花形演芸会スペシャル 柳家㐂三郎「徳ちゃん」

花形演芸会スペシャルに行きました。令和6年度花形演芸会大賞、金賞、銀賞の受賞者が一堂に会した。

大賞 柳家㐂三郎/金賞 春風亭柳枝・春風亭昇也・上の助空五郎・真山隼人/銀賞 三遊亭青森・松廼家八好・雷門音助

贈賞式の司会は三遊亭天どん師匠。本人いわく「自分は銀賞しか受賞したことがない」そうだ。審査委員を代表して長井好弘氏が2分半で寸法を述べる。

大賞の㐂三郎師匠は「得難いキャラクター」と称し、それを活かした「夢八」は出色だったし、「豊志賀」という普通に考えるとニンではない噺にも果敢に挑戦し、成果を挙げていたことが評価された。

金賞の4人については「大賞を獲れなかったことを悔しがってほしい。次こそ俺が獲るという気概で臨んで、一段上の高座を目指してほしい」と檄を飛ばした。銀賞の3人は「もう一回観てみたい」と思わせた人たちであり、他にもあるであろう引き出しの中を覗いてみたいと期待した。

大賞の㐂三郎師匠は「自分も、師匠も、楽屋の仲間も皆が驚いた受賞」だと言って、自分は寄席に沢山顔付けされているわけでもなければ、ホール落語に出演しているわけでもない、ましてやテレビやラジオで売れているわけでもないと謙遜。そういう自分がコツコツと積み重ねてきた勉強会に来てくれる数少ないお客さんだけは誰も驚かずに手放しで喜んでくれたと感謝を表していたのが印象的だった。

三遊亭青森「愛を詰め替えて」

バスルームの中のシャンプー“ヨウイチ”とコンディショナー“ツバキ”の擬人化による恋愛が面白い。この家の主人のヤマモトさん35歳は、偶々駅前のマツキヨで安売りしていたシャンプーのラックスとコンディショナーのパンテーンを購入したことではじまった“二人“の関係だが、最近「育毛用」に関心があるようで、戦々恐々なのが可笑しい。仲に入るボディソープのゲンさん(ビオレU)の存在もポイント高い。

春風亭柳枝「飴玉」

新美南吉原作。渡し船に乗った母と兄・平六と妹・お松。同船して居眠りしているお武家が怒りださないかと心配するのをよそに、兄妹の騒ぎが収まらないという構図が笑いを呼ぶ。南吉の童話的世界を落語という笑いを主にした世界に置き換える腕は柳枝師匠の芸だろう。

春風亭昇也「死ぬなら今」

改作だ。吝嗇屋吝兵衛が地獄に逝った際に閻魔大王に“袖の下”を渡して極楽に行くという優遇措置が取られたことをきっかけに、吝嗇屋では代々、家訓として「地獄の沙汰も金次第」が伝えられ、長年にわたって地獄との癒着構造が構築されたという発想が面白い。そして、十代目がATMで地獄に金を振り込んだことが発覚し、極楽警察の捜査によって地獄の幹部たちは皆刑務所に入れられたという…。面白い。

松廼家八好 幇間芸

手拭いを使った「三枚の絵」。写楽、ムンクの叫び、フェルメールの真珠の耳飾りの少女。実によく特徴を捉えている。「深川のようなもの」と称した踊りというかパントマイム?猪牙船で吉原に遊びに行くところ、駕籠に乗って同じく吉原に行くところ、表現力が素晴らしい。「打ち上げ花火」はお盆と皿と丼とパンを使う洒落の芸。昔ながらの幇間のとどまらず、新しい感覚を取り入れているのが良い。

雷門音助「八問答」

珍品。おめでたい末広がりの「八」尽くしの八五郎と隠居の洒落っ気が素敵だ。端正な語り口で、来年五月の真打昇進後もすくすくと育つだろうと思える素直な芸が良いと思う。

真山隼人・沢村さくら「槍の剛八」

贈賞式で長井好弘氏が隼人さんの金賞は曲師のさくらさんと一緒に獲った賞だと言ってくれたことに敬意を表していた。さくらさんは先日八十八歳で亡くなった沢村豊子師匠の一番弟子。その技量は抜群だ。隼人さんが思っていることを長井さんが言ってくれたことが嬉しかったのだろう。豊子師匠を偲ぶ意味をこめて、「豊子師匠から貰った演題」と言って、この国友忠作品を掛けた。今年は大賞を狙ってほしい。

上の助空五郎 ヴォードヴィル

ウクレレ演奏が心地良い。三味線のように♪梅は咲いたか、舟から上がって土手八町、吉原へご案内~と歌ったかと思うと、ボサノバ風に♪あんたがたどこさ、サンバさ(笑)、小唄からブラジル音楽まで幅広い。出身の飛騨高山の方言はポルトガル語に似ていると言って、♬イパネマの娘を飛騨弁で歌い上げる素晴らしさ。音楽だけではなく、スプーン2本を使って「タップを踏む音」を表現したり、帽子を自由自在に操って被ったり、その技芸は大賞も狙える。ちなみに、幇間芸の八好さんとはパントマイムを修行していた時代の顔馴染みとか。

柳家㐂三郎「徳ちゃん」

売れない噺家二人が安い女郎屋に入って、酷い目に遭わされる噺は実にニンに合っている。屋根裏の「御神輿の間」に通されたり、陸軍省払い下げの布団と毛布をあてがわれたり、挙句の果てには「はじめ人間ギャートルズ」みたいな恰好をした女が芋をかじりながら、「チューしよう」と迫ってきたり。芸人にとって女郎買いも勉強のうちなのですね、と思わせる愉しさがある。