インタビュー ここから「わたしらしく挑戦」蝶花楼桃花
NHK総合で「インタビュー ここから わたしらしく挑戦 蝶花楼桃花」を観ました。
桃花師匠は落語協会としては10人目の女性の真打だそうだ。2022年の昇進だが、もっと多くいるような気がしていたので意外だった。それだけ女流の噺家が増えて、それも活躍するようになり、目立つ存在になってきているということなのかもしれない。
前座名はぽっぽだった。その頃の落語界は今ほど風通しが良くなかったという。身内でも「女は認めない」という師匠もいたし、お客の中にも「女は聞かない」と言ってあからさまに席を立つ人もいたという。彼女が入門したのが、2006年。思い出してみたが、僕は女流に対してそれほど抵抗はなかったような気がするが。
「女の落語家」という理由だけで席を立たれるなんて、心が折れないのかと思うのだが、桃花師匠は「それだけの覚悟をしていたから」平気だったという。必ずいつか認めてもらえる日が来ると信じていたのだそうだ。「腰掛けなんでしょう?」という声に、そうじゃない!と分かってもらうためには「続けるしかない」と考えたのだという。肝っ玉が据わっている。
小朝師匠は「駄目だと思ったら、どんなにキャリアを積んでいても辞めてもらうから」と言っていたという。それを桃花師匠は“心の支え”にしたという。「辞めろと言われていないということは、大丈夫なんだ」と前向きに考えたわけだ。小朝師匠は無理めの課題を弟子に振って、それを乗り越えることができるかを試してきたそうだ。小朝独演会の開口一番に上がるときに、直前に「きょうはこのネタをやるように」と指定してくるのだという。それはとりもなおさず、常に稽古を続けていなさいというメッセージだったのだ。それを乗り越えて、“挑戦する精神”を養えたと桃花師匠は振り返る。
真打昇進後に女流芸人だけの寄席の10日間興行「桃組」を実行した。桃花師匠の考えはしっかりしている。これまでは「女性であること」だけで個性と見られていた。だが、女流芸人の中にも色々なタイプの個性があるのですよということを世間に知らしめたかったのだ。興行は千秋楽に向かって尻上がりに観客動員が増え、二階席の立ち見まで出る盛況となった。特に女性客の増加が顕著で、最終的に客席の半分が女性となったことに手応えを感じたという。
伝統ある世界でこれまでの概念を突破するエネルギーが桃花師匠にはある。ネガティブなことは考えないようにしている。そのために、SNS等は一切見ないようにしているそうだ。いわゆる「エゴサ」をすると気にしてしまう。今、目の前にいるお客さんに全力でエネルギーを注入するのだという精神が素晴らしい。
今年挑戦したのが、「31日間連続独演会」しかも「毎日必ずネタおろし」という無謀ともいえる試みだった。小朝師匠も30日間連続を若い時代に経験しているが、「大変だった」と言っていたという。普段、マイナスなことは言わない師匠からは聞いたことのない言葉だった。それでは、自分にも同じような「負荷」をかけてみようと思ったのだという。なぜあえてそのようなことに挑戦するのかというアナウンサーの質問に対し、桃花師匠は答えた。「自分を信じていないんです。だから、自分の七転八倒というドキュメンタリーこみでお客様に見てもらおうと。勿論、失敗はしたくない。だけど100%でぶつかれば、失敗も何かの救いになるだろうと考えた」。すごい。
小朝師匠がこの番組のために収録したビデオメッセージが温かかった。寄席を一カ月間貸すことを許した席亭、ネタおろしのために稽古をつけてくれた師匠たち、そして日替りでゲスト出演してくれた後輩の二ツ目たち、皆が桃花のために応援してくれた。これはここまであなたが努力をしてきた積み重ねがあればこそであり、このことは必ず自分のためになる。そう言って、小朝師匠はこの31日間連続独演会は「成功例」だと評価した。このメッセージを聴いて、桃花師匠は「勇気をもらった」と涙したのが印象的だった。
番組の締めで桃花師匠はこう言った。
落語という芸はその噺家自身を観る芸である。自分の人生が高座にすべて出る芸である。自分が様々な課題を突破していく姿を見て、自分のエネルギーが客席に伝わればこんな嬉しいことはない。だから、挑戦を続けるのだ。
これからも等身大の自分を出す何かを探していきたい。自分を正直に出すこと、正直であることは難しいことだ。だけれど、恰好をつけたり、取り繕ったりしないで生きていきたい。そのために勇気をもって突き進みたい。
僕も一演芸ファンとして、蝶花楼桃花のドキュメンタリーを観ていきたいと思った。