!やっぱり!こしら!いちのすけ!春風亭一之輔「バレンタイン」、そして渋谷らくご 立川談吉「かつおぶし」

「!やっぱり!こしら!いちのすけ!」に行きました。立川こしら師匠が「あくび指南」粗筋と「元犬」、春風亭一之輔師匠が「バレンタイン」と「あくび指南」、開口一番は春風亭らいちさんで「狸札」だった。

一之輔師匠の「バレンタイン」は思い付きで作ったという新作ネタおろしだったが、面白かったあ。八五郎が隠居に「なぜバレンタインデーにチョコレートを渡すのか」と訊きに行って、「千早ふる」よろしく滅茶苦茶なこじつけで隠居が説き伏せるのが何とも愉しいのだ。

日本プロレスは力道山が主に元力士を集めて作った団体だが、力道山死後に実権を握っていた豊登が追放されてしまう。そこで、豊登はアントニオ猪木の引き抜きに成功し、東京プロレスを立ち上げる。その旗揚げ興行を盛り上げるために、どうすればいいのか。当時、“金髪の妖鬼”と渾名されていた外国人レスラーのジョニー・バレンタインを招聘し、猪木と戦わせよう!と考えた。そのときに、ジョニーが好きだったチョコレートを贈り物としてプレゼントし、招聘に成功したという…。

秋元康が国生さゆりに「バレンタインデーキッス」という歌を作ったが、それをヒットさせるために、中曾根康弘を口説き落とし、閣議決定で2月14日をバレンタインデーに制定した。歌の中に「私ちょっと最後の手段で決めちゃう」というフレーズがあるが、それは猪木がジョニー・バレンタインに対し、パイルドライバーで勝利する前に囁いた言葉だという…。

ちなみにホワイトデーに飴玉をお返しとして贈るのは、ジョニー・バレンタインの得意技がエルボースタンプ(ブレンバスター)とエルボー「ドロップ」だったことに因んだという…。一之輔師匠は天才だと思う。

配信で渋谷らくご「ふたりらくご」を観ました。春風亭昇羊さんが「おたふく」、立川談吉さんが「かつおぶし」だった。

昇羊さんの「おたふく」は山本周五郎原作で、擬古典落語の夕べで新作ネタおろししたのを聴いて以来、2回目。そのときにも書いたが、極めて質の高い落語に昇華していて、今回も惹きこまれた。この手の噺がニンにあっていると思う。

談吉さんは午後2時に出来たホヤホヤの新作を6時にまさにネタおろし。談吉さんのファンタジーな落語世界に浸った。冒頭に高座で歌った♬しゃぼん玉がサゲで効いてくるとは…ビックリした。

公園のベンチで鰹節を削っている“大将”のキャラクターが魅力的だ。公園で削ることによって、香りがよくなり、旨味が増し、店で出す味噌汁は具など何も入っていないのに、「懐かしい味がする」と評判だというのも、なんだか説得力がある。

大将は興味を持って近づいてくる男の子に、“モナリザの真似をしながら仁王像の顔をする”のを見せてあげて、「これは二人の秘密だぞ。橋田先生にも言っちゃいけない」と言う。また文科系の小説家志望のツバサ君には彼の作品を読んであげてアドバイスをする。主人公の仏法院くんが身体検査でバリウムを飲んだら爆死してしまい、ブルドーザーに生まれ変わって、魔王を轢き殺すという破天荒なストーリーに対し、真摯に助言している大将が素敵だ。

少年が歩いているところに、居眠り運転の自動車がぶつかりそうになり、大将が「危ない!」と言って、鰹節を投げると少年の頭上を飛び越えて、空中のトンビに当たる。トンビは屋根の上にいたハムスターを狙って旋回していたのだが、鰹節が飛んで来て、ピーヒョロロと鳴いた。その鳴き声に居眠りしていた運転手が目を覚まし、少年は間一髪で助かった。

これが冒頭に歌った♬しゃぼん玉につながるのだから、談吉落語は油断できない。心温まると言えばいいのだろうか。ファンタジーな味わいを覚える談吉さんの新作の魅力を再確認した。