もちゃ~ん 春風亭百栄「バイオレンススコ」、そして落語教育委員会 三遊亭兼好「明烏」

「もちゃ~ん 春風亭百栄勉強会」に行きました。「バイオレンススコ」「引越しの夢」「狸札」「絶句」の四席。

「バイオレンススコ」。アメリカンカールがスコティッシュフォールドに対し、スコの縄張りの土曜の夜の餌を譲ってもらえないかと交渉に来る。その餌はワンニャンフードのニャゴニャゴプレミアム。いちごサンダルちゃんが提供してくれる“カリカリ”の餌だ。

交換条件として提示した餌は豪華である。フリスキーモンプチアンサンブルシリーズからツナのほうれん草添えクリーム仕立て、焼き鮭とマグロのコンビネーション、猫侯爵から釜揚げシラス炒り、チキンのライス添えリゾット風ソース、マグロ節薄切り合鴨添え…。大戸屋の定番メニューになりそうなものから、食通の春風亭小朝が思わずうなりそうなグルメまで揃っている。

だが、スコの親分は首を縦に振らない。この縄張り争いは餌のためだけじゃないという。野良ネコへの餌やりを寂しい暮らしの慰めにしている多くの地域住民を裏切りたくないのだ。いちごサンダルちゃん、ジャバラサンダルの浪人生、靴下が納豆臭いホームレス、さくらんぼパンティちゃん…。猫をこよなく愛する百栄師匠らしい作品である。

「絶句」。寄席のトリ、ヒャクエイ師匠が高座の途中で絶句した。楽屋ではどう対処したらいいか、立前座、太鼓番、楽屋番、高座返し、それにお囃子さんたちがこの事態に立ち向かう。「アルパカ100頭を女子高の体育館に並べて…」、ここで言葉が止まった。

新作落語だけに、この続きを知っている人が楽屋にはいない。弟子のヒャクイチ兄さんに連絡を取ると、「俺は古典派だから、師匠の落語はできるだけ聴かないようにしている」というつれない返事。席亭に指示を仰ぐと、「間だと思え。たっぷりと間を楽しんでもらえ」。

お茶子さんが何とかしようと、客席に「お客様の中でこの噺の続きをご存知の方はいらっしゃいませんか?」と呼びかける。「東山動物園にアルパカを連れて行ってカバ園長に会う」と答える白鳥マニア、「乃木希典がアルパカに跨り、旅順を陥落させる」と答える八代目文楽から寄席に来ているという老人、「この後、下ネタになって縦貫ハーレムに」と答える快楽亭ブラックマニア…。皆、あてにならない。

お囃子さんが客席を落ち着かせるために、地囃子を弾きだす。♬主よ御許に近づかん。タイタニック号が沈没するときに、楽団員が演奏したという楽曲だ。もはやこれまで!と追い出し太鼓を叩こうとしたとき、ヒャクエイ師匠が喋り出した。「この後はまだ作っていなかった」(笑)。寄席のパニック落語、面白い。

落語教育委員会に行きました。三遊亭歌武蔵師匠が「胴斬り」、柳家喬太郎師匠が「ウルトラのつる」、三遊亭兼好師匠が「明烏」だった。オープニングコントは「ACジャパン編」、開口一番は入船亭扇七さんで「一眼国」だった。

歌武蔵師匠の「胴斬り」は中に餡子として学校寄席で「犬の目」を演じたときのエピソードが入っていた。どちらもSF的落語、「本当にあった噺ですか?と訊かないでください」と言っていたのが可笑しかった。扇七さんの「一眼国」も含め、聴き手のイマジネーションに委ねるという意味で、こういう噺が一番落語らしい落語と言えるのかもしれない。

喬太郎師匠の「ウルトラのつる」。八五郎の「マニア怖い!」という台詞が何とも愉しい。第2期ウルトラシリーズは帰ってきたウルトラマン、ウルトラマンエース、ウルトラマンタロウ、ウルトラマンレオ。帰ってきたウルトラマン、当時は略して「帰りマン」とか「新マン」と呼ばれていたが、なぜ後になってウルトラマンジャックになったのか?そこに焦点を当てるセンスが素晴らしい。

初代ウルトラマンが「帰ってきた」という設定にすると、新規の関連グッズが売れなくなってしまう。ブルーマーク、マルサンといった玩具メーカー救済のために円谷プロが考えた知恵で生まれたのがウルトラマンジャックなのだ。だから、正解は「大人の事情」という…。

ヤプール人やキャロライン洋子、郷秀樹を演じた団時朗のMG5、少年探偵団の怪人二十面相まで飛び出し、昭和の人間には堪らない高座だった。

兼好師匠の「明烏」。鳥居がなぜ黒いのか?という時次郎の質問に、「黒く塗ったから」と答える太助が面白い。時次郎のせいで座敷が白けてしまったので、源兵衛の発案で「若旦那の話を聞く会」にした結果が笑える。昔、上州におさよという娘がいて、父親は早くに死に別れ、母親が女手ひとつで育ててくれた。だが、その母も高価な人参を飲ませないと治らない病にかかってしまう。そこで、おさよはこの吉原の里に身を沈めた。しかし、母はあの世に逝き、その後を追うようにおさよも亡くなって、無縁仏に葬られたという…。あなたたち、酒を飲んでいる場合ですか!

だが、翌朝になると時次郎は豹変。源兵衛と太助が起こしに行くと、「朝起きると、雀が鳴いている。いつもだと爽やかな気持ちになるのに、今朝はもう少し寝ていたい。夜が明けなければと思った」。「花魁は口では起きろと言いながら、両足で私の身体をギュッと挟んで放さない…背中に指で『だめ』と書いている…」。町内の札付き二人も開いた口が塞がらない様子が目に浮かぶ高座だった。