【大相撲夏場所】大の里が2場所連続優勝、横綱昇進が確実に

大相撲夏場所は大関・大の里が14勝1敗で2場所連続、4回目優勝を飾り、場所後の第75代横綱昇進を確実にした。
圧倒的な強さであった。初日から綱獲りのプレッシャーなど全く感じさせないパワーとスピードで白星を重ね、後続の力士に星の差3ツをつけて十三日目で優勝を決めた。十三日目での優勝決定は平成27年初場所の白鵬以来だ。千秋楽に横綱の豊昇龍に敗れて、残念ながら全勝優勝は逃したが、文句ない成績での横綱昇進である。
右差し、左おっつけで前に出る相撲が益々進化している。それに加え、両手突きもしくは右かち上げの立ち合いから、突き押しで一気に前に攻め込む取り口に磨きがかかった。悪い癖だった叩いて呼び込んでしまう相撲はすっかりなりをひそめ、「隙がない」印象だ。初土俵から所要13場所での横綱昇進は輪島の21場所を大きく塗り替える記録だが、ここまで順当に勝ち上がって、「横綱になるべくしてなった」とも言える。寧ろ、今後どれだけの大横綱になるのか、期待したい。
横綱・豊昇龍は千秋楽に先輩横綱の意地を見せて、大の里の全勝優勝を阻んだのは今後東西の両横綱として角界を背負っていくという点で意味の大きな勝利だった。ただ、新横綱で迎えた先場所に途中休場し、再起をかけた場所だったが、三日目に王鵬、四日目に阿炎に金星を配給してしまった。十二日目に関脇・霧島に敗れたことで大の里に十三日目に優勝を早々に決められてしまったことは残念だった。新しい横綱が誕生することを発奮材料にして、二人がライバルとしてしのぎを削る「大豊時代」とでも言うべき時代を築いてほしい。
小結の若隆景が12勝を挙げ、6回目の技能賞。右膝の大怪我で幕下まで陥落していたが、ここまで這い上がってきて、三役としては令和4年秋場所以来の二桁勝利で大関争いに加わった。関脇の霧島も11勝で、4回目の技能賞。去年名古屋場所に大関を陥落して、しばらくは首を痛めた影響もあったのか良い成績を挙げられなかったが、大関復帰を目指す起点を作った。大の里が横綱に昇進したことで、琴櫻の一人大関となるため、早い大関誕生が望まれる。10勝を挙げた関脇の大栄翔を含め、この三人で競い合ってほしい。
今場所を盛り上げた功労者として、僕が一番に挙げたいのは安青錦だ。先場所、新入幕で11勝、今場所も同じく11勝で2場所連続の敢闘賞だ。特に今場所は九日目に勝ち越しを決めると、若隆景、琴櫻、大栄翔と連日役力士との対戦が組まれた上での成績だ、前傾姿勢で低く攻め、上体が起きない体勢から繰り広げる技の多彩さは寧ろ、技能賞をあげても良いのではないかと感じた。
そして、38歳にして連日若々しい相撲を取って10勝を挙げた佐田の海が令和4年夏場所以来、3回目の敢闘賞を受賞したことは喜ばしい。稽古熱心の賜物だと解説の琴風さんが評価していたが、若手はこういう力士を手本にしてほしいという意味もこめた受賞だろう。また、惜しくも敢闘賞を逃したが入幕して初めての勝ち越し、それも二桁勝利という実績を挙げた小兵の朝紅龍は連日きびきびした相撲で土俵を沸かせた。
取組編成に若干の苦言を呈するならば、大の里と関脇・霧島の対戦が組まれなかったのはいかがなものか。全勝街道を突き進む大の里は九日目が宇良、十日目が一山本との対戦だった。そして、十二日目は伯桜鵬との対戦になったために、霧島との対戦がなくなった。伯桜鵬は九日目に勝ち越しを決めたので、前頭七枚目とはいえ、上位との対戦は当然予想された。だが、十日目に大栄翔、十一日目に豊昇龍と戦い、敗れている。その後も十三日目には霧島と対戦。結果、8勝7敗に終わっている。結果論かもしれないが、大の里と伯桜鵬戦を組むのなら、宇良か一山本との対戦を崩すべきだったような気がする。
大関の琴櫻はどうしたのだろう。先場所に続き、8勝7敗に終わった。クンロク大関という良くない渾名が昔からあったが、それを下回るハチナナ大関。大関は2場所連続して負け越さないと陥落しない特権があるが、そのスレスレをいっているのは非常に不甲斐ない。相撲内容も自分から攻めていくというよりは、相手に攻め込まれる取り口がほとんどで、あの大きな体を生かした力強さが全く感じられない。今後の奮起が望まれる。
十両は草野が13勝2敗で連続優勝を果たした。新十両の2場所連続優勝は平成20年九州、21年初の翔天狼以来ということだ。また、若碇が12勝3敗で準優勝。この二人が新入幕して来場所以降活躍するのも楽しみである。
元小結の北勝富士が引退、年寄大山を襲名した。金星7個、三賞3回という実績もさることながら、記憶に鮮明なのは令和5年名古屋場所の優勝争いだ。千秋楽に伯桜鵬、豊昇龍と3敗で並び、優勝決定戦となり、惜しくも優勝を逃したが、懸命に北勝富士を応援したのを覚えている。32歳。膝の怪我が限界だったのだろう。お疲れ様でした。今後は後進の指導に尽力していただきたい。
また、弓取り式最多出場記録を持つ伊勢ケ浜部屋の聡ノ富士が引退した。48歳。平成24年九州場所に日馬富士が横綱に昇進すると、翌年初場所から弓取り式を勤め、その後の照ノ富士の横綱時代を経て、令和6年名古屋場所に江戸の華の持つ637回の記録を抜いた。テレビ桟敷でもおなじみの顔として親しまれた。最高位は幕下55枚目だった。お疲れ様でした。今後は飲食業に就くそうだ。ご活躍をお祈りします。