月例三三独演 柳家三三「名人長二」(三)

月例三三独演に行きました。柳家三三師匠が「佐々木政談」と「名人長二」(三)の二席。開口一番は立川志の大さんで「新聞記事」だった。
「名人長二」の第三話。長二の贔屓客になった亀甲屋幸兵衛が妻のお柳を連れて長二宅を訪ねたときに、お柳の気分が悪くなって帰っていった。その際に風呂敷包みを忘れていった。中は深川の平清の料理二人前の折詰だったので、兼松が「これはどうぞ食べてください」ということだろうと、長二がやめろと言うのも聞かずに酒を飲みながら平らげてしまった。
翌日。亀甲屋の手代が訪ねてくる。長二は清兵衛親方のところに用があって、出掛けていたので、兼松が応対した。「昨日、女将さんが紙入れを忘れた」という用件とともに、料理屋橋本の折詰を食べてくださいと持ってきた。兼松は紙入れのことは覚えがなかったが、長二が火鉢の脇に置き忘れていたことに気づいて、清兵衛親方にところに行くついでに、亀甲屋に寄り、紙入れは届けていたのだった。
長二は金持ちとは深く付き合わないように心掛けている。人間は衣食住が足りていればいい、贅沢を覚えると気位が高くなり、人を見下すような了見になる。それを恐れていた。亀甲屋から柳島の寮の座敷を普請したので、唐木の書棚を拵えてほしいという依頼があった。長二はなるべく主人がいないときを見計らって柳島を訪ねる。もてなしをされるのが嫌だからだ。だが、そのときは意に反して亀甲屋夫婦がいた。長二は酒は飲まないので、贅沢な料理でもてなされた。
なぜ長二が稼ぎを施しに使ってしまうのか。亀甲屋が問うと、長二は「貧乏で苦労してきたからだ」と言って、自分の生い立ちを話した。すると、亀甲屋は「その話は天龍院の和尚から聞いて知っている」。長二は「実の親ほど人でなしはいない…29年前に俺を湯河原の藪の中に捨て、そのために背中に大きな傷ができた」と言って、裸になり、右肩下の親指ほどの大きさの穴を亀甲屋に見せた。すると、お柳が金切り声をあげ、「堪忍しておくれ…」と頭を下げる。堪らなくなった長二は柳島を去った。「あの驚きよう…さてはあの女が実の母か」と確信を持った。
後日、亀甲屋夫婦が長二を訪ねてくる。「書棚の催促ではありません。お柳がお詫びをしたいと…先日は失礼しました」。そして、旦那が「おかみさんを貰いなさい。そうすれば、仕事に打ち込める」と言う。それに続けて、お柳が話す。私は叔母の勧めで嫁に行ったが、大変な苦労をして先の亭主と離縁した。今はこの人とこうやって一緒になり、何不自由のない暮らしができるようになった。しかし、私たちには子どもがいない。親方くらいの年恰好の子どもがいてもおかしくないのだが。こう言うと、いきなり50両を長二に渡そうとする。
長二は怒った。「いらねえや!なぜ、お前さんはそんなことをするんだ?あなたは私を産んでくれた実の母親でしょう?」。長二はあちこちを歩き回って亀甲屋の昔のことを聞いて廻った。根岸の金持ちに嫁いだお柳は先の亭主と別れ、後家になったが、金貸しをして左団扇。手代の幸兵衛と深い仲になり、湯河原に行って、長二を捨てたということまで判っていたのだ。
罪滅ぼしのつもりか?金なんてくれないで、「お前が実の子だ。私たちの子だ」となぜ言えない?あんな酷いことをしていても、一言詫びてくれればそれでいいんだ。お上に訴えようなんて思っていない。二人の口から本当のことを聞きたいんだ。
長二がそう言うと、幸兵衛は逆上する。「馬鹿げた話だ。無礼千万。言いがかりをして、もっと金を出させようという魂胆か。舐めてもらっちゃ困る。お前のことを訴える!」と言って、長二を突き飛ばし、お柳を連れて去って行った。
長二は思う。実の我が子を山の中に捨てる…憎いと思った。でも、実の親に会えて嬉しかった。きっと「実の母だ」と言ってくれると思ったのに。馬鹿だった。俺の勘違いか?いや、それで50両も出すわけがない。不人情だ。情けない。この50両はびた一文手を出すことなどできない。お天道様が許さない。長二は亀甲屋夫婦を追いかけた。
亀甲屋幸兵衛がお柳に言う。「それとなく助けようと言っていたのに。お前がいきなり50両を渡すから知れてしまったじゃないか」「それは親心です。私が腹を痛めて産んだ子。あなたは前の亭主の子だと思うから邪険にするんじゃないですか」「いや、違う。我が子と思うから仕事をしてもらっているんだ」。他人のように振る舞いながら、我が子のように助ける。それは難しい。
闇の中、二人の前に長二が現れる。「今の話、伺いました。やっぱり、私はあなたたちの子なのですね。この場で親子だと言ってください」。幸兵衛が叫ぶ。「喧しい!脅しか?言いがかりか?」「お願いです。お父っつぁん!と呼ばせてくれ」。だが、長二の願いが届かない。「お前は泥棒だ」という幸兵衛に対し、「50両を返しにきた。こんなものは受け取れない」と長二は言って、二分金ばかりの50両を投げつける。幸兵衛の額から血が流れる。
「てめえなんか、親でもなければ、子でもない!」「湯河原で殺し損ねて、また殺そうというのか!」。幸兵衛と長二が揉み合う。オロオロするお柳。幸兵衛は持っていた小刀で揉み合う中、誤って自分の胸を刺してしまう。その場に倒れる幸兵衛。「お前さん、うちの人に何をする!」と向かってきたお柳の肩先を長二が小刀で斬ってしまう。「人殺し!」と叫んで、お柳も倒れてしまう。その場には血まみれの亀甲屋夫婦を前に長二が立ちすくむのだった…。
三遊亭円朝作「名人長二」、益々先が気になる展開になってきた。