桃組×落語協会百年興行 三遊亭歌る多「西行」

浅草演芸ホール五月下席千秋楽夜の部に行きました。去年好評だった女性芸人だけで番組を作る「桃組」公演、今年は落語協会百年興行として、その第2回公演がおこなわれた。去年は主任を真打昇進して間もない蝶花楼桃花師匠が10日間勤めたが、今回は毎日日替わりで女性真打が主任を勤めた。①桃花②律歌③きく姫④駒子⑤ぼたん⑥こみち⑦菊千代⑧和泉⑨つくし⑩歌る多。きょう千秋楽の主任は、菊千代師匠とともに女性で初めて真打に昇進したパイオニア、三遊亭歌る多師匠だった。

「小粒」金原亭杏寿/「追っかけ家族」林家きよ彦/粋曲 柳家小春/「洒落番頭」三遊亭律歌/「動物園」古今亭駒子/余興 林家きよ彦・鈴々舎美馬/「宗論」林家きく姫/「権助提灯」古今亭菊千代/奇術 小梅/「鼓ヶ滝」蝶花楼桃花/中入り/「人の恩返し」柳家花ごめ/「反対俥」林家つる子/漫才 ニックス/「十枚目」月亭天使/粋曲 柳家小菊/「西行」三遊亭歌る多

二ツ目が交代で担当する余興、きょうは♬モスラのテーマの出囃子に乗って、きよ彦さんと美馬さんが登場。「お・ぴーなっつ」というユニット名は勿論、ザ・ピーナッツをもじったもので、歌ったのは♬恋のバカンスの替え歌で「寄席はバカンス」。実はつる子・一花・あんこの三人が、キャンディーズをもじった「おきゃんでぃーず」というユニット名で既に活動しており、「お・ぴーなっつ」の「お」はそれをパクったもの。それをつる子師匠が自分の高座のマクラで指摘すると、袖からきよ彦と美馬の二人が飛び出すという茶番も。愉しい。

上方からのゲスト枠も毎日設けられていたが、きょうは月亭天使さん。「皿屋敷」をベースに舞台を現代にした新作落語が面白かった。お菊さんが出る井戸に“10枚目の皿”を持って行くと、願いが叶うという噂が広まり、葵の皿なのに青い皿を持ってくる人、葵の紋をくまモンと勘違いする人、挙句にヤマザキ春のパンまつりの皿を持ってくる人まで現れる。合コンでチヤホヤされたいと祈願に来た女性と一緒にお菊さんもついて行くという…。「あれ?足あったんだ!」「普通にコンビニとか行くよ」には笑った。

歌る多師匠の「西行」が素晴らしかった。中入りで桃花師匠が「鼓ヶ滝」を掛けたのに応えたのかどうかは判らないが、大師匠にあたる二代目円歌師匠の作品をしっかりと聴かせてくれた。

染殿の内侍に対し、萩大納言が嫌がらせで送った歌「蝶ならば二つか四つも舞うべきに 三羽舞うとはこれは半なり」。返歌に困っていた内侍に北面の武士である佐藤兵衛尉憲清が助け船を出す。「一羽にて千鳥といへる名もあれば 三羽舞うとも蝶は蝶なり」。素敵である。

以来、佐藤兵衛尉憲清が染殿の内侍に恋煩いをしているという噂を聞いた内侍は見舞いの手紙を出す。その文面から「三日目に西の阿弥陀堂で会いましょう」というメッセージがこめられたというのも、教養のある者同士ではないと判らないやりとりだ。

その待ち合わせ場所でうたた寝をしてしまった佐藤兵衛尉憲清に対し、染殿の内侍は「実あらばいかでまどまん 誠なければうたた寝をする」。これに対し、目覚めた佐藤は即座に「宵は待ち夜中に恨み暁は 夢にや見んとしばしまどろむ」。これによって、二人は男女の仲になったというのがロマンティックだ。

その後、佐藤兵衛尉憲清に義太夫の素養がなく、「伊勢の海阿漕ヶ浦にひく網も 度重なれば人もこそ知れ」が判らなくて、染殿の内侍との縁が切れてしまったという終わり方も綺麗だ。佐藤兵衛尉憲清はこの後、仏門に入って西行と名乗り、歌の道で名を馳せたという…。素敵な高座に感謝である。