一花繚乱 春風亭一花「紺屋高尾」、そして林家きよ彦独演会「35才の恋」「釣女」
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「一花繚乱~春風亭一花独演会」に行きました。「金明竹」「お見立て」「紺屋高尾」の三席。開口一番は林家さく平さんで「宿題」だった。
「お見立て」はネタおろし。一之輔師匠から習ったそうで、杢兵衛大尽の訛りをしっかりと踏襲していて、可笑しかった。ヌーイン(入院)したなら、ミメー(見舞い)に行くべ。オラと喜瀬川はヒーフ(夫婦)になる約束をストカラニッチ。オッツンダ(おっちんだ)?喜助、お前、ニャートル(泣いている)ニャ?手紙はワレが書けば、ヨカンベッチーニ。
喜助も喜瀬川と杢兵衛大尽との間を何往復もして、挙句に「墓参りに行けばいい」と喜瀬川に言われたときに、一瞬キレたのが良かった。私は嘘をつくのが大嫌いなんです!学校では級長までやったくらいで、末は博士か大臣かと言われた。それなのに…。花魁はペラペラ喋るだけで、自分で直に言いに行けばいいでしょ!実際に喜瀬川が杢兵衛大尽のところに行けないことは判っているけれど、喜助の気持ちが良く判る。
「紺屋高尾」。久蔵が三年間惚れ抜いた女性に一人前の男にしてもらった翌朝。高尾太夫が「お裏はいつざますか?今度はいつ来てくんなますか?」と問われたとき、久蔵は純朴ゆえに正直に「三年経ったら…三年経たないと来られません。お金がありません。あっしは神田お玉ヶ池紺屋六兵衛のところの職人で久蔵と言います」と答えてしまう。高尾が「主はあちきを騙したのざますか?」と言うと、久蔵は一気に経緯を話す。
三年前、花魁道中を見て、こんな綺麗な人がいるのかと思った。目が綺麗で、きっといい人だ、こういう人と所帯が持ちたいと思った。仲間に紺屋の職人では会うことが出来ない人だと教えられた。以来、仕事が手に付かず、食うものも喉を通らなくなった。働いて忘れようと思った。でも、忘れられなくて…。だから、会えるんだと信じて働いた。働いて、働いて、働いた。そうしたら、会えました。三年経ったら会いに来ます。でも、あなたは誰かのお嫁さんとか、お大名のお妾になっているかもしれない。わかっています。きょうが最初で最後。でも、きっと同じ江戸の空の下で、元気に生きていれば、どこかで会える。そのときに、「久さん、元気?」と訊いてください。紺屋の職人じゃ会えない。だから、嘘をつきました。騙すようなことをしてすみませんでした。
高尾はホロリと一粒の涙を流す。「今の話は本当ざますか?」。久蔵が「見てください、この手を。紺屋の職人の手です。青くなったこの手が証拠です」。その手を高尾は自分の手で握る。「わかりんした。あちきは来年三月十五日、年季が明けるざます。あちきのような者でも、主の女房はんにしてくんなますか?…主の女房になりとうざます」。
「本気にしますよ」「あちきは主の正直に惚れんした」。そう言って、高尾は香箱の蓋と三十両を久蔵に渡す。「もう二度とこのような里に足を踏み入れてはなりんせん」。大逆転ホームランである。誠意のある久蔵を一花さんは見事に表現していたのがとても良かった。
林家きよ彦独演会に行きました。「35才の恋」「牛ほめ」「釣女」の三席。
「35才の恋」は結婚相手を見つけたいと結婚紹介センターに入会した独身女性ハルカの理想と本音が浮かび上がっていて良いなあと思った。
