二葉さんと 桂二葉「池田の猪買い」、そして落語の仮面祭り第四夜 三遊亭白鳥「テレビ仮面舞踏会」

「二葉さんと~桂二葉独演会」に行きました。「看板のピン」と「池田の猪買い」の二席。ゲストは桂九ノ一さんで「植木屋娘」、開口一番は立川のの一さんで「狸の鯉」だった。

二葉さんの「看板ピン」。先月に聴いたネタおろしの高座から確実に磨き上げいて面白さも倍増しているのが手に取るようにわかって嬉しい。博奕で負け続けている二人が“向こうでボーッとしているおやっさん”を仲間に引っ張りこんで負けを取り戻そうとするが…。おやっさんは昔は相当鳴らした親分で、訳あって二十八のときに博奕はやめた。随分年を取って、目も耳も衰えたけれど、「これがほんまもんの博奕というのを見せてやる」「ひよっこには負けない」という台詞がカッコイイ。実際、若造たちを相手にギャフンと言わせるのだから、昔取った杵柄ということだろう。

そのカッコ良さがあるから、これを猿真似しようとする男の失敗が笑いを生む。壺皿から賽子がはみ出しているのを指摘されても、耳を塞いで「アー!」と叫び、気づかないふりを貫く。張る目がピンに偏ると、「賽子の目は一から十まであるんだぞ」と頓珍漢なことを言う。その上、強気に「こんな博奕に負けたくらいの金、家を売ってでも払ってやる」と言うが、「お前、俺の二階に間借りしているだろう!」と突っ込まれる。猿真似男のアホの一挙手一投足が笑いに変換される二葉さんの人物造型が素晴らしい。

「池田の猪買い」。二葉さんの武器は「アホ、酔っ払い、子ども」とご自分でもおっしゃっているが、この噺の主人公・喜六のアホの可愛さったらない。池田に行くのに、甚兵衛さんに「温い格好しなさい」と言われ、家にあるだけのものを全部着こんで達磨みたいになっている喜六を想像するだけで愉しい。長襦袢3枚、袷3枚、それに綿入れ。首巻きに手拭いや雑巾を加え、ほっかむりに頭巾、綿を鼻と耳に詰めている。足袋三足、パッチ5枚履いているという…。

池田に行く道を甚兵衛さんに教わった通りに行くのに、道行く人、それも女房が産気づいたので産婆さんを呼びに行こうと急いている人を呼び止めて、甚兵衛さんに教わった道を暗唱した挙句に「どう行ったらよろしいか」と訊く喜六のアホが抱きしめたくなるほど可愛い。また、案山子をお百姓と間違えて、何度も声を掛けるところも可笑しい。「お百姓さん!」「百!」「五十、五十!」「六十、四十!」って!(笑)。

山猟師の六太夫さんのところに到着すると、兎に角「新しい猪の肉」が欲しいと言って、目の前で猪を撃ってもらいたいとお願いする。「疑り深いもので」。猟の現場でも六太夫さんの横で「雄がいい」「いや、雌がいい」と優柔不断なことを言い、さらに「獲れたらすぐ食べたい。鍋はあるか。葱もほしい。砂糖に醤油も…」と黙っていられず、六太夫さんの邪魔をしてしまう喜六だが、どこか憎めないキャラクターなのが、この噺の魅力だろう。

九ノ一さんの「植木屋娘」。お寺の伝吉は500石の武家の跡取りで、ある事情があって和尚が預かっている居候の身。だが、植木屋の孝右衛門はこの伝吉をすっかり気に入ってしまい、是非に娘のおみつの婿に取りたいと熱望する。孝右衛門が女房と知恵を絞って、伝吉とおみつをくっ付けてしまうように作戦を練るが…。この作戦の空回りぶりと孝右衛門の憎めないキャラクターが相まるところを九ノ一さんが滑稽に演じてとても愉しい。作戦は空回りするも、孝右衛門のまかり知らぬところでおみつが伝吉の胤を宿していることが判明し、ハッピーエンドというのも良い。九ノ一さんのニンに合った噺だと思った。

