圓朝十夜春夏秋冬 隅田川馬石「双蝶々 権九郎殺し~雪の子別れ」

上野鈴本演芸場六月上席九日目夜の部に行きました。今席は隅田川馬石師匠が主任で、「圓朝十夜春夏秋冬」と銘打ったネタ出し興行だ。①お若伊之助②真景累ヶ淵 豊志賀の死③同 お久殺し④文七元結⑤乳房榎 おきせ口説き⑥同 重信殺し⑦芝浜⑧鰍沢⑨双蝶々 権九郎殺し⑩同 雪の子別れ。「双蝶々」の二席を伺おうと、まずは九日目に行った。

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馬石師匠の「権九郎殺し」。幼い頃から性悪だった長吉は大家の助言もあって、下谷山崎町の黒米問屋の山崎屋に奉公に出される。小僧の中では算盤も出来が良く、気働きもあって如才ない。だが、番頭の権九郎はかえってそれが「一癖ありそう」と感じていた。

湯屋の帰りがいつも遅いのを怪しんで、権九郎が後をつけると、長吉は長五郎という悪友と組んで、下谷広徳寺前で芝居見物の帰りの娘二人を襲い、頭の簪を盗むという悪事を働いているところ目撃する。店に帰って、長吉の仕着文庫を調べると、中から高価な煙草入れ、紙入れ、印籠、櫛や笄、それに10両金まで出てきた。

店に戻った長吉を問い詰めると、長吉は「持ち物道楽だ」「親父が寝たきりになり、その薬代だ」等、嘘を並べる。権九郎は旦那にこのことを告げ口すると脅すが、実は権九郎も悪い奴だった。旦那に言わない代わりに、50両を盗んで欲しいと頼むのだ。権九郎は吉原の半蔵松葉の花魁、吾妻にご執心だが、間もなく若旦那に身請けされそうなので、先に自分が身請けする資金が必要となったのだ。

旦那と女将の寝室にある洋箪笥の上から二番目に、きょう旦那に渡した50両があるから盗めという。長吉は了解し、急に腹痛を起こした芝居をして、女将さんから薬の入っている洋箪笥の鍵を借り、まんまと50両を盗み出す。長吉にとってはどうってことない仕事なのだろう。だが、長吉はこのまま権九郎にみすみす渡すのも悔しい。

「番頭をぶち殺して奥州へ逃げるか」。そう独り言を言ったとき、ちょうど便所に行っていた定吉に聞かれてしまう。長吉は「お前が欲しがっていた掛け守りを買ってやる」と言って、手拭いで寸法を測るふりをして、定吉の首を絞め、殺してしまう。

九つの鐘が鳴る。権九郎との待ち合わせ場所、浅草の六郷様の塀外へ。「長吉は何をしているのやら」と待つ権九郎のところへ、長吉がやって来るところから、鳴り物が入り、芝居掛かりとなる。「首尾はどうだった?」「安心してください。金はこの通り」「お前のことだから、仕損じはしないと思ったが。これですぐに身請けに行ける。渡してくれるか」「こっちも入り用。渡せません。そんなに金が欲しいなら、お店にいくらもあるだろう」「長吉…渡さぬと言うのかえ?」「渡さぬのであれば、何とする?」「腕づくでも取ってみせる」「豪気な台詞だな。取れるものなら、取ってみろ」「こうして取るのじゃ!」。

ここで附けが入り、二人が揉み合う場面をしっかりと見せる馬石師匠の演技が素晴らしかった。そのうちに長吉が刀を取り出し、権九郎を斬る。「おのれ、斬りおったな!人殺しじゃあ!」。留めを刺す長吉。「人殺し!」という声を背中に、頬被りをして逃げる長吉…。息を飲む「権九郎殺し」であった。

上野鈴本演芸場六月上席千秋楽夜の部に行きました。隅田川馬石師匠の「圓朝十夜春夏秋冬」、きのうの続きで「双蝶々」の後半部分だ。

「元犬」隅田川わたし/「ろくろ首」桃月庵こはく/太神楽 鏡味仙志郎・仙成/「野鳥の怪」古今亭志ん五/「だくだく」柳亭燕路/紙切り 林家八楽/「初天神」柳亭左龍/「へっつい幽霊」むかし家今松/中入り/民謡 立花家あまね/「戦え!おばさん部隊」三遊亭白鳥/奇術 ダーク広和/「双蝶々 雪の子別れ」隅田川馬石

馬石師匠の「雪の子別れ」。長吉が山崎屋の定吉と権九郎を殺して、盗んだ50両を持って奥州に逐電したと聞き、父親の長兵衛は世間に申し訳ない気持ちで湯島大根畑を去って江戸の町を転々とした。本所に住んだときに、患いついて寝込み、女房のおみつが看病するが、如何せん貧乏である。

