百栄てきぃーら!! 春風亭百栄「お咲甚兵衛」

「百栄てきぃーら!!~春風亭百栄独演会」に行きました。「野ざらし」「女子アナインタビュー」「お咲甚兵衛」「鼻ほしい」「フェルナンド」の五席。
「お咲甚兵衛」は百栄師匠が2012年に創作した噺だが、ずっと掛かる機会がなくて、僕は今回初めて聴いた。色々な商売に手を出したが、人の好さも手伝ってことごとく失敗し、借金の山を築いた甚兵衛は女房のお咲にどうするのかと詰問されるが。甚兵衛は「漫才をやる」と言い出す。「ジンジンジンジン、甚兵衛さん!」というブリッジに乗ってくだらない駄洒落を繰り出す甚兵衛が愉しい。
お咲を強引に相方にして、夫婦漫才として落語協会に入る。そして、東洋館での初舞台。だが、乗り気ではないお咲は舞台でも「お前さん、働いておくれよ」とぼやく始末。甚兵衛が「私たちの初舞台。この歌舞伎座でできるとは」とボケて、お咲にツッコミを催促するが、「お前と所帯を持つときに言ったじゃないか。表通りの一軒家も裏長屋の三畳一間も一緒だって。歌舞伎座だろうが、東洋館だろうが、同じ気持ちだよ」。
甚兵衛が「拍手はこちらの席の方が多いようです。こちらを中心に漫才をやりましょう」とボケて、お咲にツッコミを催促するが、「そうしたらいいじゃないか。お前さんは皆に好かれよう、皆にいい顔をしようとする。それが駄目なんだ。半分に好かれて、半分に嫌われる。それでいいんだよ。それが男の度量だよ。嫌われちまいな!」。
甚兵衛が「先ほど、簡易裁判所に行ってきましてね。離婚調停の手続きをしてきました」。すると、お咲が真面目な顔で「私も一度は離婚を真剣に考えた。大家さんに相談したら、別れちまえと言われた。でも、好き同士じゃなかったのかい?お前さんがいないと甚兵衛さんは生きていけないよと言われた。随分と貧乏もした。一杯のうどんを二人ですすったこともある…」。甚兵衛が「すまなかった。辛い思いをさせてごめん」と言うと、お咲は「そうやって優しくしてくれるから、泣いたんだ。別れられるわけがないだろう。大好きなんだから!」。これを聞いた甚兵衛は「お咲!」と言って、女房を抱きしめる。
この「泣きオチ」の漫才が大層な評判となり、M1グランプリでも夫婦漫才初の優勝を遂げたという…。百栄師匠しか創れないであろう、独創的な唯一無二の高座。面白かった。