女流講談会 なでしこくらぶ 神田あおい「夏目漱石」、そして和泉の新作十日間 弁財亭和泉「もものパフェ」

「女流講談会 なでしこくらぶ」に行きました。

「倭建命」宝井琴鶴/「鼓ヶ滝」一龍斎貞寿/「お民の度胸」田辺一邑/中入り/「夏目漱石」神田あおい/「応挙の幽霊」神田すみれ

あおい先生の「夏目漱石」。幼少期にたらい回しにされ、自分の居場所がないことを嘆いたという漱石の生い立ちに胸を痛めた。牛込馬場下の名主、夏目直克と千枝の夫婦の5番目の男の子として生まれたが、誕生日が1月5日と庚申(かのえさる)で、大泥棒になるという迷信があるため、占い師と相談して金之助と名付けられた。名主の権利をはく奪され、子沢山ということもあり、直克は金之助を里子に出す。

だが、受け入れた夫婦は貧乏で、古道具を商う大道商人をしていた。路上に商売物を並べる横に笊に赤ん坊の金之助を入れて置いておいた。それを偶然通りかかった次女ふさが見つけ、問い詰める。夫婦が言うには「うちが貧乏だということは夏目の旦那は判っているはず。金はないが、一生懸命に育てている」。だが、ふさは居たたまれず、金之助を抱き上げ、夏目家に連れ戻した。「犬猫のような扱いを受ける金之助が可哀想だ」と言うふさに、直克と千枝は「無理を言って託したのだが…、もう戻すことはできない」と判断した。金之助は一晩中泣いていた。「里親にどれだけ失礼なことをしたか。反省しなさい」と直克はふさに言ったという。

金之助が二歳のとき、今度は元書生だった塩原昌之助とやすの夫婦に養子に出される。だが、昌之助とやすは夫婦喧嘩が絶えず、昌之助は他に女を作って出ていってしまった。やすは金之助に対し、「お父さんは悪い女につかまったんだ。私にはお前しかいない」と愛してくれたが、実際は昌之助のところが預かることもあり、たらい回し同様の扱い。金之助の心の支えは文学、小説だった。小学校の成績も優秀だった。

九歳のとき、夏目家に戻る。直克・千枝のことは「おじいさま」「おばあさま」と呼ぶように躾られる。金之助は昌之助とやすを実の父母だと思っていたからだ。だが、女中が盗み聞きをして「金之助は旦那夫婦の実の息子」であることを知り、金之助に告げ口をしてしまう。優しいおばあさまは母だったのか…。でも、そんな幸せは十四歳のときに千枝が亡くなり、終わってしまう。

長男の大助は陸軍の通訳として働いていたが、体が弱く、自分は長くないと悟った。そして、夏目家で一番優秀な金之助に跡目を継がせようと考えた。金之助は大学に進んで文学を学び、小説で身を立てたいと考えていた。だが、大助はその考えを「馬鹿馬鹿しい。情けない」と否定する。「これからの日本は世界の大国と肩を並べていかなくてはならない。そのための勉学をしなくてはならない」と説く。

金之助は「これまで自分はたらい回しにされてきた。自分の居場所がなかった。そのときに慰めてくれたのが文学だ。その文学を私から奪うのか」と反論した。大助は「お前の居場所はある。この家だ。私は先が長くない。夏目家をお前に託したい」と言う。すると、金之助は自分の部屋へ行って、大切にしていた漢文の本を数冊持ってきて、庭で燃やしてしまった。ささやかな兄への抵抗だったのだろう。やがて、金之助は大学に進み、小説家になる夢を叶えることになるのだが…。夏目漱石の生い立ちにこんな苦難があったとは知らなかった。それをあおい先生が講談にしてくれて嬉しかった。

上野鈴本演芸場六月中席八日目夜の部に行きました。今席は弁財亭和泉師匠が主任を勤め、「和泉の新作十日間」と題したネタ出し興行だ。きょうは林家きく麿師匠作の「もものパフェ」だった。

「初天神」三遊亭東村山/「過払い記憶」林家きよ彦/奇術 小梅/「道灌」古今亭文菊/「魚男」古今亭志ん五/アコーディオン漫謡 遠峰あこ/「みんな知っている」林家彦いち/「新版三十石」桃月庵白酒/中入り/漫才 ニックス/「暴そば族」林家きく麿/浮世節 立花家橘之助/「もものパフェ」弁財亭和泉

和泉師匠の「もものパフェ」。きく麿師匠の作品なのに、グッと自分に引き寄せて、“和泉の噺”にしているのがすごい。フルーツ専門店で高級なパフェを食べに来たカップル、たっくんとヒロコのやりとりが実に面白い。

ヒロコの頼んだ桃のパフェの一切れをたっくんが食べてしまったことにヒロコがブチ切れる。ヒロコは前夜からホームページをチェックして、マンゴーやメロン、イチゴが並ぶ中、「桃にしよう」と決めて、ベッドに入りながら桃のパフェを食べるシミュレーションをしたという。ソース、アイスクリーム、ジュレ、生クリーム、そして果肉。6切れにはそれぞれ名前を付けた。太郎、次郎、三郎、桃之助、ピーチ№5、桃月庵桃花(笑)!

それをたっくんは「ひとつ、もらうね」と言って、一切れさらっていった。「いいよ」と言ってもいないのに。たっくんが「俺のメロンと交換して、シェアすると楽しいと思って」と言うと、「シェアって何?シェアなんて、いまどき流行らない!」と激昂する。「色々な味が食べたかったんだ」と言い訳すると、「じゃあ、フルーツパフェを頼めばよかったじゃん!」と言うのも尤もだ。

パフェを食べ終わった後、どんな映画を観に行こうか?と、たっくんが下調べをしてきた幾つかの候補を全否定し、「そんな安っぽい映画で泣くメンタルだから、仕事が長続きしないで、パチスロばっかりやっているんだ」と、ヒロコはたっくんの人格を完全否定。さらに、桃のパフェについて「自分がどこが悪かったか」ちゃんと言ってみろと徹底的に責める。たっくんが可哀想なんだけど、面白い。

というのも、たっくんが注文したメロンのパフェはメロンが4切れしかなくて、そのうちの3切れをヒロコが食べちゃったのだった。映画にしても、たっくんにセンスがないと言いながら、ヒロコが家で観ている映画はSMAPや光GENJIやチェッカーズのB級映画。とんかつ屋に行って、ヒロコはヒレにしたのに、たっくんのロースも食べたいと奪うし、ケンタッキーの部位でもキール(胸)がいいと言っておきながら、たっくんの好きなサイ(腰)の部位をかっさらうという…。

ヒロコの「こだわり」のユニークな笑いが、やがてヒロコの「身勝手」の不条理な笑いに変わるのだが、この噺は面白さを失うどころか、どんどんエスカレートしてパワーを増していく。それはきく麿落語の魅力でもあるが、このカップルはこんな喧嘩をしていても結局は愛し合っているのだろうなあと思わせる。そこに和泉師匠の話芸があるように思った。