落語一之輔春秋三夜 第二夜「帯久」

「落語一之輔春秋三夜2024秋」第二夜に行きました。「新聞記事」「木乃伊取り」(ネタおろし)「帯久」の三席。開口一番は春風亭与いちさんで「胴斬り」だった。

「帯久」。和泉屋与兵衛の人柄の良さが好きだ。“売れず屋”と渾名されていた帯屋久七を信用し、「困ったときはお互い様」と無利息無証文でお金を貸してあげる。20両、30両、50両、70両まではきちんと返済をした帯屋だったが‥。100両を借りたが返済が遅れ、大晦日の忙しいときにようやく和泉屋を訪ね、返済をする。だが、部屋に帯屋だけが取り残され、100両が目の前にある状態を見て、帯屋は出来心を起こし、その100両を懐に入れて帰ってしまう。

和泉屋では100両が行方不明になり、店の者全員で捜したが出てこない。番頭が「ことによると…」と帯屋を疑うが、与兵衛はそれを否定し、「良い厄落としができた。忘れよう」と言う。証拠もないのに、あらぬ疑いをかけるのは避けたかったのだろう。

翌年、帯屋は正月に“景品付き”の売り出しをおこない、これが功を奏して繁盛した。逆に和泉屋は客を帯屋に取られたということもあったのか、商売が左前になる。悪いことは続くもので、娘のお絹が病で亡くなった。それを気に病んだ女将さんまでもが後を追うように亡くなった。その上に神田三河町から出火した火事で、和泉屋は蔵を二つも全焼してしまう。奉公人も一人去り、二人去り、武兵衛を残して誰もいなくなった。

武兵衛は与兵衛の面倒をよく見たが、知り合いの借金の請け人になったことが仇となり、破産。二人は裏長屋で細々と暮らす。そして、10年が経った。与兵衛は六十一である。何とか武兵衛に店を持ってもらいたいと考え、商いの元を借りようと帯屋を訪ねるという。武兵衛は「帯屋はお得意を奪った敵みたいなもの。名前を聞いただけでも虫唾が走る」と断るが、与兵衛は「昔、金を何度も貸した。利子も取っていない。その利子代りに貸してくれるだろう」と帯屋へ出向く。

だが、帯屋の対応はけんもほろろだった。「死んでいなかったのか」と、余りにも冷たい態度に、与兵衛は“100両の一件”を切り出す。帯屋は「手癖の悪い奉公人が盗んだのだろう」といなすが、余りにしつこいので、怒り出す。「何が言いたいんだ!俺が盗んだとでもいうのか!」。与兵衛が「困った時はお互い様。あのとき無利息無証文で貸した」と言うと、帯屋は「それは返す充てがあるときのことだ。お前さんのような乞食同様の人間に誰が貸すか…図々しい!」。

温厚な与兵衛だが、「あなたは鬼だ。人の心がないのですか?」と帯屋にぶつけると、怒った帯屋は煙管で与兵衛の額を叩き、追い払う。額から血が出ているのを見て、与兵衛は自分が情けなくなり、「死にたい」と思って首を括ろうと考えるが、その体力もない。そのとき、帯屋が離れを普請中で鉋屑が足元にたくさんあるのを見て、与兵衛はいけないと知りながら悔しさの余り、火付けをしてしまう。鉋屑に火を付け、「帯屋も燃えろ!燃えちまえ!」。その様子を見つけた帯屋の奉公人が与兵衛を羽交い締めにする。与兵衛は放心状態だったのだろう。

そこへ町役人が通り掛かり、事情を聞いて「この件は我々に任せなさい」と言って、与兵衛の身柄を帯屋から解放してやり、みすぼらしい格好の和泉屋与兵衛を見て、「和泉屋さんも大層ご苦労されたのですね」と同情、情状酌量で火付けの件はもみ消し、“なかったこと”にしてやるが、これでは腹の虫が収まらないのは帯屋久七だ。火付けの罪で南町奉行に訴えて出た。

お裁きは大岡越前守。和泉屋与兵衛が帯屋に無心に来たが、それを断られたので、遺恨に思い、火付けをした。その罪状に対し、越前守は「なぜ火付けをしたのか」を与兵衛に問い質す。与兵衛は10年前の出来事から順を追って詳しく話す。

ここで越前守が帯屋に「100両はしかと返済致したか?忘れておるのではないか?」と問う。返済はしたと答える帯屋に対し、「思い出すまじない」と称して帯屋の右手の中指と人差し指を半紙で結わいて封をし、南町奉行の印を押した。この封を破りしときは、討ち首獄門だと言う。そうなのだ。大岡様はお見通しなのだ。

数日後、帯屋は自由に使えなくなった右手に難儀をし、「思い出した」と奉行に申し出る。「返済したと思い出したのか。それとも返済していないと思い出したのか」「返済していません」。100両を和泉屋与兵衛に返済するが、「利子がある」と大岡越前守。年に10両、10年で100両。そのうち、50両は奉行が立て替えてやるので、50両を和泉屋に渡せ。そして、「残りの50両は月賦が良いか、年賦が良いか」「年賦でお願いします」「年に10両か、5両か、1両か」「1両でお願いします」。

「承知した。では、引き続き、和泉屋与兵衛の火付けの罪の裁きに入る」と大岡越前守。火付けは大罪、火炙りの刑に処す。これで溜飲が下がると思った帯屋だが、そうは問屋が卸さない。利子の支払いが終わる50年後に「和泉屋与兵衛を火炙りに処す」。悔しい帯屋は「では50両、即金で支払います!」と言い出す。「黙れ、黙れ!お前は年賦で1両と言ったではないか!」と大岡越前守。悪い了見の帯屋久七を厳しく懲らしめる、見事な大岡裁きに気分がスッキリした。