権太楼噺爆笑十夜 柳家権太楼「死神」

上野鈴本演芸場五月上席七日目夜の部に行きました。柳家権太楼師匠が主任を勤める特別興行「権太楼噺爆笑十夜」の七日目、ネタ出しは「死神」である。

「牛ほめ」三遊亭歌きち/「権助芝居」柳家甚語楼/太神楽 翁家社中/「手水廻し」春風亭百栄/「蜘蛛駕籠」入船亭扇遊/ものまね 江戸家猫八/「ぐつぐつ」柳家小ゑん/「睨み合い」林家彦いち/中入り/漫才 ニックス/「匙加減」三遊亭わん丈/「歯ンデレラ」林家きく麿/紙切り 林家二楽/「死神」柳家権太楼

権太楼師匠の「死神」。人間は欲の生き物。生きていること自体が欲なのだから仕方がない。しかし、それが度を過ぎて、強欲になるといけない。そんなメッセージが権太楼師匠の高座から伝わってきた。

金策が尽きて、「死んでしまおうか」と思った男の前に現れた死神は、「教えてやろうか。お前はまだまだ寿命があるから死ねない。俺が金儲けを教えてやる」と言って、医者になれと言う。患者の枕元に死神がいたら諦めろ。だが、足元にいたら、呪文を唱えれば死神は消える取り決めになっていて、患者の病は治るという。男は半信半疑だったが、言う通りにすると、これが面白いように運ぶ。

日本橋の山形屋善右衛門を皮切りに、ことごとく患者の足元に死神がいて、これを退散させ、礼金が懐に入る。たまさか枕元にいるときは「寿命です」と言うと、男が去った直後に患者は亡くなる。この人は生き神様ではないか、と崇められるまでになる。

そこが落とし穴だ。男はどんどん裕福になると、裏長屋から表通りに出て、屋敷を構え、女房と子供を厄介払いして、芸者・幇間と遊興三昧。京大坂に物見遊山に出掛け、贅沢の限りを尽くし、散財する。すると、金の切れ目が縁の切れ目。男を取り囲んでいた連中は蜘蛛の子を散らしたように消えていく。

医者の看板を掲げれば、また元の通りに金が入るだろうと考えたが、これが悲しいくらいに依頼が来ない。来たとしても、以前とは逆に患者の枕元に死神がいることばかりだ。景気が良いということは、その後に景気が悪くなることが巡ってくるというのは世の常。慢心をしていた男が悪い。

困り果てていたとき、麹町の大黒屋金兵衛から診てほしいという依頼が入るが、やはり患者の枕元に死神が。「駄目なものは駄目…」と諦めていたが、大黒屋の番頭の「二日寿命を延ばして頂ければ、五千両差し上げる」という甘い言葉と、「そこを何とか先生のお知恵で」というたっての願いを受けて、男は犯してはいけない禁じ手を使ってしまう。患者の布団を半回転して、死神を枕元から足元に移動させてしまうという計略だ。

作戦は成功するが、金に目がくらんだ代償は大きかった。件の死神が男の前に現れ、「お前に見せたいものがある」と言って、穴倉に連れていかれ、夥しい数の蝋燭を見せられる。その蝋燭は人間の寿命だ。追い出した女房と息子の蝋燭は元気に燃え盛っている。その脇で今にも消えそうな蝋燭が「お前だ!」と言われる。

本当は長生きするはずだったが、「お前は五千両で自分の命を売ったのだ」と死神に宣告された。「言ったろう?枕元の死神には手を出すなと」。

死神は男に厳しい言葉を投げかける。「お前は銭に負けたんだ。消えるよ。消えると死ぬよ。お前は欲に負けたんだ」。情けで灯しかけの蝋燭を渡され、自らの寿命を延ばす余地を与えたが、男は恐怖で身体が震える。「震えると消えるよ。消えると死ぬよ。お前は欲に負けた…」。死神がそう言っている横で男は上手く蝋燭を継ぎ足すことが出来ず、倒れる。

「消えたな」。死神の最後の冷酷な台詞が、強欲に生きようとする人間への警告にも聞こえて、背筋がゾッとした。