和泉の新作十日間 弁財亭和泉「私が私が」「ラジオデイズ」

上野鈴本演芸場六月中席五日目夜の部に行きました。今席は弁財亭和泉師匠が主任を勤め、「和泉の新作十日間」と題したネタ出し興行だ。きょうは「私が私が」だった。

「やかん」三遊亭歌きち/「桃太郎」金原亭杏寿/奇術 伊藤夢葉/「トイレの死神」古今亭志ん五/「三方一両損」三遊亭歌奴/アコーディオン漫謡 遠峰あこ/「ナースコール」三遊亭白鳥/「粗忽長屋」桃月庵白酒/中入り/漫才 ニックス/「おもち」林家きく麿/粋曲 柳家小菊/「私が私が」弁財亭和泉

和泉師匠の「私が私が」。女性二人によるマウントの取り合いが壮絶で痛快だ。オダワラさんとアオヤマさんは陶芸教室で知り合い、久しぶりに神保町で会うことになり、ボンディに行ったが満員だったのでCOCO壱でランチを食べ、その後「お茶をしよう」と入った喫茶店でのお喋りがものすごい。

オダワラさんは文京区春日に新築一戸建てに住むが、それは「旦那の親が偶々土地を譲ってくれたので建てたペンシルハウス」と謙遜するも、リビングルームのソファーは仲里依紗がYouTubeで紹介していたもので、Instagramに紹介している。だけど、「他の家具はニトリやアウトレットだよー」。Webデザイナーをしているのは、「美大出身だから主婦のバイト感覚」でやっている。きっかけは先輩が「お前みたいな才能のある人間は家にくすぶっていちゃいけない。もっと才能があるということを自覚しろ。お前は表に出るべき人間だ」と言ってくれたから。謙遜の中にいちいち自慢が入っているのが可笑しい。

アオヤマさんはSNSのアカウント名が「ベル」なのは、学生時代に青山ベルコモンズでよく買い物をしていて、それで友人がそう渾名で呼んでいたから。いつもお洒落だよねと褒めると、ドクモ(読者モデル)をやっていた経験をちらつかせながら、「でも普段はユニクロにシマムラだよー」。もてたでしょう?と訊くと、「学生時代は皆可愛いし、皆もてるでしょ?」。10歳くらい年下かと思ったら同い年でビックリしたと言うと、「体形は学生時代から変わっていない。逆に10歳も年下に見られるのがコンプレックス。若い子からなめられちゃう。ジムに行っているんですか?と訊かれるけど、太れない体質なの」と否定しないのがすごい。

アオヤマさんに「北千住でタピオカ屋、錦糸町でアパレル、その後中野坂上の親戚の会社で事務だったよね。今も中野坂上?」と訊くオダワラさんはよく覚えているなあ。「それもやめちゃった。逆に親戚だと疲れて。今は実家でゆっくり休んで新しい仕事を探そうと思って。彼氏も少し休んで探した方がいいと言ってくれるし」と答える。つかさず、オダワラさんが「あれ?彼氏とは2か月前に別れたんじゃないの?」と訊くと、「新しい彼氏。一週間前に出来たの」と言って、ここぞとばかりに写真を見せる。イケメン!21歳年下!何をやっている人?と訊くと、「ライブ配信とかして、投げ銭もらう。2年前は地下アイドルをしていたみたい」。

この様子をいたたまれずに見ていた学生バイト君が「もうすぐ閉店です」と告げると、「12時に待ち合わせしたのに、もう夜の10時?!」。伝票の奪い合いをして、「ここは私に払わせて!」と言い合うオダワラさんとアオヤマさん。オダワラさんが「東小金井から神保町まで出てきてもらって申し訳ない」と言うと、アオヤマさんは「カレーの街でカレーを食べたかったし、大きな本屋をのぞいてみたかったし、JRと都営地下鉄を使えば40分だよ」、オダワラさんが「カレーもCOCO壱だったし、東小金井にもクマザワ書店があるし、40分あれば熱海にも行けちゃう」。「クマザワ書店は武蔵小金井!」。壮絶である。

