WonderWomansWorks 春風亭一花「ハワイの雪」、そして春風亭一之輔のドッサりまわるぜ「転宅」

WonderWomansWorksに行きました。弁財亭和泉師匠が音頭を取って、若手に他の噺家さんが創作した作品に挑んでもらう企画だ。

東家千春(曲師:沢村理緒)「わんにゃん物語」(三遊亭白鳥作)

お婆さんが神社で拾ってきた白いふわふわした毛並みのネコに「肉まん」という名前を付けて、ネコ嫌いのお爺さんに内緒で飼っていたら、風邪をひいたお爺さんの行火(あんか)代わりになって、それまで飼っていたお菊という名のチワワ同様に可愛がるようになり、4人?家族で暮らすようになったというのが良い。

お爺さんは孫のタカシを名乗るオレオレ詐欺に引っ掛かり、お婆さんと豪華客船クルーズをしようとアルバイトして貯めた200万円を奪われそうになるが…。ネコの肉まんとチワワのお菊の活躍によって、その詐欺男を追跡、見事に撃退して大団円。不思議と浪花節と相性が良く感じられたのは、千春さんの腕によるものだろう。新しい可能性を発見した。

春風亭一花「ハワイの雪」(柳家喬太郎作)

ハワイに住む千恵子さんがうわ言のように「留吉さん、留吉さん」と言っている、どうか祖母の最期を看取ってほしいという孫のジョージ藤川からの手紙をメグミが読み上げると、最初は「何をいまさら」「昔の話だ」と意地を張っていた留吉さんも、最後には本音が出て、「めちゃくちゃ行きたい、めちゃくちゃ会いたい」というのが可愛い。

死んだ婆さんにも、倅にも話したことがない留吉さんの話。千恵子さんは「トメちゃんのお嫁さんになりたい」と言っていた三歳下の幼なじみだった、だが進歩的だった千恵子さんは広く世界を見てみたいとハワイに渡り、太平洋戦争によって異国の人となって離れ離れになってしまった…。ここで「でも勘違いはするな。わしは結婚した婆さんが好きだった」とけじめをつけているのが素敵だ。

そして、ハワイの自宅の庭の椅子に座っている千恵子さんと留吉さんの再会。「チエちゃん!」「あら、そろそろお迎えが来たかしら」「チエちゃん!留吉だ」「上越高田の人が来るわけがない」「チエちゃん、顔を見にきたよ」「夢じゃないかしら」。「いい人生だったらしいな」「はい。夫にも恵まれ、子にも恵まれ、孫にも恵まれました。幸せだったわ。トメちゃんは?」「わしも婆さんと結婚して幸せだった。でも、チエちゃんのことを忘れることはなかったよ」「ごめんなさい。私、あの頃、若かったから。私も忘れたことはなかったわ」。

そして、幼い頃の「大人になったら一緒に雪かきをしよう」という約束を、留吉さんの掌に積もるハワイの雪を千恵子さんが指で引っ掻いて、「やっと夢が叶いましたね」。「今度生まれてくるときも、同じ上越の町で、同じ三つ下で生まれてきてくれ。捨ててくれるなよ」。天国に召された穏やかな顔をした千恵子さんに留吉さんが言う。「ありがとう、チエちゃん!わしももうすぐ行くよ」。女性の噺家が演じることで、名作落語のまた違った魅力に触れた気がした。

林家きよ彦「おじいせん」(弁財亭和泉作)

おじいさん大好きアプリで知り合ったアイコとマミマミの男性観にただただ圧倒される、ダメ男ばかりに引っ掛かる三十代のミキコとの対照が面白い。無職でも年金収入のある“ちょいニート”、カサカサでシワシワで儚げな感じが堪らないという。アイコがご執心だったカッツンこと勝次郎さん八十八歳の携帯から合コン当日に家族から悲しい連絡が…。高齢化社会と多様性の時代を反映した快作、きよ彦さんの演技力が光っていた。

