璃」田辺いちか/「一目上がり」古今亭文菊/粋曲 柳家小菊/「丑松本所の血嵐」宝井琴調

琴調先生の「丑松本所の血嵐」。暗闇の丑松は芸者だったお半を女房にして、調理人として堅気の暮らしをはじめた。二人の間には松太郎という息子も生まれた。だが、お半に横恋慕した旗本の息子、野間佐十郎がお半の義母お梶と結託して、松太郎を人質にして丑松からお半を横取りしようとした。丑松とお半は出刃包丁で野間とお梶を殺害。丑松はお半を幼馴染の本所吉田町の市兵衛に預けて江戸を離れた。

二か月が経ち、丑松はお半恋しさから江戸へ向かう。途中、板橋の橘屋という女郎屋に上がった。相手をしたのはでっぷりと太ったお鶴という女郎。お鶴が厠に行っている間に別の女郎が部屋に入って来た。「丑さん!」。何と、お半である。市兵衛はとんでもない野郎で、「丑松が高崎でお縄になって、江戸送りされる。助けるために30両という金がいる」と言って、お半をこの橘屋に売り払ったのだという。

丑松が市兵衛の話は全部偽りだと、お半に教える。そこにお鶴が戻ってきたので、お半は去った。だが、丑松は眠れない。すると、廊下を挟んだ向こう側の部屋がバタバタと人の出入りがして騒がしい。丑松が覗くと、その部屋でお半が喉を切って自害していたのだった。丑松は香典だと言って橘屋に一両を置いて、翌朝早くに本所練塀小路の河内山宗俊のところに行く。「お半が死にました」と事情を話す。

「仇討ちがしたいか。加勢してやる」と河内山。丑松は「自分独りで何とかする」と断り、本所吉田町の市兵衛宅へ。市兵衛女房が応対する。「政という若い者とお半が出来てしまって、手に手を取って逃げてしまった」と作り話をして誤魔化すが、丑松の怒りは収まるわけがない。そのまま、市兵衛女房を一刀両断、斬ってしまった。

若い者に訊くと「市兵衛は柏湯にいる」。丑松は湯殿にいる般若の彫り物をした市兵衛を見つけ出し、スパン!と首を刎ねた。この後、丑松は指名手配となるが、河内山、直侍、森田屋清蔵、三千歳、市の丞含めた6人はどうなるのか!?大いに興味を膨らませて、翌日の千秋楽へと繋げた。