ようこそ歌舞伎座へ、そして立川談洲ツキイチ落語会「品川心中」

十一月歌舞伎座特別公演「ようこそ歌舞伎座へ」に行きました。中村虎之介による歌舞伎解説の後、「三人吉三巴白浪 大川端庚申塚の場」と「石橋」の二演目。

「三人吉三巴白浪」はお嬢吉三が尾上左近、お坊吉三が中村歌昇、和尚吉三が坂東亀蔵。お嬢吉三とお坊吉三が百両をめぐって諍いをしているところに、和尚吉三が仲に入って仲裁し、同じ吉三を名乗る縁から三人が義兄弟の契りを結ぶわけだが、諍いの種である百両の出所が面白い。

夜鷹のおとせが昨夜の客が百両の金を落としていったので、それを苦に身投げなどしていないかと案じて大川端に来た。そのとき、おとせが通り掛かった娘に道案内をしてやったら、その娘がおとせの懐から百両を奪い、川へ突き落した。そして、この娘が実は男で、女に化けて盗みを働くお嬢吉三だったというわけだ。

大川端庚申塚の場だけ観ると、「月も朧に白魚の…」から始まる七五調の台詞と歌舞伎の様式美に酔う場面になってしまうが、「三人吉三巴白浪」全七幕の一部として観ると名刀「庚申丸」の行方含め、もっと歌舞伎を観たくなる誘導として有効であるように思う。

今回の十一月特別公演は、歌舞伎座が安全性の観点から舞台機構設備の工事を実施するために、当初予定していた「吉例顔見世大歌舞伎」を変更して、このような歌舞伎入門的な興行を打ったものだ。客席には学生や外国人の団体客も沢山詰めかけて賑わっていた。これをきっかけに歌舞伎座に足を運ぼうという人たちが増えるといいなあと思った。

夜は「ふくらぎ~立川談洲ツキイチ落語会」に行きました。「三月丗一日の二」「長短」「品川心中」の三席。

「三月丗一日の二」は来年3月31日に開催される「擬古典落語の夕べ」でネタおろしする落語の試作品。先月の「一」に続いての「二」だ。已己巳己(いこみき)という言葉を初めて知った。すべてが似たりよったりで区別がつかない状態のことを言うのだそうだ。17人の男は全て別人なのだが、全員が絵に描いたような江戸っ子で同一人物に見えてしまい、お奉行様が一人の特定の男を探し出すのに四苦八苦するという噺。名前は全員、八五郎、熊五郎、辰五郎、甚五郎という風に〇五郎、好みの色は赤、朱、薔薇色、紅色、緋…、啖呵を切らしたら全員見事なべらんめえ口調という…。「十人寄れば気は十色」と頑張るものの、見破れないお奉行様が愉しい。

「品川心中」。金造が品川の海から生還し、親分に事情を話して、お染に仕返しをするところまでしっかりと演じてくれて良かった。

金造が白木屋を訪ね、お染と再会。「俺は確かに一度死んだ。でも気づいたら店の前にいた。線香をあげて、経を読んでくれ。楽になりたい」と言う。お染は怯えながらも、布団を敷いてあるから寝なさいと部屋を案内する。

そこへ親分と弟役の亀が白木屋へ。「お染さん、起請文を交わした相手がいるだろう。今朝、金造がどざえもんになってあがった。懐からこの起請文が出てきた」と脅すと、お染は「金造さんなら今さっき店に来たところ」と取り合わない。すると、亀が懐に手を当て、「兄貴の戒名がない!」と騒ぐ。お染は「金造さんは布団で寝ている」と言って、部屋に入ると布団から戒名がはみ出している!

親方はつかさず、「金造が化けて出たんじゃないか。何か恨みがあったんじゃないか」と責める。お染は「そんなことあるもんかい」と気丈に応対すると、親方は腕をまくり、「この腕の傷に覚えはないか?!」「あなたは熊五郎さん!」「久しぶりだな」。親方もお染に性質の悪いことをされた恨みが過去にあったのだ!

「どうしたら、浮かばれるのか」と必死のお染に対し、「頭を丸めて供養しろ」と迫る親方。素直に受け入れたお染の頭の毛は綺麗さっぱり剃り落とされた。「浮かばれたかどうか、当人に聞いてみろ」と言うと、隠れていた金造が現れる。「これで騙される側の気持ちがわかったろう!」。狡い女であるお染をやりこめて、スカッとする高座であった。