夜は上野鈴本演芸場十一月上席四日目夜の部に行きました。三遊亭白鳥師匠が主任で「落語の仮面祭り」と題した連続口演の興行。きょうは第4話「テレビ仮面舞踏会」だった。

「元犬」柳家小じか/「アジアそば」金原亭杏寿/ジャグリング ストレート松浦/「真田小僧」金原亭馬吉/「おもち」林家きく麿/粋曲 柳家小菊/「宮戸川」柳家小満ん/「座席なき戦い」弁財亭和泉/中入り/漫才 風藤松原/「狸札」隅田川馬石/紙切り 林家二楽/「テレビ仮面舞踏会」三遊亭白鳥

白鳥師匠の「テレビ仮面舞踏会」。NHK新人演芸コンクールで、その瞬発力、アドリブ力を高く評価された花のところに、テレビ局から沢山のオファーが来るが、月影先生は「テレビは芸人を使い捨てする。激流に飲み込まれてはいけない」と一切断る。だが、大東芸能社長の息子である鈴々舎真角が持ってきた依頼は人気長寿番組「笑点」の座布団運び。山田隆夫が長期ロケのため、3カ月限定で代演してほしいという。“大いなるマンネリ”の番組であれば良いだろうという判断で、月影先生は花の出演を認める。その代わり、人気でチヤホヤされても、それは自分の実力ではないと肝に銘じて、新作落語を作り続けることを条件にした。

晴れて座布団運びとしてデビューした花はニコニコ、キビキビした一所懸命な働きぶりが好感を持たれ、人気が急上昇する。司会の春風亭昇太師匠の無茶振りにも即興で面白い回答をして、応援しよう!というファンが増えた。すると、ユニクロを筆頭に多くの大企業のCMに起用され、売れっ子に。週末は地方の落語会で“笑点漫談”+小咄という構成の高座で信じられないようなギャラが入るようになる。これまで大東芸能の圧力で出演させていなかった寄席定席の席亭も「出てほしい」と掌を返し、二つ目なのにトリを取るという異例の抜擢。先輩たちは花に媚びを売るようになる有り様だ。

花も嬉しくなり、連日打ち上げで先輩たちを引き連れて高級寿司店や焼き肉店、そしてカラオケと豪遊。深夜のタクシー代として万札をばら撒く。月影先生が注意したことをすっかり忘れてしまう。そこに大東芸能の社長は目を付けて、花の失脚を図るべく罠を仕掛ける。

花のところへ父親が訪ねてきた。大工の自分のところに、銀行からNISAをやらないかと勧誘が入り、おかしいなと思ったら、銀行口座の通帳を見たら、信じられない額が溜まっていたという。すべて花が稼いだギャラが振り込まれていたのだった。落語家になることに反対していた父親も金目当てで花を認めるようになる。

笑点の座布団運びもいつの間にか、司会の昇太師匠ではなく花が裁量するようになっていた。そこに目を付けた父親は「好楽師匠に10枚の座布団をあげてくれ」と頼む。花は純粋だから、父親が好楽ファンなのだろうと言うことを聞いてあげた。

ある日、打ち上げが終わって、タクシーで帰ろうとしたとき、お年寄りのファンがサインを求めてきたので応じると、その男は花に抱きつこうとしたので、思わず突き飛ばしてしまう。だが、これは大東芸能の罠だった。この瞬間がカメラに撮られ、「フライデー」において「三遊亭花、深夜のご乱交、老人を突き飛ばす」というスクープが出てしまった。

また、ニュースでは「三遊亭花の父親、笑点座布団賭博で逮捕」の報が流れる。誰が10枚の座布団を獲得するかという賭博で、好楽師匠は最も高いオッズがついていたため、娘に根回しして不正賭博をしていたことが明かるみになったのだ。

こうしたスキャンダルによって、花は日本テレビを出入り止め、もちろん「笑点」の座布団運びは首になった。月影先生のところに行くと、「あなたは新作を作り続けていましたか?あなたは有名になりたくて落語家になったのですか?」と厳しく詰問され、「あなたは堕落した。私の弟子じゃない。破門です」と言い渡される。そして、「夢幻桜」の主人公の桜の精の気持ちがわかるまで戻ってきてはいけないと言われる。

茫然とした花は公園のベンチで一夜を過ごす。そこで出会ったホームレスの権爺に「夢幻桜の作者である林田馬太郎の故郷、奈良の山奥に枝垂れ桜がある。その村に行こう」と誘われた…。三遊亭花はこの後、どうなるのか。興味を繋いで、切れ場を作った。