弁財亭和泉「落語の仮面~コロナ外伝」(三遊亭白鳥作)

コロナ禍によって、ことごとく寄席、ホール落語、地域寄席が中止になり、自分は何をすべきなのか迷った三遊亭花は師匠の月影先生から、「夢幻桜」の桜の精の気持ちを知るために「植物を題材にした古典落語から学べ」という命が下る。すなわち、人間の欲とは反対の“枯れた”境地になること、華やかとは対極にある地味で平凡なものにヒントがあるのだという。

花は噺家仲間から古典落語「茄子娘」の存在を知り、この噺を得意とした先代入船亭扇橋の“枯れた芸”を学ぶ。そんなとき、居酒屋で食べた金目鯛の煮つけの骨が喉に刺さり、誤嚥性肺炎にもなりかねないピンチを、名医によって助けられ、花は「死は誰にでも突然襲ってくるもの」と教えられる。この出来事と「茄子娘」が実はつながっていた!

そして、「思いを誰かに伝えること」の大切さが少し判った花は、落語が演りたい、諦めたらいけないという思いを強くする。その思いの源は「新作魂」だと悟り、新作の花を咲かせ続ける決意をするのだった。

和泉師匠は「魚の骨が喉に詰まった」だけの噺と謙遜していたが、漠然とではあるが、コロナ禍を経て新作落語家としての自覚がさらに確固たるものになった自分と重ね合わせているように感じられた…というのは考えすぎだろうか。

夜は春風亭一之輔のドッサりまわるぜ2024に行きました。11月まで続く全国ツアーは銀座ブロッサムでの開催からスタートした。

「啞の釣り」春風亭与いち/「浮世床~本」春風亭一之輔/「転宅」春風亭一之輔/中入り/「甲府ぃ」春風亭一之輔

「転宅」。妾宅に入り込んだ泥棒先生が旦那が飲み残した酒と食べ残した肴にありつくところから愉しい。酒を飲んで、ワンテンポ置いたところで「美味い!」というのは、美味しい酒ほど美味しさが伝わってくるのが遅いということなのか。これを繰り返すと、それが説得力を持つ。また、茄子だと思って箸置きを口にしようとする慌てぶりも可笑しい。後から部屋に入ってきたこの家の主、つまりお妾さんが「そんな剽軽な泥棒はいない!旦那が頼んだ“かっぽれ泥棒”?」と言うのも判らないでもない。

実はさっきの旦那とは100円の手切れ金で別れることになっている、だれか所帯を持ってくれるいい人はいないか?と相談を泥棒に持ちかけ、「あなたが私の好みの器量だ。連れて逃げておくれ」と迫るお妾さん。これに対し、泥棒先生が「女の人はお母さんとお姉さんとしか口を利いたことがない」とドギマギしてしまって、「友達からお願いします!」というのが笑える。

夫婦固めの盃を交わした後、お互いの名前を教え合うところ、「俺の親分はもぐら小僧の泥之助、あっしは一の子分でいたち小僧のサイゴベエ」と言うと、お妾さんは「私のお祖母ちゃんは高橋お伝、私は高橋はんぺん…冗談よ。高橋お菊。呼び捨てにして」と言われ、泥棒先生が「おい、高橋!」と苗字の方を呼び捨てにするのが面白かった。

翌日、三味線を弾くのを合図に訪ねてきておくれと骨抜きにされた泥棒先生、妾宅をぐるぐる回りながら、夫婦になったあとの生計について妄想を膨らますのが可笑しかった。手切れ金の100円を元手に湯屋を開こう!俺が番台に座ると、お菊が「女湯を見ていたでしょ!悔しい!」と焼き餅を妬く。店を閉めたら、男湯と女湯に分かれて風呂に入る。敷居越しに「もう脱いだ?」「いま、どこを洗っているの?」…そのうちに声を掛けても返答がない。すると、後ろから裸のお菊が「お前さん!」と現れる!一体、どこまで愉しくなるのか、一之輔版「転宅」、楽しみである。