日本浪曲協会五月定席 港家小柳丸「神田祭 勇みの吉五郎ご恩返し」

木馬亭の日本浪曲協会五月定席六日目に行きました。

「琴櫻」天中軒かおり・沢村博喜/「沼津の秋太郎」東家三可子・旭ちぐさ/「歓喜の歌」港家小ゆき・沢村道世/「天保水滸伝 平手造酒の最期」玉川太福・玉川みね子/中入り/「母の幸せ」天中軒月子・旭ちぐさ/「勧進帳」一龍斎貞橘/「神田祭 勇みの吉五郎ご恩返し」港家小柳丸・沢村道世/「決戦巌流島」天中軒雲月・沢村博喜

かおりさん。2月の木馬亭初舞台以来、ずっと「若き日の小村寿太郎」だったが、ついに二席目のネタ卸しの許可が出る。大好きな相撲、しかもこの五月場所から大関・琴ノ若が琴櫻を襲名するタイミングとあって嬉しそう。

第53代横綱の琴櫻傑將の一代記。警察官の父親が柔道二段だったが、息子の紀雄は倉吉農業高校在籍時に三段となり、柔道を選ぶのか、相撲を選ぶのか悩みながらも、相撲を選ぶ。鳥取県から天下の横綱を出してくれという周囲の期待を背負って、大好きな力士である琴ヶ濱のいる佐渡ヶ嶽部屋に入門し、元琴錦の親方の指導を受けることになる。角界一の荒稽古と言われた佐渡ヶ嶽部屋で“猛牛”と渾名されるほど稽古に励んだ…、そして…というところでお時間いっぱい。前座なので持ち時間が15分、仕方ないが、いつの日かかおりさんのフルバージョンの「琴櫻」が聴けるのを楽しみにしている。

三可子さん。父親・藤兵衛の許に20年ぶりに藤太郎がヤクザ稼業から足を洗い、故郷の金山に戻ってきたと思ったら…。女房になるつもりのおゆきもこれで祝言が出来ると喜んでいたが…。実はこの男は“沼津の秋太郎”で、“美濃の藤太郎”を斬り殺した張本人だった。秋太郎は死ぬ直前に藤太郎から、「俺の帰りを待っている親父に、この金を渡してくれ。そして俺の代わりに親孝行してくれ」と53両を託されたという。形見の脇差を持って、秋太郎は自害をしようとするが…。物語はまだまだ先がありそうだが、ちょうど時間となりました。声の伸びも良く、ストーリーがくっきりと頭に入ってきて聴きやすい。

小柳丸先生。面白かった。強欲な質屋で、裏で高利貸しをしている井筒屋は“ケチ”で有名な財産家で20万両の資産がある。その井筒屋に対し、萬屋五郎兵衛は100両を貸してほしいと頼みに来る。今度、神田明神の祭りで女を出す趣向があるが、女房は患って床におり、娘のお花十八歳を吉原の三笠屋に売ってしまった、そのお花を取り戻すのに100両が必要なのだと言う。だが、「100両借りようなんて盗人根性だ」と井筒屋は一笑に付してしまう。

この話を偶々、井筒屋の茶の間の鴨居を直していた大工の棟梁、吉五郎が聞く。“勇みの吉五郎”と渾名されるほど、漢気のある人物だ。何とかしてあげたい、と考える。というのも、五郎兵衛の父親の五左右衛門には一方ならぬ恩を受けて今日がある。女房のお蔦と相談し、持っている長屋25軒と家財道具、大工道具一式をカタに井筒屋に持って行き、100両をこしらえようという算段にした。

「訳は聞かずにお願いします」と吉五郎は井筒屋に頭を下げ、井筒屋もこれを承諾して、100両を貸した。この100両を持って、吉原の三笠屋半兵衛のところに行き、五郎兵衛の娘お花を身請けしたいと願い出る。「恩人のために」という吉五郎に、三笠屋は詳しく事情を聞きたい、事と次第によっては力になると言う。そして、事情を聞いた三笠屋は「半分の50両で手を打ちましょう」。

お花、吉五郎、お蔦の三人を乗せた三つの駕籠が神田白金町の萬屋に到着。お花を出迎えた、五郎兵衛の目には涙が浮かぶ。そして、迎えた神田祭。誰よりも綺麗で目立つお花を井筒屋の息子の宗三郎が見初める。父親は萬屋に「是非、嫁に迎えたい」と願い出るが…。

ここで勇みの吉五郎の出番だ。「きっぱりとお断りします。あなたは萬屋さんが100両貸してほしいとお願いに行ったときに何と言った?その盗人根性という言葉を忘れやしない!」。井筒屋は二の句も告げない。「悪かった。これからは心を入れ替えますので、どうかよろしくお願い致します」。

吉五郎は「井筒屋の財産の20万両のうちの2万両を結納金として出すなら」と条件を出して、萬屋お花と井筒屋宗三郎の結婚を許す。すると、井筒屋は「いえいえ、20万両そっくりお出しします」。吉五郎夫婦が仲人となり、めでたく婚礼を挙げたという…。これぞ江戸っ子気質!という目の覚めるような高座だった。

雲月先生。佐々木小次郎との対決に出掛ける宮本武蔵に対し、弟子の伊織の問いかけが良い。「小次郎様に恨みがあるのですか?それとも、小次郎様が先生に恨みがあるのですか?…恨みがないもの同士がなぜ、決闘をしなければならないのですか?」。

武蔵は答える。同じ細川家に召し抱えられた剣を志す者として、いずれかが死に、いずれかが傷つく。雌雄を決するのは必定である。剣客というのは討つ、討たれる、両方の覚悟をしておかなければいけない。好敵手を見ると心が踊る。勝ちたくもない、負けたくもない。与えられた避けがたい運命なのだ。

伊織が言う「剣は哀しいものですね」という台詞が印象に残った。