神田織音独演会「小村寿太郎 ポーツマス条約」、そして新宿末廣亭三月中席 鈴々舎馬るこ「魔法世界のたらちね」

神田織音独演会に行きました。「小村寿太郎 ポーツマス条約」と「源平盛衰記 敦盛の最期」の二席。開口一番は宝井優星さんで「木村又蔵 鎧の着逃げ」だった。
「ポーツマス条約」。日露戦争で日本が勝利した明治38年、アメリカのポーツマスでルーズベルト大統領が仲介して講和会議が開かれたときの、日本の外務大臣の小村寿太郎とロシアの全権のセルゲイ・ウィッテによる条件闘争を描いている。
小村は樺太全土と12億円の賠償金を勝ち取るつもりだったが、賠償金はおろか日本に占領された樺太も譲らないウィッテの粘りも強かった。交渉は決裂、戦争再開の危険性すらあった。そんな状況を本国に伝えると、日本政府から小村への指示は「講和せよ」。
小村はその指示を無視して、強気のウィッテに対し、「戦争をしましょうか」と一世一代の大芝居を打つ。ロシアの皇帝二コライ二世が態度を軟化し、樺太を半分に分けて南半分を日本に譲渡する案を提示。その代わりに賠償金は無しという条件がついた。小村はこの譲歩案を飲む決断をする。痛み分けである。
世論はこの成果に不満を持ち、新聞社も「大失敗」と評する報道をした。だが、小村には「日本国民の思いを背負い、命を懸けて平和へ導いた」という信念があった。小村寿太郎とウィッテの心理戦をもう少し人間臭く演出すれば、物語に入り込めるのに…というのが率直な感想だ。
新宿末廣亭三月中席七日目夜の部に行きました。主任が鈴々舎馬るこ師匠でネタ出し興行。きょうは「魔法世界のたらちね」だった。
「金明竹」柳家あお馬/音まね こばやしけん太/「代書屋」金原亭馬治/「胡椒の悔み」柳家三語楼/漫才 笑組/「ドライブスルー」三遊亭天どん/「無精床」林家しん平/奇術 花島世津子/「粗忽の釘」五街道雲助/中入り/「棒鱈」柳亭小燕枝/漫才 すず風にゃん子・金魚/「コブシーランド」柳家小せん/「長屋の花見」初音家左橋/太神楽 翁家社中/「魔法世界のたらちね」鈴々舎馬るこ
馬るこ師匠の「魔法世界のたらちね」。三十五歳独身の八五郎に大家が縁談を持ってくる。年は二十歳、人形みたいに可愛くて、実家は金持ち…だが、一つだけ傷がある。自分を魔法世界の住人だと思い込んでいるという…。八五郎のことが好き過ぎて、すでに八五郎のSNSのアカウントを乗っ取っていて、半年前から勝手に更新していた。だが、全く八五郎は気づいていなかったというのが可笑しい。
彼女の名はタミコなのだが、「我が名はフェンネル。魔族の末裔なり」と言って、その後に魔法の呪文のような長台詞が続く。時は西暦800年、ブラックドラゴンが…(なんちゃらかんちゃら)封印せしものなり。不思議ちゃんを超えて恐ろしい。
八五郎に対しても、「ベルゼブブさま」と呼んで、やめてくれと言ってもやめない。味噌汁や野菜の表現も魔術の呪文のようで、とっても怪しくて面白い。ようやく朝御飯の用意ができると、「晩餐会の支度が整った」。
タミコは右手に黒い包帯を巻いていて、それはどうやら墨汁で染めたものらしく、朝飯が黒く染まっているのはそのせいか!と指摘するが、「我が魔力が滲み出したものなり」と言い張るという…。
古典落語の「たらちね」の女房の言葉が丁寧なのも、単に育ちのせいでそうなっているのではなく、どこか頭のネジが狂っているところがあるからだと思う。その発想をそのままアニメやロールプレイングゲームによくある“魔法世界”に置き換えて創作したところに、馬るこ師匠の才があるように思った。