おみつは観音様にお百度を踏みに行くと言って、只野薬師の石置き場で通る人に物乞い、袖乞いをするが、慣れないことゆえ、うまくいかない。逆に千住に女郎買いに行く途中の男に「何も減るものじゃなし」と物陰で性交を求められ、「ただで銭などやれるか!」と罵倒される始末だ。

それでも袖乞いを続けていると、旅姿の男が事情を聞いて気の毒に思い、「こんな真似は当分しないで済むように」と3両ほど恵んでくれた。ビックリするような大金に、おみつは「お顔だけでも…」と礼を言うと、ちょうど風が吹いて提灯の火が燃え上がり、頬被りが取れて男の顔が判る。「お前は長吉!」「おっかあか!」。運命の再会である。

長吉は今は奥州石巻で魚屋をやっているが、一目ちゃんに会いたいと江戸へ出てきたという。だが、湯島大根畑に行ってもおらず、あちこち探したが見つからなかった、ここで出会えたのも何かの因縁、今さら会えた義理ではないが、一目でいいからちゃんに会わせてくれと懇願する。顔を合わせるのも面目なく、継母であるおみつには散々酷いことをして、恨みに思っているのは百も承知で頭を下げる。

おみつは袖乞いをしていたことは内緒にしてくれ、親父は小言も言うだろうが逆らわずに聞いてやってくれと言って、長吉を自分たちの住まいに連れて行く。長兵衛がおみつに「腰抜けになった俺に愛想尽かしをして、いなくなっちまったとかと寂しく思った」と言うと、おみつは「お前さんを置いて逃げるわけがないだろう。観音様でお百度を踏んでいた」と答える。すると、長兵衛は「もうお百度はやめてくれ。無理な願いは叶わない。俺の身体はそう長くない。お前まで患ったら、二人で惨めになる。どこへも行かないで、傍にいて、死に水を取っておくれ」と頼む。

おみつは「珍しい人に会ったんだよ」と切り出す。「お前さんに会いたいという人だよ。小言無しで会っておくれ」。長吉が家の中に入る。「ちゃん!もっと悪いのかと思ったら、元気そうじゃないか。直に良くなるよ」。長兵衛は「すっかり耄碌してしまって。どちら様ですか?」。「忘れちまったのか?俺だ!長吉だよ!」と長吉が言うと、長兵衛の態度が変わる。

俺の前へ、よく面が出せたな。性根が曲がって、奉公先で人殺しまでして、世間様に済まないと思わないのか。お陰で俺はこんな身体になっちまった。俺がどんな身体になろうと、心配なのはお前のことだった。どこにいるのか。どんな暮らしをしているのか。親の心子知らずとはこのことだ。死ぬにも死にきれない。罰当たりめが!

長吉が答える。今は奥州石巻で魚屋をやって暮らしている。ちゃんに会いたくて、出てきた。方々探したんだ。でも、見つからなかった。それが観音様のところでおっかあに会った。ここに50両ある。良い医者に診てもらい、良い薬を飲んで、身体を治してくれ。そして、俺に似ない良い子どもを貰って、幸せに暮らしてくれ。

長兵衛が怒鳴る。こんな金、いらねえ!良い子どもを貰ってだと?よくもそんなことが言えるな。もう二度と悪いことはしない、だから傍に置いておくれとなぜ言えないんだ!

長吉は親父の気持ちが十分過ぎるほど判った。でも、奥州石巻には自分を慕う子分が大勢いる。でも、そんなことは言えない。気持ちとは反対の言葉を発する。「勝手にしろ!このくたばり損ない!そうやって強情張るから、おっかあは苦労するんだ!」。

これに対し、長兵衛も親心がある。「長吉!どんなことがあっても、戻ってくるな。だが、そのナリだと千住の大橋を越せない。大根畑の大家さんから貰った羽織がある。それを着ていけ!」。長吉はおみつから羽織を受け取り、「あとを頼む」。去り際、長兵衛が「もう一度、面を見せろ」「ちゃん!」「長吉…」。

長吉は後ろ髪を引かれる思いで長兵衛宅を後にし、雪の降る中、吾妻橋へと差し掛かる。三味線がなり、長吉の想いの丈を芝居台詞で表現する馬石師匠が素晴らしい。親子は一世と言いながら、思えば儚い身の上だなあ。

そして、「御用だ!」の声が長吉の四方八方を取り囲み、長吉は召し捕りとなった…。どんなに親不孝をしていても、親と子の間の情愛というのは決して消えることがない。そんな感慨に浸った高座だった。