講談協会定席 神田春陽「清水次郎長伝」蛤茶屋の間違い~三本椎の木お峯の茶屋

上野広小路亭の講談協会定席に行きました。
「大岡裁き しばられ地蔵」一龍斎貞司/「太陽のアーティスト 岡本太郎」宝井一凛/「小林多喜二とその母」宝井琴桜/中入り/「無筆の出世」一龍斎貞友/「清水次郎長伝 蛤茶屋の間違い」神田春陽
今月の上野広小路亭定席二日間と来月の津の守講談会定席三日間、都合五日間連続で神田春陽先生が主任を勤め、「清水次郎長伝」の荒神山の部分を連続で読むと知って、全部通うことにした。
「蛤茶屋の間違い」。上州無宿の熊五郎は富田の蛤茶屋の「みすじ」の看板娘、お琴に入れあげた。だが、お琴には“いい仲”の男がいた。加納屋利三郎である。熊五郎は安濃徳次郎の身内、利三郎は神戸の長吉の身内で対立関係にある。熊五郎は賭場に利三郎がいると聞き、喧嘩を売ろうと乗り込む。
勝機を見計らって、利三郎が半と張れば丁、丁と張れば半と逆に逆に張り、熊五郎が勝ち進む。利三郎が「熊兄ィ、その五貫束をちょっとこっちへ廻してくれ」と言うと、ここぞとばかりに熊五郎は「糞を食らって西へ飛べ」と見事な啖呵を切る。だが、利三郎は物怖じしない。懐を指して、「ここにはまだまだ切り餅があるんだ」と二十五両包みを出して見せる。
そして、「上州が博奕打ちの本場と成り上がったつもりかもしれないが、それは成り下がったと言うんだ。この宿無し!…お琴の件か?あれは向こうが添いてくれと言うから夫婦約束をしたまでよ。あんな熊五郎にはニッコリ笑って手の一つでも握ってやれと言ったが、あんな奴の手を握るくらいなら、豚の尻尾を握った方がましだとぬかしやがったよ」。
あわや大喧嘩になるところだったが、熊五郎の親分の安濃徳次郎は千人から二千人の身内がいる。一方、利三郎の親分の神戸の長吉の身内はせいぜい三十~四十人。ここが潮時と利三郎は思って、切り餅の封を切って散らばった二分金を「お前らにくれてやる」と言う。「ありがとうございます」と二分金に群がる男たちを見て、「お前の身内もだらしのない奴が多いんだな」と嫌味を言って去っていく。
面白くない熊五郎も賭場を去るが、帰り道に信州松本浪人の角井門之助に出会う。安濃徳次郎の用心棒だ。角井が「喧嘩をしてきたな」と問うので、利三郎との一件を話すと、「お前は馬鹿だと思っていたが、まんざらの馬鹿じゃないようだな」と言う。角井いわく、利三郎の親分の神戸の長吉は一日で千両の金が動く荒神山の賭場を親の代から持っている、その賭場を安濃徳次郎に奪わせようと喧嘩を仕掛けたのだなと言う。深読みであるが勘違いである。熊五郎は今さら「女の一件が元」とは言えず、首を縦に振る。
「では、わしが腕を貸そう」と角井は言って、安濃徳次郎の身内が利三郎に殴り込みをかけるが、利三郎は留守だった…。と言って、翌日につなげた。
上野広小路亭の講談協会定席に行きました。
「太平記 楠木の泣き男」神田伊織/「加賀騒動 服部と稲垣の武士気質」宝井琴凌/「高嵩谷の鍾馗絵」一龍斎春水/中入り/「秋色桜」神田菫花/「清水次郎長伝 三本椎の木お峯の茶屋」神田春陽
「三本椎の木お峯の茶屋」。熊五郎と角井ら安濃徳次郎の身内は神戸の長吉のところに殴り込みをかける。だが、人っ子一人いない。兎に角、家の中のものを叩き壊せ!と滅茶苦茶にしてしまった。すると、奥の間に灯が見える。近づくと、婆さんだ。長吉の母親が眼鏡をかけて縫物をしていた。「ばばあ!」と声を掛けるが、返事がない。耳が遠いのか、目が見えないのか。何度も「ばばあ!」を繰り返すと、婆さんは一言「喧しい!」。
「長吉の居所を教えろ」と迫るが、「知らない」の一点張り。男たちの脅しにもビクともせず、「殺せるものなら、殺せ!」。角井のことは「武士のくせに博奕打ちの用心棒に成り下がって」と嫌味を言う。肝が据わっている気丈な婆さんを相手にしても仕方がないと、「三本椎の木お峯の茶屋で待っていると伝えろ!」と言い残して、安濃徳次郎の身内たちは引き揚げた。
すると、神戸の長吉の子分たちが母親のところに現れる。怖いので「縁の下に隠れていた」と言う。「そんなに度胸がないなら、博奕打ちをやめちまえ」と一喝する婆さんが良い。そこへ用足しから長吉が帰ってきて、殴り込みが来たことではなく、子分が逃げたことに驚いた。「安濃徳に恨みを買われる覚えはないが」と不思議に思っていると、そこに利三郎が現れ事情を話す。全ては富田の蛤茶屋の看板娘のお琴に対し、上州無宿の熊五郎が横恋慕したことが原因というのが何とも情けないけど…。
長吉の母親が「頭数を揃えて、片っ端から叩き斬れ!」と檄を飛ばす。神戸の長吉一行は三本椎の木お峯の茶屋に向かう。そこに、一人の小僧が「待っておくれ、若旦那!」と呼び止める。利三郎が堅気だったときにお店に奉公していた松吉だ。「恩のある若旦那の助っ人をして来い」と母親に言われてきたのだという。利三郎は「気持ちは嬉しい。心意気はしっかり受け取ったから、帰っておくれ。ありがとよ」と松吉に言う。
お峯の茶屋。安濃徳の身内三十三人vs神戸の長吉身内三十三人。熊五郎が「お前の命とみすじのお琴は俺がもらった!」と言いながら、利三郎に斬りかかると、そこにさっきの松吉の槍が熊五郎を突いて、熊五郎は倒れた。「ご恩を返しましたよ」と松吉。だが、利三郎も角井門之助に斬られて殺されてしまった。
そこに、「御用だ!」の声。一同は蜘蛛の子を散らすように去る。殺されたのは、上州無宿の熊五郎と加納屋利三郎の二人だった。
これをきっかけに、荒神山の賭場の権利は安濃徳次郎の手に渡る。神戸の長吉は義兄弟の盃を交わした吉良の仁吉の力を頼ることにする。だが、仁吉に女房お菊は徳次郎の妹だった…。ここで終わって、四月の津の守講談会の「仁吉の離縁場」へとつなげた。