この光景を見て十代のバイト君は「大喧嘩になるんじゃないか」と胸がザワザワしたが、閉店の合図の蛍の光が流れると平和に割り勘に。喫茶店の店長が「これが喫茶店の醍醐味だよ。人間味が味わえるんだ」。まだ社会に飛び立っていないバイト君はこうした「大人の人間模様」を見ながら成長するのだろう。

上野鈴本演芸場六月中席六日目夜の部に行きました。今席は弁財亭和泉師匠が主任を勤め、「和泉の新作十日間」と題したネタ出し興行だ。きょうは古今亭駒治師匠作「ラジオデイズ」だった。

「子ほめ」入船亭辰むめ/「エステサロン」鈴々舎美馬/奇術 小梅/「お天気ランド」古今亭志ん五/「好きと怖い」三遊亭歌奴/アコーディオン漫謡 遠峰あこ/「ごくごく」林家彦いち/「だくだく」桃月庵白酒/中入り/漫才 ニックス/「寝かしつけ」林家きく麿/浮世節 立花家橘之助/「ラジオデイズ」弁財亭和泉

和泉師匠の「ラジオデイズ」。駒治師匠の名作であるが、和泉師匠によく似合っている。思わず涙が出た。ラジオというメディアはテレビと違って、スタジオのパーソナリティとそれに耳を傾けるリスナーが1対1で繋がっているような温かさがある。ラジオ東京の深夜放送「チャコのオールナイト東京」の中学生リスナーの人間模様が素敵だ。

チャコはチャコ&カフカというデュオの一人だが、メインボーカルのカフカに較べて存在感が薄い。だが、それがかえって隠れたファンの支持を集め、多くのリスナーがハガキを送ってくる人気番組になっているというのが良い。中学2年生のコバヤシシュウジもその一人で、「ベスト盤は買わない」等のこだわりがいかにも隠れファンだ。わざわざ見つからないように隣町のポストにハガキを投函しに来たところ、同じ中学のアイドル的存在のヤマダシゲコにバッタリと会って、お互いが実はチャコファンであることがわかって親友になるというのも胸キュンだ。

彼らの住む田舎町は深夜1時から3時まで放送の「チャコのオールナイト東京」が2時台は48局のネット外となり、聴けないという設定も面白い。お嬢様であるシゲコは母親がチャコのファンであったため、祖父が裏山に巨額を投じて大きなアンテナを建て、半蔵門からの電波が届くようにしたという。シゲコはコバヤシに「一緒に2時台を聴こうよ。1時台よりずっと面白いんだから」と誘うというのも良いなあ。

コバヤシがシゲコちゃんをナンパしたという噂が出回り、ヤンキーのカワイ先輩がコバヤシをボコボコにしてやる!と探し回ったのをきっかけとして、コバヤシの友人のニシムラ、スケバンのオオノアスカらも加わって田舎町の夜にシゲコの家の付近に偶然結集した。

そして、「チャコ&カフカ解散か」という怪情報が世間を賑わせ、チャコが今夜のラジオで真相を語るという。そのとき、4人は皆、チャコのファンで、番組のヘビーリスナーであることが判り、それぞれのラジオネームが明かされる。カワイ先輩はファンシーストロベリー、スケバンのアスカはおののいもこ、ニシムラはパジャマボーイ、そしてシゲコは世界のヤマちゃん。何と、チャコにハガキをよく読まれる四天王が揃っていたのだった!

コバヤシも加わった5人はシゲコの案内で裏山の巨大アンテナに行き、チャコのエンディングトークを聴く。チャコは言った。「解散はしません」。喜ぶチャコファンたち。そして、チャコは最後のハガキを読んだ。「中学2年の平家の落人さん」。コバヤシシュウジのラジオネームだ。初めてハガキが読まれた!そしてリクエストした大好きな曲「ラジオデイズ」が流れた。深夜放送を聴きながら受験勉強をした青春時代を思い出し、胸がキュンとなった。