噺ノ目線 入船亭扇橋「天使と悪魔」

「噺ノ目線」に行きました。今回はトリビュートミックス編だ。

橘家文吾「歯ンデレラ」(林家きく麿作)

夫の死とともに息子夫婦と同居したヨシダタケコさん。嫁に家事一切を任されてしまって「こき使われている」わけだが、嫁が仕事に出るときにまだ家を出ていないのに嫁の悪口を言いたい放題言うところが面白い。合コンで出会った武井財閥の会長さんの貫禄をもっと出せたら…と思った。

柳家花ごめ「公家でおじゃる」(三遊亭丈二作)

犬や猫のように公家をペットとして飼っているヤスシくんとヤヨイちゃんの会話が面白い。ヤスシくんのは綾小路で公家小屋で飼ってるが、ヤヨイちゃんのは正親町三条(おおぎまちさんじょう)で座敷公家と血統が良く、十二単を着せたり、餌は懐石料理風味の缶詰だったりと出費が大変というのも可笑しい。校庭にUFOが軟着陸して、宇宙人ならぬ公家星人が現れ、平安時代から地球を侵略に来たという発想も面白い。

入船亭扇橋「天使と悪魔」(春風亭百栄作)

これが最高に可笑しかった!主人公を完全に「入船亭扇橋」に置き換えているのが良い。「たらちね」に入ろうと、縁結びの神様の小咄をするも受けがイマイチだったので、「高砂や」にハンドルを切ろうとするところで、新作の悪魔が「やっちまいなよ!」と現れる。扇橋は「新作なんかやったことがない」と言うと、悪魔は「やったことがあるだろう!」と言って、新版三人集で新作を演じた過去や二ツ目時代に創った自作を10作、春風亭昇々作品を2つ、春風亭百栄作品を1つ持っていることを鋭く指摘するのがすごい。

「鈴本だから古典を…」と抗う扇橋に対し、「お前は鈴本に何をしてもらった?義理でもあるのか?」と言うので、「去年は10日間トリを取らせてもらった」と答えると、「今年は取ってないじゃいか。去年は扇橋襲名の御祝儀で取らせただけ」、「鰍沢を高く評価してくれた」と答えると、「そんなこと、一蔵や小燕枝にも言っている。お前らは三人じゃなきゃ、何もできないのか?」と返されるのが可笑しい。

さらに「お前に足りないのは新作なんだ。お前の古典なんか聴いちゃいない。モニターは『ヒルナンデス』に切り替えられている。演っちゃいなよ、お前の創った登場人物が全員不倫する新作を!」。古典のお遣い姫が「あそこの北千住から来た老夫婦は古典を楽しみに来たのよ」と誘導するも、悪魔は「あの老夫婦はつる子とわん丈の交互枠を楽しみに来た。お前はその代演、ガッカリしているに違いない」と追い打ちをかける。

悪魔が訊く。「お前が初めて聴いた落語は何だった?」「浅草演芸ホールの円菊、文朝、一朝…」「違うだろう。トリの三遊亭円丈に爆笑して、落語は自由な芸能なんだと目覚めたんじゃなかったか?」。これに続けて、扇橋が「遥かなるたぬきうどん」や「ランボー怒りの脱出」、「ぺたりこん」を次々と演じていくのには舌を巻いた。

古典のお遣い姫が「あなたは誰の弟子なの?」と問いかけて初めて扇橋は目が覚める。懐から師匠扇辰の手拭いを取り出して、「双蝶々」の定吉殺しよろしく、悪魔の首を絞めるという…。自分を曝け出した扇橋師匠の高座に拍手喝采だった。

弁財亭和泉「ラジオデイズ」(古今亭駒治作)

チャコ&カフカのチャコがパーソナリティを勤める深夜ラジオ番組「チャコのオールナイト東京」。メインボーカルのカフカに較べて人気では劣るチャコだが、彼のお喋りに熱心に耳を傾け、ハガキを投函し続けているが“そのことをひたすら隠そうとする”リスナーたちの物語が素敵だ。ある田舎町の中学校。ラジオネーム世界のヤマちゃんことヤマダシゲコ、パジャマボーイことニシムラ、ファンシーストロベリーことカワイ先輩、小野妹子ことオオノアスカ、この四天王に加えて平家の落人ことコバヤシシュウジが加わった青春ファンタジーに胸が熱くなる。送り手と聴き手が一対一という温かいメディアであるラジオの特性はデジタル化が進んでも残っていてほしいと思う。