Wonder Womans Worksスペシャル 玉川奈々福「鉄砲のお熊」一龍斎貞寿「雨のベルサイユ」
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「Wonder Womans Worksスペシャル~白鳥の湖~」昼の部と夜の部に行きました。三遊亭白鳥師匠の作品を女流の落語家、講談師、浪曲師が演じる趣向の会だ。
昼の部 「マキシムド呑兵衛」古今亭佑輔/「はらぺこ奇談」弁財亭和泉/中入り/「鉄砲のお熊」玉川奈々福・広沢美舟/「ゴッドスワン」三遊亭白鳥
夜の部 「牛丼晴れ舞台」鈴々舎美馬/「茄子娘の大冒険」柳亭こみち/中入り/「任侠流れの豚次伝 雨のベルサイユ」一龍斎貞寿/トーク 白鳥・こみち・和泉
奈々福先生と貞寿先生の高座が素晴らしかった。白鳥作品の中でも筋の通ったストーリーものは、実に浪曲や講談に合うなあと改めて、その凄さを思った。
奈々福先生の「鉄砲のお熊」。月影村で育った三人の人間模様が鮮やかに描かれた。人気歌舞伎役者の中村夢之丞となった時次郎。女相撲で看板大関“鉄砲のお熊”となったおみつ。そして、マムシの権造という山賊に成り下がった長吉。時次郎を人質にとって、百両を要求した長吉に対し、真っ向勝負を挑むおみつ。おみつが見事に長吉に一泡吹かせ、時次郎もこれに感謝するが…。二人の間にある恋愛感情に流れる美学がとても良い。
時次郎がおみつに対して「夫婦になってくれないか」と願うが、おみつは「お前は人気役者、私なんかと一緒になったら、ご贔屓筋が黙っていないだろう」と拒むと、「私は役者をやめてもいい。一緒に月影村で暮らそう」と時次郎は答える。すると、おみつは「綺麗な男にどんな女もなびくと思ったら大間違いだ。私は相撲に命を懸けている。お前さんの幼い頃の夢はどうしたんだい?女のために役者をやめる?大勢の贔屓客よりも一人の女を取るような奴は、こちらから願い下げだい!」。
さらにおみつは続ける。「お前のことは好きだ。でもね、こんな身体に生まれた私を生かしてくれた女相撲。それを見るのを楽しみにしている多くのお客さんが待っているんだ。土俵で真剣勝負をして、勝って、勝って、お客さんを心底楽しませる。それが私の生きる証なんだ。相撲がすべてなんだ。お前も夢があったはずだ。日本一の女方の役者になって、客を酔わせることに命を懸けるんじゃないのかい?」。
おみつの啖呵に痺れる。時次郎も目が覚めた。「私が馬鹿だった。私も芝居に命を懸ける」。そして、時次郎はお願いをする。「おみつが横綱になったとき、おそらく私は土俵入りが見られない。ここで土俵入りを見せてくれないか」。「まだ大関」と言いながら、お互いの出世という祈りをこめて、時次郎の芝居台詞の口上に導かれるように、ヨイショ!と土俵入りを見せるおみつ、鉄砲のお熊がカッコ良かった。
貞寿先生の「雨のベルサイユ」。第1話「豚次誕生」から第3話「流山の決闘」までの粗筋を実に分かりやすく、それも説明口調ではなく、リズミカルに語り下ろす冒頭にまず感心した。そして、猫のマリーに牛耳られているベルサイユ動物園の危機を救うために、豚次が一肌脱ぐところ、そして用心棒のレッサーパンダの小次郎と戦っている中で、思わぬ運命の巡り合わせが起きるところまで、気持ちの良い講談読みで聴かせてくれたのが良かった。
掛川の町長が大のフランスかぶれで、ルイ16世の御妃が愛玩していた猫の血を引くマリーがベルサイユ動物園に招かれ、贅沢三昧をしたことによって、他の動物たちは飢え死にしていった。ラビット一家のうさ吉親分がガールズバー「ベルサイユ」に入店した豚次に訴える。そして、孫娘のミッフィーお嬢さんがマリー側に誘拐され、「ネコ缶47個を持って来い」と脅迫される。
ここで任侠の血が騒いだ豚次は「あっしが行かせてもらいましょう。力ずくでお嬢さんを取り戻します」。そう言って、マリーのところで乗り込む。迎え撃つのは用心棒、レッサーパンダの小次郎。豚次vs小次郎の立ち廻りを講談特有の演出で盛り上げるのも、貞寿先生の腕の見せ所だ。
だが、この最中に小次郎は自分が戦っている豚が、昔上野動物園でお世話になった豚次であることに気づいてしまう。「豚次さん!」。この様子を見たマリーは豚次に向かって弓を放つが、それを小次郎が盾になって防御した。なぜ、小次郎はかばったのか?小次郎は実はアライグマのオスカルで、町長の命令で絵の具で塗ってレッサーパンダに変装していたのだ。それが降る雨によって絵の具が流れ、本来のアライグマの姿になる。
オスカルは上野動物園を豚次が去った後もパンダ親分に虐げられ、上野を抜け出し、東海道を病気の母親と旅していた。そのときに助けてくれたのがマリーで、そのために用心棒を買って出たのだった。母は亡くなる直前まで「豚次さんから受けた恩は忘れてはいけないよ」とうわ言のように言っていた。だから、豚次さんの役に立ちたかったのだ、と。
上野動物園でオスカルが豚次のことを、大好きなプロレスラー、アンドレ・ザ・ジャイアントにちなんで、「アンドレ」と渾名で呼んでいた。この日の再会でお互いの名を呼び合う。オスカル!アンドレ!最後は「ベルばら」的な世界を描いて、読み終わった。
講談、浪曲と他の話芸にも波及する三遊亭白鳥作品の凄さを思った。