落語わん丈 三遊亭わん丈「県民性」、そして権太楼ざんまい 柳家権太楼「青菜」

「落語わん丈~三遊亭わん丈独演会」に行きました。「開帳の雪隠」「匙加減」「県民性」「壺算」の四席。それに加え、「寿限無の夜」を歌うサービスも。開口一番は柳家ひろ馬さんで「牛ほめ」だった。平日昼間の開催、真打昇進後にわん丈師匠の存在を知った新規のお客様が多いみたいで、歌含め比較的短めのネタでわん丈ワールドを堪能してもらおうという印象を受けた。

「県民性」。落語協会の新作落語台本募集で2023年度の佳作に入った今井洋之さんの作品「社内de県民ショー」を、わん丈師匠が再構成した高座。“県民性”を利用すれば、新入社員を円滑に教育できるという噺だ。

大阪人は「ちゃんと謝った方が面白いぞ」と言えば素直に受け入れてくれる、以下同様に東京人は「粋だよ」、京都人は「謝るのが伝統だから」、北海道人は「謝らないとセイコーマート出禁」、広島人は「ポプラ出禁」。埼玉県人には「その謝り方、東京みたい」、栃木県人には「謝らないと東北にするぞ」…。滋賀出身のわん丈師匠は「滋賀県人が馬鹿にされるのは仕方ない」と笑い飛ばしているのが可笑しかった。

夜は「権太楼ざんまい~柳家権太楼独演会」に行きました。「青菜」と「宿屋の仇討」の二席。開口一番は柳家ひろ馬さんで「転失気」、食いつきで柳家福多楼師匠が「悋気の独楽」だった。

「青菜」。庶民の象徴としての植木屋さんがお屋敷のハイソな暮らしぶりに憧れるところに、この噺の面白さがある。権太楼師匠が植木屋さん側に寄り添って演じるからさらに面白いのだ。

風の吹き方も長屋暮らしだと、あっちのトタンからこっちのゴミ溜めに吹いて、“化け猫が出るような”生温い風しか吹かないとか。鯉の洗いの下に敷いてあるぶっかき氷を口に頬張って、「この氷は冷えている」と喜んだりとか。だから、青菜が無くても、女房は「三銭で買った菜っ葉がいつまでもあると思ってんだい!」というのが落ちというのもお屋敷の隠し言葉と対照的で面白い。

女房がおかずの鰯の塩焼きを尾頭付きだよと言って、「頭に滋養があるんだ。カルシウム。だから犬は風邪ひかない」と亭主と犬を一緒にしているのも可笑しい。それに対し、亭主は女房と夫婦になったことを「50年の不作」と言って、稲葉の旦那に騙されたという。お見合いが上野動物園のカバの檻の前というのも、稲葉の旦那の策謀だった…と振り返る。庶民的な夫婦像を描くのが権太楼師匠は実に上手い。

勝気の女房がまた良い。お屋敷の奥様は三つ指をついてお辞儀をしたと亭主がその形をして見せると、「そういう形のカエルが出ると明日は雨だね」。旦那様と呼んでいたと言うと、「右や左の旦那様」と蒸し返し、仕入れてきたとっておきの隠し言葉を披露すると、「火傷のまじないかい?」とからかう女房のユーモアが愉しい。

それでも、似た者夫婦とはよく言ったもので、隠し言葉のやりとりを他人に見せたら、「この植木屋夫婦は元は華族様の出じゃないか」と思われるかもしれないと、この暑い最中、女房は“次の間”の押し入れに隠れて、大汗をかきながらスタンバイしている図を想像するだけでも楽しくなってくる。“爆笑王”柳家権太楼ここにあり、の高座だった。