講談協会定席 神田すみれ「夜嵐お絹」

上野広小路亭の講談協会九月定席に行きました。神田すみれ先生が二日間主任を勤め、「夜嵐お絹」を連続で掛けるというので、二日間とも伺った。

初日 「黒田節の由来」一龍斎貞奈/「甲越軍記」神田山緑/「水戸黄門漫遊記 農は国の基なり」宝井琴梅/中入り/「仏縁物語」田辺鶴英/「夜嵐お絹」(壱)神田すみれ

二日目 「大久保彦左衛門 盥の登城」一龍斎貞司/「鼓ヶ滝」一龍斎貞鏡/「青の洞門」田辺凌鶴/中入り/「メリサンド姫の髪の毛」神田あおい/「夜嵐お絹」(弐)神田すみれ

すみれ先生の「夜嵐お絹」は毒婦の物語だが、かなりの長編らしく、主人公のお絹の毒婦ぶりが出る前で終わってしまったのが残念だった。それでも十分面白かったのだが、いつの日かこの続きを聴いてみたい。

江戸猿若町二丁目で道中師(今の運送業のようなもの)を営んでいる鎌倉屋勘七は芸者あがりの女房、おきちと暮らしている。ある日、三浦の岬まで仕事があり、三浦屋という宿に泊まったが、目の前に見える城ヶ島を見物したいと、宿の主人と一緒に船に乗って渡った。波が岩に打ち付け、貝殻や石ころがキラキラと光る様子が綺麗で、うっとりした。

すると、島の娘であろう、十二、三の女の子が真っ黒になって鮑を抱えて歩いてくるのを見つける。この娘は磨けば美人だと思った勘七は、この娘の父親である佐四郎に話をして、「この娘をこの島に置いておくのはもったいない。私に譲ってくれませんか」と頼む。この娘の名は絹という。佐四郎も喜んで、10両で勘七が貰い受けた。

江戸に戻って、女房のおきちに話すと「いい娘だ」と大層喜んで、真っ黒だった肌も糠やウグイスの糞で洗うと垢抜け、元々の色白の美人となる。そして、芸を仕込む。勘が良く、物覚えが良い。十七のときには芸者として一本立ちできるようになった。踊り、端唄、小唄、刀の持ち方、袴の履き方、碁、将棋…何をやってもすぐにできる。鎌倉屋の小春という名で売れっ子になった。

摂州兵庫の高田屋という酒問屋の若旦那、吉之助が江戸に来ていて、小春を見初め、夫婦約束をするほどの深い仲になった。一方、実家では「吉之助が帰って来ない。もし、花魁などに夢中になっていたらえらいことだ」と心配し、番頭の孝助を江戸に派遣し、常宿の竹田屋から連れ戻そうとする。

だが、吉之助は「お金は使い果たした。小春と一緒になる」と言い張る。「播州の本家から嫁を貰う準備が整っているのだ」と番頭は言うが聞く耳を持たない。番頭が実際に小春に会ってみると、「確かにしっかりした娘だ。惚れるのも仕方ない」と思う。別れさせようとして、変な気を起こされても困る。それならば、「妾として迎えればいい」と思い、小春の父・勘七に話をする。勘七も「これは出世だ」と喜び、200両の証文を巻いた。

番頭、吉之助、お絹の三人で摂州へ向かう。舞坂宿がいっぱいだったので、次の新井宿で泊まろうと、今切の渡しの舟に乗る。終い船の時刻を過ぎていたが、船頭の吉兵衛に2両渡して、特別に出してもらった。途中でお絹が「御手水がしたい。我慢できない」と訴える。そこで、番頭が帯を持って支えてあげるので、船の縁に掴まり、用を足しなさいということになった。お絹が用を足している最中に、なぜか番頭は帯から手を離して、お絹を海に突き落とした。

番頭いわく「手が滑った」。船頭が海に飛び込むが見つからない。潮の流れが大きく、助からないだろうという。番頭と吉之助は新井宿の紀伊國屋という宿に泊まり、翌日も海を探したがお絹を見つけることはできなかった。

新井宿の十手取り縄を任された親分の茂兵衛の子分で、こゆるぎの房吉という男がいる。博奕で負け続け、スッテンテンとなり、親分の家に帰ろうと海縁を歩いていると、女性の死骸を見つける。なぜか裸だが、綺麗な女であることが窺えた。みぞおちを押すと、かすかに息をしている。瞼を見ると、光るものがある。これは生きているのではないか…俺の女房にするか、さもなくば宿場女郎に叩き売るか…。

その“死骸”を担いで、親分の家へ。事情を話すと、茂兵衛はゴザに寝かせろ、そして藁を燃やして温めろと指示を出し、医者の林先生を急患として来てもらう。先生いわく「これは生き返る」。一日3回薬を飲ませれば、3日で目を覚ますだろうという見立てだ。

果たして、女は助かった。茂兵衛が訊ねると、その女こそお絹であった。城ヶ島で漁師の娘として育ち、海に潜って鮑などを獲っていて、泳ぎは得意だったから、無我夢中で岸に着いたのだろうという。

茂兵衛は吉之助との一件も訊き、「そんな不実な男は見限った方がいい。江戸へ帰った方がいい。身体が元気になるまで、ここで養生しなさい」と助言する。だが、お絹は吉之助に気が残っていた。

一方、房吉はお絹を自分の女房にしたい気持ちでいっぱいで、「俺が助けなかったら、お前さんは死んでいた」と何度も恩着せがましく言う。「俺の女房にならないか?」と言うが、お絹は「私には吉之助さんがいます」の一点張り。

そんなやりとりをしている中で、お絹は「房吉を手玉に取る」ことを思い付く。この男に一度だけ身体を許して、それを踏み台にして、摂州へ行き、吉之助の気持ちを確かめる、それで駄目なら江戸の勘七のところに行けばいい、房吉のことは使うだけ使って捨てればいい…。

茂兵衛が「やめておけ」と言うのも聞かずに、房吉は25両の路銀を貰って、お絹と摂州へ。高田屋で啖呵を切るが、「お絹一人で来たなら妾にしたが、あんな男といるなら困る。諦めてくれ」と門前払いを食らってしまう。

そして、お絹は房吉と江戸へ向かうが…というところで今回は幕切れ。この後、お絹が毒婦に変わっていく様子を是非聴きたいものである。