立川談洲ツキイチ落語会「たちきり」、そして鈴々舎美馬独演会「エステサロン3」

「ふくらぎ~立川談洲ツキイチ落語会」に行きました。「已己巳己」「うざん」「たちきり」の三席。

「たちきり」。柳橋の芸者・小糸に会うために店の金を使いこむ若旦那を懲らしめるために、番頭は百日の蔵住まいを命じた。若旦那のためを思って、というのはよくわかる。だが、毎日届く小糸からの手紙を放置していたのは如何なものか。百日が終わると、若旦那にその手紙を見せ、「これが百日続いたら、大旦那にお願いして添わせてあげようと思った」と言うが、だったら現在若旦那は蔵住まいをしているのだということを遣いの者に伝えるなどの配慮があっても良かったのではないかと僕は思う。

若旦那が百日ぶりに小糸に会おうと柳橋を訪ねると、かあさんは白木の位牌を出して、「これが小糸です」と言う。信じられない若旦那は「どうして?」と当然問う。「どうして?そんなことを訊かないでください。そんなこと訊かれるとあなたのせいと言いたくなるじゃないですか」。かあさんは小糸の気持ちを代弁するように語る。

若旦那と最後に会ったとき、芝居見物の約束をした。朝寝坊の小糸が珍しく早起きして支度をしていた。だが、昼過ぎになっても若旦那は来ない。約束を忘れたのかな?どうしたんだろう。何かあったのかな?翌日に「かあさん、お手紙書いてもいい?」と小糸が訊くので、二人を引き裂いてはいけないと、許した。毎日、毎日手紙を書いたが、一向に返事が来ない。ひょっとして嫌われるようなことをしたかな?やっぱり嫌われたのかもしれない。生きていてもしょうがない。いくら「もう少し待ってみようよ」と言っても、若旦那からの返事がなければ悪い方へ悪い方へと考えるのは当然だ。

そのうちに食事が喉を通らなくなり、痩せこけた。あの子は十一のときにここへやって来た。元々体の強い子ではなかった。小さくて細い体に似合わず、真っ直ぐな子で、周りの人間になじめずに言い争いをすることもあった。でも、あなたに出会ってからは、本当に嬉しそうに毎日を暮らし、子どものように笑う明るい子になった。それなのに、若旦那と会えなくなって、華奢だった体が弱り、床から起き上がれなくなった。布団の上に若旦那に買って貰った櫛や簪を広げて、小間物屋みたいにして、思い出を語っていた。それは子どもが宝物を自慢しているようだった…。

もう少ししたら、「勘弁な」と言って若旦那が罰悪そうに来るよと励ますと、「でも、捨てられちゃったみたい」と言って笑って、それからは手紙を書かなくなった。そのうちに、若旦那が誂えてくれた比翼の紋が入った三味線が届いた。あの子はね、三味線が苦手でね、泣きながら稽古していたんですよ。でも、私が叱りつけて、稽古に通わせた。その子が「弾きたい」と言った。私と若い子で体を支えて、ようやく一撥。本当にね、あの子、上手になったんですよ。「小糸、良い音だね」と言うと、嬉しそうに笑った。そして、「かあさん、少し疲れた。横になっていい?ごめんなさい」。そう言ったのが最期でした。

若旦那が百日の蔵住まいのことをかあさんに伝えると、かあさんは「じゃあ、手紙は…」と言って無念そうな顔をした。「小糸、すまない」と言う若旦那に、「きょうは三七日だからお線香をあげてください、そして供養に一杯飲んでください、口も濡らさずに帰すとあの子に怒られそう」とかあさんは頼む。

盃に口をつけると、三味線が鳴る。「あの子が会いにきたんですね」。若旦那は叫ぶ。「小糸!聞いているかい?私は生涯、女房と名の付く者は持たない。そっちへ逝ったら、一緒になってくれ。それまで待たせることになってしまうけど、すまないが頼む」。かあさんが「この言葉を胸に綺麗なところへお参りしておくれ」。談洲さんの心に響く悲恋物語であった。

鈴々舎美馬独演会に行きました。「エステサロン3」「お菊の皿」「宿題」の三席。

「エステサロン3」。自身のエステシャン経験を生かした創作落語「エステサロン」の第3話。僕は第1話は何度も聴いたことがあるが、2話と3話は聴いたことがなかった。主人公のラブちゃんが全国1位の売り上げ実績を挙げ、相模原店の店長になったのが、この第3話だ。ところが、町田店が顧客の引き抜きを図ってきたので、どうするか。レディースの元総長をやっていたサユリが朝礼で気合いを入れるが、気合いでどうとなるものでもない。そこでラブちゃんはバイトテロ、ハニートラップ、マルチ商法といった可愛い顔に似合わないモラルに反する提案をして、次長に窘められるところが、笑いのツボ。次長が「昭和の普通」をやりましょうと提唱するが、ラブちゃんが逆に昭和の時代こそコンプライアンス違反の嵐ではなかったかと反論するのも面白い。令和の新しい笑いを高座に感じる。

「宿題」は桂文枝作品。美馬さんが文枝師匠にお願いしてオンラインで稽古をつけてもらったそうだが、個人的な感想としては昭和っぽい古臭い創作落語は柳家はん治師匠などに任せて、美馬さんは自身の若い感性を生かした創作にチャレンジしてほしいと思った。小学生の息子が塾で出された「つるかめ算」や「旅人算」などの文章題に対し、父親は戸惑ってしまい、京都大学卒業の新入社員に手ほどきを受けるという内容。だが、僕は中学受験の経験があるのではっきり言えるが、この手の文章題は基本中の基本であり、そこに鋭いとは言えない突っ込みを入れてもちっとも面白くない。立川志の輔師匠の「親の顔」の持つ高い完成度とは比べ物にならないと感じた。