俺のミヤトガワ 三遊亭兼好「宮戸川」(下・改作)、そして集まれ!信楽村 柳亭信楽「カルボナーラ届けたい」

「俺のミヤトガワ」に行きました。

「桃太郎」三遊亭けろよん/「宮戸川」(上)柳亭小痴楽/「宮戸川」(下・改作)三遊亭兼好/中入り/「バック・トゥ・ザ・半ちゃん」柳家三三

兼好師匠の「宮戸川」は本来の(下)が陰惨な内容なので、改作を創作してほしいと主催者である、らくご@座さんからの依頼を受けての改作作品。良く出来ていて、兼好師匠の創作力に改めて感服した。

半七の父親・善兵衛と叔父・久太郎が碁を打っている。弟の久太郎の方が優勢だが、兄の善兵衛はしぶとい。「兄貴は諦めが悪いな。参りましたと言えばいいのに」、これは碁にかこつけて、半七とお花が夫婦になることを説得しているのだった。どうやら、善兵衛はお花の母親である船宿女将のおさよに恨みがあるようだということが判った。「俺は許さないと半七に言っておけ」。

久太郎はおさよを訪ね、探りを入れる。おさよは言う。「善ちゃんは真面目で強情だからねえ」。嫌われている理由の心当たりがあるという。それはお互いが若かったときのこと…。

おさよが善兵衛に一緒に駆け落ちをしてくれと頼んだ。実はおさよの父親が縁談を持って来て、きょうにも許婚を連れて来るのだという。その前に逃げてしまいたい。善兵衛はおさよの言いなりになって、船に乗り込み、漕いだ。船宿の船頭たちは主人に命じられて、「おさよさんを拐かした米屋の倅を捕まえろ」と追ってきた。船は宮戸川上流へ。雨が降ってきた。へっぴり腰の善兵衛に代わって、おさよが船を漕いで逃げ、丘に登ってお地蔵様の祠に隠れた。

おさよは雨がやんだら帰って、父にちゃんと訳を話すという。でも、父の持ってきた許婚は断れないだろう。だけど、「本当に好きな人と駆け落ちの真似事をしたかった」のだと本心を明かす。「でも、これで十分」。

おさよの言葉を聞いて、善兵衛は「本気なら、駆け落ちしてもいいよ。誰も知らない場所で二人で暮すのもいい」。だが、おさよは「できっこない」。善兵衛はギュッと抱きしめる…だが、それはおさよではなく、お地蔵様だった(笑)。後は船頭たちに見つかり、ボコボコにされた。

久太郎がおさよから聞いた話を善兵衛にすると、「笑っていたか、あのババア。昔の話を根掘り葉掘りしやがって」。久太郎はおさよが言っていた台詞を伝える。「あのときに善ちゃんに駆け落ちしてもいいと言われて、涙が出るほどに本当に嬉しかった。だから、今はこうして幸せに暮らせている」。そう、おさよは言ったという。

善兵衛が言う。「半七に言っておけ。お花がどんな女か知らないが、おさよの娘のことだ。尻に敷かれないように、気をつけろとな」。久太郎が「それは夫婦になることを許すということか?」「仕方ない」。

あの強情で一歩も譲らない父親が半七とお花が夫婦になることを認めたという…。とても素敵な「宮戸川」(下)が出来上がった。

「集まれ!信楽村~柳亭信楽勉強会」に行きました。「松曳き」「イワヌマン」「カルボナーラ届けたい」の三席。開口一番は三遊亭けろよんさんで「本膳」だった。

「カルボナーラ届けたい」は三題噺の会「今日日新新」で最近創作した作品。非常に面白かった。傑作と言っていいだろう。カルボナーラ届けたい男がカルボナーラ食べたい女にカルボナーラを届けに行くというストーリーなのだが、その破天荒さが実に愉しい。男はピザとか寿司とかハンバーガーとかは一切拒絶し、カルボナーラのパスタに特化した専門デリバリーというニッチ過ぎる業者であるのがまず可笑しい。そして、届け先の女性に関しては「城に住んでいる」という情報しか手掛かりがないという…。

カルボナーラ食べたい女は城に閉じ込められ、本当は外に出て、青い空や海や虹を見たいのだが許されず、一切の自由を奪われ、好きな本を読み、好きな時間に寝て、好きな食べ物を食べるのが唯一の楽しみ。「それが幸せというものです」と門番さんに言われている。この女性が海で鮫に遭ったり、山で熊に遭ったり、空の小鳥の囀りを聞いたりすることができない悲しみを乗り越え、ひたすらに「カルボナーラ食べたい」と叫ぶミュージカル風の演出も面白い。

カルボナーラ届けたい男はカルボナーラを携えて、思い付く城を手当たり次第に訪ねるが…。小田原城では「ペスカトーレ食べてる女」、名古屋城では「アマトリチャーナ甘噛み女」、大阪城では「ペペロンチーノぶん回しおばさん」、姫路城では「ジェノベーゼを抹茶と言い切るババア」、熊本城では「ボンゴレのアサリの貝殻の水着を着ているタケダクミコ」にしか出会えない。タケダクミコに「あなたが捜している女性は洋風の城にいるのではないか」と言われ、男はシンデレラ城を目指すのも面白い。

途中、スピード違反で追いかけるイカ墨パスタ黒バイクポリスに捕まりそうになったり、投げペペロンチーノカウボーイに出会ったときは「お前の姉さんは大阪城にいる」と教えてあげたり、その他ナポリタンや明太子やタコと大葉のポン酢さっぱりパスタ等、いくつもの行く手を阻む障害がありながらも突き進むカルボナーラ届けたい男…。

シンデレラ城に閉じ込められたカルボナーラ食べたい女は城に濁流の勢いで穴が空き、そこにあった回転木馬に乗って自由を謳歌することができた。青い空、青い海、虹も綺麗だ!自由って素晴らしい!そして、「カルボナーラはまだかしら?」と待っているところに、カルボナーラ届けたい男が駆けつける。

「私はカルボナーラ食べたい女よ」「私はカルボナーラ届けたい男だ」「頂戴!」「受け取れ!」。二人はようやく巡り会えたが…という破天荒だけど、終始パスタにこだわった笑いが絶えない高座に興奮を覚えた。