立川吉笑 三題噺三日間「たまちゃん」「セルジオ・ペレス」「テラミスの由来」

配信で渋谷らくごの立川吉笑三題噺三日間を観ました。
初日 「告白」「御当地ドラマ」柳亭信楽/「花見の仇討」柳家小八/「浪曲偉人伝」玉川太福・玉川鈴/「たまちゃん」立川吉笑
「たまちゃん」は「ゴマフアザラシ」「御三家」「ドーナツ」からの創作。人気者のアザラシ、ごまちゃんの集客力を見込んだ露店商二人組の会話で進行する演出が面白い。「テキヤ」と一般に呼ばれる露天商はいわゆる“反社”の人たちが仕切っていて、ごまちゃん人気のお陰で胡麻入りの「ごまちゃんドーナツ」3個入り800円が売れに売れ、5日で300万円を売り上げ大儲けしている。
兄貴分がこのごまちゃんを双眼鏡でよく見てみろと弟分に言う。すると、レンズ越しに映し出されたのはアザラシではなく、「つるっ禿げのおっさん」だった。その正体は「うちの組にいたタドコロ」だと説明する。組の売り上げをくすねようとしたことが発覚し、口をガムテープで封じられ、海に沈められたのだ。かすかに「助けてください」という声が聞こえる。水族館にいる海獣と呼ばれる動物は全部債務者なのだという。さらに言うと、「丸いもの」は全て債務者だという。
多摩川で人気になったたまちゃんも、「うちの組にいたタマキや」。競艇に狂い、莫大な借金を作り、オホーツク海に沈められた。最初はアシカだったが、耳たぶを切られてセイウチになり、牙をもがれてアザラシになった。たまちゃんブームの7年後にはファミレスの配膳ロボットになり、今はこうしてバランスボールになって「俺たちの尻に敷かれている」という…。
子どもたちの人気者のアザラシが、実は反社の闇に葬られた債務者という発想が面白いと思った。
二日目 「落語の仮面②嵐の初天神」弁財亭和泉/「あくび指南」柳亭小痴楽/「不動坊」春風亭昇々/「セルジオ・ペレス」立川吉笑
「セルジオ・ペレス」は「ペレストロイカ」「ドライバー」「もったいない」からの創作。主人公が寿司屋の外国人店員ペレスで、実は著名なF1ドライバー、セルジオ・ペレスだった!という発想が良い。
ペレスは他の従業員の三倍の速さで出前をするので、不思議に思って追跡してみたら、自転車のコース取りが、いわゆる“アウト・イン・アウト”というとても素人には出来ない技術を使っていることが判った。また、寿司の握りの分業制を提案したのもペレスで、F1チームのノウハウを活用している。2023年までは賞金ランキング1位を誇っていたが、24年にスランプに陥り、行方不明になっていたセルジオ・ペレスその人であることが判るというのが面白い。
山の上に住んでいる谷本のおばあちゃんのところに、ペレスが出前を運びに行くと、おばあちゃんが脱水症状を起こして倒れている。数日前に亡くなったばかりの夫の亡骸が入っていた棺桶を空にして、台車に取り付け、ペレスがその即席レーシングカーを操縦して、病院におばあちゃんを運び、命を救うことが出来たというハッピーエンド。
ペレストロイカを「ペレス」と「トロ」「イカ」に分解して、寿司屋の外国人従業員、それもF1ドライバーという組み合わせが見事だった。
三日目 「花筏」立川志ら乃/「普段の袴」春風亭朝枝/「厚化粧」「若草」瀧川鯉八/「テラミスの由来」立川吉笑
「テラミスの由来」は「パンケーキ」「電車の遅延」「水たまり」からの創作。大雨の影響で遅延した電車に、調理学校の卒業試験を控えたパティシエ志望のタニモト君と托鉢僧たちが乗り合わせたことによって起きるエピソードに仕立てるところに実力を見る。
タニモト君はフワフワ感が大切なパンケーキなのに、どうしても自分が作るとカチカチになってしまうため、同級生からは「田舎のホットケーキ」と馬鹿にされていた。托鉢僧たちの応援もあって、それを克服しようというドラマ性が好きだ。
材料となる玉子、牛乳、ベーキングパウダー、薄力粉、砂糖は托鉢僧が家々を廻って集めてくれた。そして、比叡山にある寺の焼き窯を使いなさいとサポートしてくれる。タニモト君は何とか卒業試験に合格するようなパンケーキを焼こうと頑張るが、やっぱりカチカチの堅いパンケーキしかできなかった。
それでも、電車の遅延も復旧して、その作品を調理学校に提出しに行くことができた。タッパに入れたパンケーキを教授が開けて見てみると、茶色の液体でビショビショのパンケーキが出てきた。托鉢僧が運搬する際に、おばあさんにスタ―バックスのカフェラテを溢されてしまったことを明かす。
万事休すか…と思ったら、教授たちがパンケーキを味見して、その独特の食感を「これはなかなかいける!」。何とタニモト君は主席で卒業することができた。これも「寺の失敗(ミス)」によって起こった“禍を転じて福と為す”。以来、この製法のパンケーキが「テラミス」と名付けられたという…。
パティシエ志望のタニモト君と托鉢僧の出会いをベースに、ストーリー性のある噺が創作されたのは吉笑さんの手腕だろう。