ハイスペック男子を希望して、年下の青年実業家のみっくんと出会ったけれど、誕生日のお祝いをしたいと自宅に招かれたのはいいが、戸惑うことばかり…。セキュリティの厳しい自宅を訪問すると、「仕事を休んで一流レストランシェフで1カ月修行した」腕前の料理を振舞われる。鹿肉のフィレ、ブイヤベース、ムール貝のカプレーゼ、オマール海老のグリル…。そして、ある時刻が来て窓を開けると向かい側のタワーマンションの入居者全員の協力によってハルカの似顔絵がイルミネーションで浮かび上がる。さらに、プレゼントは自家用スペースシャトルのカギ!価値観が違い過ぎて、折角プロポーズされたのに、「ごめんなさい」と断ってしまった。
そんなハルカの目に止まったのが「AIパートナー」というサービス。ハルカをスキャンして、ピッタリの彼氏のロボットを紹介してくれる。のぶくんという男性の住む練馬のアパートを訪ねると、エレベーターはなく、4階まで階段で昇る。出迎えたのぶくんはTシャツに短パン姿で、部屋も微妙に狭い。だが、ハルカはこれらを「ちょうどいい」と感じる。出された料理は焼きそば、ニンニク入り餃子と冷えていないビール。ある時刻が来ると、「巨人―ヤクルト戦を観なきゃ」とテレビをつける。プレゼントはのぶくんの自転車の合鍵。すべてが「ちょうどいい」と思うハルカ。そこに「AIパートナー」のスタッフが現れ、「お試し期間は終了です。契約を続行しますか?」。ハルカの答えは勿論、YESだ。自分にとっての理想の彼氏とは…、身の丈に合った相手なのだよね。そう教えてくれた、きよ彦さんの創作だった。
「釣女」は、狂言や歌舞伎で演じられる「釣女」に流れるルッキズムに疑問をもったある筋から「この続き」を作ってくださいという依頼があって創作した作品だ。太郎冠者とおふくがハッピーエンドになるのがとても良い。
大名が「妻を持ちたい」と思い、太郎冠者を連れて、戎三郎殿にお参りに行く。すると、恵比寿様が二人の前に現れ、「西の方角へ行け」と告げる。果たして、そこには釣竿が置いてあり、大名は見事に美しい姫君を釣り上げた。ところが、太郎冠者は醜い女性、おふくを釣り上げてしまう。仕方なく、太郎冠者はおふくを妻に迎えるが、家事も出来なくて困り者。ただ、夕餉に山鯨、即ち猪の肉の塩焼きを振舞ってくれる。
太郎冠者の夢の中で、恵比寿様が現れ、「弁天様にお参りすれば、願い事の取り消しをできる」と告げられる。早速、太郎冠者はおふくを連れて弁天様に行くことにした。勿論、願い事の内容はおふくには内緒だ。帰りに二人組の追い剥ぎに逢ってしまった。しかし、おふくが男勝りの腕力を発揮して、二人を倒し、太郎冠者を守ってくれた。道に釣竿が落ちている。おふくは太郎冠者にこの釣竿を使えと言う。だが、太郎冠者はこれを拒む。
おふくが言う。「あなたは私のことを神様の許へ返すのでしょう?…昨夜、聞いてしまったのです。私は昔から化け物呼ばわりされてきました。だけれども、あなたと夫婦になれて嬉しゅうございました。迷惑をかけてすみませんでした。でも、一緒にいて楽しかった」。そして、おふくが釣竿を振る。すると、大八車が引っ掛かった。「私はあなたに美味しいものを食べてもらいたくて、猪を私が捕まえていました」。
太郎冠者は「一緒に帰るぞ。弁天様が願いを叶えてくれる。これからもおふくと一緒に暮らせますようにと願ったのだ」。太郎冠者が得意なのは掃除、洗濯、炊事。「家事は私がやるから、おふくは外のことをやれ」。おふくは大八車を曳いて、行商に出る。そうして、太郎冠者とおふくは仲睦まじく暮らし、5人の子どもをもうけたという…。「人は見た目じゃない」。良いメッセージの「釣女」が出来た。