奈々福、独演。銀座でうなる、銀座がうなる ~浪花節で三十年 記念の会

「奈々福、独演。銀座でうなる、銀座がうなる」に行きました。玉川奈々福先生の「浪花節で三十年 記念の会」である。初日が徳光和夫アナウンサー、二日目がタブレット純さんをゲストに迎えてのスペシャルバージョンだった。

奈々福先生は1994年10月に日本浪曲協会三味線教室に参加、翌年7月に玉川福太郎に入門し、翌月曲師として木馬亭にデビューした。だから、本人の言葉を借りれば、「少々フライング気味の三十年記念」だ。その後、2001年に師匠に勧められ、横浜三吉演芸場で浪曲師としてデビュー。木馬亭には2002年5月に浪曲師として初舞台を踏んでいる。何はともあれ、おめでたいのである。

初日 「阿武松緑之助」玉川奈みほ・沢村まみ/「亀甲縞の由来」玉川奈々福・広沢美舟/トーク 奈々福×徳光和夫/中入り/「物くさ太郎」玉川奈々福・広沢美舟

徳光和夫さんの人生の中で「特別な人」が3人いるそうだ。長嶋茂雄、ジャイアント馬場、美空ひばり。長嶋さんの一挙手一投足を自分の言葉で伝えたい…これがアナウンサーを志した動機だそうだ。奈々福さんが「徳光さん独特の文体ってありますよね、それはどこから来たんですか」と問うと、徳光さんは「自分では気づいていないんだよね」。アナウンサーとして日常の喋りにはそういう文体はなく、プロレスなどの実況中継にそういう部分はあるかな、と。

実況は「作る」もので、先輩の模倣から入ったという。昭和29年、日本のプロレスラーがアメリカのプロレスラーをなぎ倒すとき、アナウンサーの実況を聞いて国民は喝采した。そこには日本独特の七五調があって、そういう部分では浪曲と似ているのかもしれない、と。

茅ヶ崎に住んでいて、毎日通勤で東海道線に乗っているとき、窓から目に映るものを実況する訓練をしていたそうだ。先輩から「目の前に起きていることを実況する癖をつけろ」と言われていて、それは動いていないものは駄目で、次々と移り変わっていく様子を描写するのに、通勤電車は最適だった。いつも同じ電車に乗り合わせていた人が、たまに実況を止めると“喋る材料”として資料を提供してくれたりしたとか。

だから実況中継にはそういう“文体”みたいなものがあるかもしれないけど、その他のアナウンスには節はない…強いて言えば、歌番組の「イントロかぶせ」、あれは七五調ですね。でも、浪花節にはきっちりとした定型があるけど、アナウンサーは“個性を殺せ”と言われていて、あるのはそのアナウンサーの「持ち味」かな、と。

三波春夫さんは浪曲から歌謡曲に移った人だが、長編歌謡浪曲というものを確立した功績は大きいと評価されていた。プロデュース力、文章力の大変ある人で、あの鈴木健二アナウンサーが三波さんの歴史的考察力に敬意を払っていたくらい。代表作の「俵星玄蕃」にしても、三波春夫というより北詰文司という作家としてすごいと。歴史上の人物を様々な角度から表現していて、学問をする研究者という雰囲気を持っていた、と。

「徳光和夫の名曲にっぽん」という番組を担当しているが、歌謡浪曲は数字(視聴率)を取るんだそうだ。普通の歌謡曲は「覚えて、こなす」ものだが、10~20分ある歌謡浪曲はストーリーとして伝えなければいけないので、自分のモノに咀嚼する必要があり、「その人の俵星」を作らないといけない。自分のモノにする努力があるから、難しいことも良く表現できて視聴者に伝わり、数字を取るのではないか、と。

三山たかしさんは非常に熱心な歌手で、三波春夫が降臨したのではないかと思える歌唱を見せる。それは器用さだけではない、凝り方が尋常じゃないから出来ること。それが自分のコンサートにおける武器になっている。奈々福さんが、「三山さんは浪曲も見事なんですよ」とおっしゃっていたが、なるほどと思った。

二日目 「草加宿場のおせん茶屋」東家千春・沢村理緒/「風説天保水滸伝 飯岡助五郎の義侠」玉川奈々福・広沢美舟/「清水次郎長伝 お民の度胸」タブレット純・玉川奈々福~トーク 奈々福×タブレット純/中入り/「研辰の討たれ」玉川奈々福・広沢美舟&お囃子:望月太左衛・竹井誠

タブレット純さんの浪曲挑戦、素晴らしかった。本人いわく「緊張したけど、愉しかった」。ムード歌謡を歌う美声ということもあるが、節回しが抜群に良く出来ていた。これも奈々福さんと何遍も稽古を重ねた賜物だろう、奈々福さんが「一回一回変わっていく様を見て、教えている側も楽しくなった。三味線を弾きながら横顔が見られ、上達していくのが伝わってきた」。特に啖呵の部分で、都鳥吉兵衛と七五郎のやりとりの後、七五郎の女房のお民が口を出すところ、その豹変ぶりがタブレット純さんならでは。また、都鳥吉兵衛は俳優の遠藤太津朗さんを意識したというのも面白い。

ご自分のリサイタルで長編歌謡浪曲「俵星玄蕃」を歌ったのがきっかけで、浪曲を本格的に習いたいと思ったそうだ。歌は歌詞さえ頭に入っていれば、何も考えなくても歌える、「この後、どこの銭湯に行こうかな」とか考えながらでも歌える。だが、浪曲にはドラマがあり、その物語の中に入らないといけない、物語の世界が伝わらないとお客さんとの距離が縮まらない、と。歌は極端な話、良い声さえ出していれば喜んでくれる。そこが大きく違うとおっしゃっていたのが印象的だった。

浪曲への興味は、父親が寝床でカセットテープで聴いていたという原体験があって、そのときは正直「うるさいなあ」と思っていたそうだが、歳を重ねるにつれ、聴いていて心に入ってくるものがあり、「いつかやってみたい」と思うようになったそうだ。

奈々福さんとタブレット純さんは同じレコード会社に所属しているそうだ。純さんのリサイタルで和田弘とマヒナスターズの「誰よりも君を愛す」をデュエットしたという。きょうもサビの部分をお二人でハモるというサービスをしてくれて大盛り上がりだった。