落語教育委員会 三遊亭兼好「品川心中」

落語教育委員会に行きました。オープニングコントは大喜利謎かけ編、三遊亭歌武蔵師匠が「家見舞」、柳家喬太郎師匠が「そば清」、三遊亭兼好師匠が「品川心中」、開口一番は春風亭いっ休さんで「鰻屋」だった。

喬太郎師匠の「そば清」。「どーも!」と軽い調子で現れ、すっとぼけた顔で“蕎麦の賭け”に応じる、そば清ことそばの清兵衛さんのずる賢さが光る。20枚、30枚の蕎麦を気持ち良いくらいに凄い勢いで平らげて一分、二分とかっさらっていく。「いつもは普通に40枚食べてますよ」に町内の連中は啞然となるのもわかる。そして、「蕎麦の賭けだけで家を三軒建てた」だけのことはある。

でも、そこはプロ。50枚は無理であることは自分で判っていて、退散するのも賭けで儲けるコツか。だが、信州で大蛇が人間を丸呑みしたときに舐めていた蛇含草を見て、「これはいける!」と思ったそば清さんの計算違い。意気揚々と件の蕎麦屋にやって来て、50枚で一両の賭けに挑む…。

本気を出したそば清さんの蕎麦を手繰るスピードが「余りにも速すぎて見えない」というのが可笑しい。48枚までは何とか自力で食べることができ、残りの2枚を秘密兵器の蛇含草で切り抜けようとしたが…。そのときの台詞、「俺はそばの清兵衛、負けるわけにはいかない」が耳に残る。サゲはちょっとホラー映画のような映像を想起させるのが良いなあ。

兼好師匠の「品川心中」。身勝手なお染と軽薄な金造の対照を兼好師匠の軽妙洒脱な噺運びで沸かす。板頭というナンバーワンのプライドゆえ、紋日に移り替えが出来ないことを後輩の遊女たちに馬鹿にされることが悔しくて仕方ないお染。それならば、いっそ死んでしまいたい、だがただ死ぬのは嫌だ、心中で浮名を流そう!という発想が落語的で面白い。

でも心中相手にされた方はえらい迷惑な話だが、貸本屋の金造はお染の口八丁手八丁に安直に乗っかってしまうのが、またこれ落語だ。「金さんが毎晩、夢に出てくるの。邪険にしていたのは、本気になるのが怖かったから。本当は心底惚れているの」。こんなことは言われ慣れていない金造だから、「一緒にあの世で添い遂げよう!」。馬鹿だねえ。

白装束に三角巾までして、品川の海に飛び込もうと桟橋を渡る。怖気づく金造の背中をお染が押したところで、若い衆が呼び止める声。聞けば、「番町の旦那が30両こしらえて持ってきた」。豹変するお染。それなら死ぬ必要などない。先に海に飛び込んだ金造に向かって、「金ちゃん、どうして飛び込んだの?ごめんなさい。私、死ななくて良くなったの。あの世で待っていてね!」。こんな失礼なことはない。

幸い、品川の海は遠浅で金造も死なずに済んだが、この掌返しは許せない。この後、親分のところに行って、事情を話し、仕返しをするところがさらに面白いのだが、きょうは時間切れ。大概、博奕をしている親分の家を金造が訪ねるところで、「手が入った!」と勘違いして、ひと騒ぎする場面で笑わせて、「品川心中の序でございます」で終わる噺家さんが多い。サゲまでやってくれる高座にはなかなか巡り会わないのが残念だ。