きよ彦BoB!!+ 林家きよ彦「過払い記憶」、そして白酒むふふ 桃月庵白酒「宿屋の仇討」

「きよ彦BoB!!+~林家きよ彦勉強会」に行きました。「過払い記憶」と「憧れ」の二席と今月31日に「擬古典落語の夕べ」でネタおろしする新作の導入部分を少々。ゲストは立川談吉さんで「当たりの桃太郎」だった。
擬古典の導入部は、源兵衛という萬屋を営んでいる男の女房お久が病に伏していて、その病に効く薬草(花)を摘みに山に登る。だが、雨が降ってきて崖に落ちてしまい、ある村に迷い込む。ドドンパッ!という音が聞こえてきて、それはその村の儀式の最中だと老婆が教えてくれた。そして、病に効く花は村の名産で、譲ってあげてもいいが、約束を守ることが条件だと言う。「この花のことは秘密にする、そして今後一切の嘘をついてはいけない。また、ある副作用があることも承知する」というものだった。
源兵衛は薬草を譲ってもらい、その村のお国という名前の年頃十七、八の娘に送られて、家に帰ることができ、その薬草のおかげで女房のお久の病が治った…。というところまで。様々に張られた伏線が今後どのように展開していくのか?「擬古典落語の夕べ」は後日配信もあるので、楽しみにしたい。
「過払い記憶」。僕は初めて聴いたが面白かった。ミキの母親が認知症になったと思ったら、それは「記憶を売り買いしていた」ことが原因だったという発想がユニークだ。メルカリのようなシステムで自分の記憶を売って、他人の記憶を買うという時代になっていて、大谷翔平の日ハム時代の記憶やら、「記憶にございません」と発言した国会議員の記憶、特にロッキード事件関係者の記憶が人気というのが面白い。記憶が入ったUSBメモリーを頭に挿入する仕草も可笑しい。
ミキの母親は自分の記憶を全部売ってしまい、他人の記憶を3万年分くらい買ってしまったために、借金ならぬ“シャッキオク”が膨大に増えてしまっていた。必死に六法全書を覚えて売ったり、古典落語百席を覚えて売ったりしてはいるが返済が追いつかない。このシャッキオク地獄から脱するために、「過払い記憶」が戻ってこないか、法律事務所へ相談すると…。母親の一生分の記憶が戻ってきたという…。近未来のSFのような落語で愉しかった。
談吉さんの「当たりの桃太郎」も奇想天外で面白かった。おばあさんが川で洗濯をしていると、桃が流れてきて、おじいさんと一緒に庖丁で割ると、中から玉のような男の赤ん坊が出てくる。だが、僅か6秒の間に赤ん坊は少年、青年、中年を経て老人となって死んでしまったので、川に戻した。翌日もまた桃が流れてきたが、同じことが起きる。毎日、それが繰り返され、おじいさんとおばあさんはそれを「はずれ」と呼んだ。「もう、桃を拾うのはやめにしましょう。急速に終わる人の一生を見るのはつらい」と言って、「これが最後だ」と川で待ち受けると、もう桃は流れてこなかった。
もう桃のことはすっかり忘れていたある日。おじいさんが切り株に座って、おばあさんの作った握り飯を食べていると、地震のような大きな揺れとともに、川の上流から大量の桃が流れてきた。その中に「当たり」と書かれた桃がある。その他の桃の中の赤ん坊はおじいさんの後頭部にぶつかって、皆息を引き取っていく。おじいさんは必死に「当たりの桃」を抱えておばあさんのところへ。庖丁で割ると、眩い光を放って、オギャーッと赤ん坊が出てきて、成長は少年で止まった。「当たりだ!」と泣きながら喜ぶ、おじいさんとおばあさん。おじいさんが桃汁をいっぱいに浴びるという情景描写がとても可笑しかった。この少年が桃太郎となり、鬼退治に行くという…「桃太郎」の序とするところに、談吉さんの才能を感じる。
「白酒むふふ~桃月庵白酒独演会」に行きました。「宿屋の仇討」と「花見の仇討」の二席。開口一番は桃月庵ぼんぼりさんで「黄金の大黒」、ゲストは三味線漫談の林家あずみさんだった。
「宿屋の仇討」。神奈川宿の武蔵屋の若い衆、伊八を「ニワトリの生き血を吸う…イタチ」「炊いた飯をいれておく…お鉢」「松田聖子の本名…蒲池」「スズキ目の魚…イサキ」とバリエーション豊かに間違える言葉遊びが愉しい。
隣の部屋の侍に五月蠅いとクレームを言われた江戸っ子三人組の金ちゃん、六ちゃん、源ちゃん。巴寝で「好きな子を言い合うか」と修学旅行気分なのも面白いが、相撲の話題になって「髙安はまた駄目だったな」と言って、金ちゃんは木村庄之助、六ちゃんは輪島を推すのが好きだ。「輪島は黄金の左だぜ。左廻しを掴んだら絶対に離さない」と言う六ちゃんに、源ちゃんが「年寄株は手放したのに」と突っ込むのが可笑しかった。
「花見の仇討」。こちらも六ちゃんと金ちゃんの活躍が楽しい。「巡礼兄弟」を「10円頂戴」、「親の敵」を「マヤの遺跡」そして「山のマタギ」とする言葉遊びは白酒師匠の得意とするところだ。熊さんから渡された巡礼兄弟の台詞を「読み聞かせ」のように読む金ちゃん、「汝は…」のところを「石破茂よな!」とはめる六ちゃん、名コンビだ。
「せーの!いざ、尋常に勝負!勝負!」までの割り台詞を学芸会のように演じる二人を見て、本物の武士が巡礼兄弟だと思うこと自体あり得ないのだが、そこが落語という芸能の面白いところだろう。