江戸川落語会 柳家喬太郎「結石移動症」、そして渋谷らくご しゃべっちゃいなよ

江戸川落語会に行きました。

「動物園」春風亭昇ちく/「新聞記事」三遊亭萬橘/「えーっとここは」柳家喬太郎/中入り/「宮戸川」春風亭柳好/「結石移動症」柳家喬太郎

喬太郎師匠の「結石移動症」。職業に貴賤なし、というメッセージが熱く沁みてくる高座だった。池袋北口の洋食屋のケンちゃんが近所のソープランド「萬姫」に出前をして、ソープ嬢と和やかに会話している場面がまず良いなあ。ケンちゃんの店のメニューは「特別美味しくもないけど、特別不味くもない。でも、私たちの元気の源」と言っているのが好きだ。

そのケンちゃんが“結石移動症”という珍しい病気に罹り、店を閉めがちになると、萬姫のマネージャーが心配して、お見舞いにくるんだけど、そのときの贈り物がハインツのレトルトというのが洒落が利いているなあ。

ケンちゃんの長男のケンイチが久しぶりに実家に帰ってきた。結婚を決めた女性を紹介するために。そのミドリという女性を見て、ケンちゃんが「サツキちゃんだよね!」。そうなのだ。ミドリは以前に萬姫で働いていた元ソープ嬢で、源氏名がサツキと言った。ミドリがケンイチに言う。「隠すつもりはなかったの。ただ、言いそびれていて…」。ケンイチも「そんなこと関係ないよ。気にしないよ。いいんじゃないか」と答える。

だが、父親のケンちゃんが不機嫌だ。「別に大人なんだから、勝手に婚姻届を出して、仲良くやればいいんじゃないか」…言い方に剣がある。ミドリが「駄目なら駄目と言ってください。確かに後ろめたい気持ちがありました。でも、ケンちゃんはお父さんみたいな存在で…いつも私たちソープ嬢にお天道様の下を胸を張って歩け、堂々と歩け、後ろ指差す奴がいるかもしれないが、お前たちのお陰で救われている奴もいる…そう言ってくれた。でも、ソープ上がりが息子の嫁じゃ、やっぱり嫌なんだよね」。

すると、ケンちゃんはそうではないと言う。「ソープは確かに誤解を受ける職業だ。だが、気に入らないのはそこじゃない。ケンイチにそのことを言わなかったことだ。隠し通せるとでも思ったのか。夫婦というものは山あり谷あり、それを乗り越えていかなくちゃいけない。それなのに、最初から隠し事をしてどうする」。本当にそうだと思う。ソープ嬢とか、そうじゃないとか、関係ない。お互いを理解し合って、夫婦というのはスタートしなきゃいけない。

ミドリが東洋医学の権威で、大塚で鍼医をしている堀田先生を紹介し、“余命三ヶ月”だったケンちゃんの結石移動症が奇跡的に完治した。感謝、感謝である。ケンちゃんはミドリに対し、「これでハードルが下がったとか、点数稼ぎができたと思うなよ」と言うと、ミドリは「そんなつもりじゃない。ただ、私が手首を切って死んでしまおうと思っていたときに、それを思い直させた恩人であるケンちゃんが助かってほしいと思ったから…」。純情である。これでケンちゃんとミドリの間の妙なしこりは消えた。そして、池袋北口の小さな洋食屋に新しい働き手が増えて、幸せな家族となったという…。素敵な人情噺だなあと思った。

配信で「渋谷らくご しゃべっちゃいなよ」を観ました。4人の若手二ツ目さんが新作落語のネタおろしに挑戦。また、ゲスト枠として渋谷らくご創作大賞第1回受賞者である玉川太福先生が高座を勤めた。

柳家花ごめ「作ろう!建てよう!」

色々な建物を発泡スチロールで作るという企画がメインの人気子ども番組。ところが主演であるコウタお兄さんが失踪してしまった…。さあ、どうしようとアシスタントたちが困惑しているが、実はコウタお兄さんは女癖が悪く、アシスタントたち全員に手を出していたという…。そして、そのアシスタントの一人であるユキちゃんがコウタお兄さんを殺害、ニュースでは「首のない死体が発見された」と報道された。首は冷蔵庫に隠してあるので、これで首塚を建てよう!…なんともオカルトチックな終わり方が花ごめさんらしい。

春風亭昇咲「大罪」

落語会で携帯電話を鳴らしてしまうというのは本当に迷惑だ、という流れから、でも他に落語会における罪はあると言って、罪人にされた人たちの犯行を挙げていく。芸人の評価を〇や△、点数などで評価してメモするおじさん、オチを先に言っちゃうおばあちゃん、新作落語が始まるとゆっくりと目を閉じるおじいちゃん…。単なる羅列ではなく、ストーリー性を持たせると良いと思った。

林家きよ彦「免許皆伝」

すごい良く出来ている!箪笥職人の師匠に弟子入りした男が3年の修業を経て、独立を許された…。だが、その“弟子”は“とある方”から依頼を受けた修業代行サービス業者だったという!「見て覚えろ」は現代においてはタイパ(タイムパフォーマンス)が悪い等、伝統の世界における修業の非合理を指摘するところ、きよ彦さんのセンスが光っている。「見て覚える」の代わりに動画を撮ったところ、YouTubeで200万回再生となり、箪笥系ユーチューバーまで誕生したという…。そして、その人こそが師匠の娘のサトミだった。そして、その母親は…最後のサゲまで良く練られている一席だった。

三遊亭青森「スタッフルーム」

ある地方都市郊外のショッピングモールでの幼馴染のキヨシとユージのやりとり。キヨシの両親と姉はゾンビに襲われ、またキヨシ自身もゾンビに嚙まれたとか、噛まれないとか。独特の青森さん的世界観の創作で、理解力の低い僕は置いてけ堀になってしまった。

玉川太福(曲師:玉川鈴)「うーる」

羊の毛刈りの技術を継承する師匠と弟子のやりとり。本場のニュージーランドで開催される世界大会で優勝を目指して、マザー牧場から出場する弟子は厳しい訓練にも耐え、意気込む。浪曲の形式に囚われない自由な表現、それを型破りと呼べばいいのだろうか、さすが浪曲界の新しい道を切り拓いていく太福先生らしい高座だった。