白鳥・三三 両極端の会、そして柳家権太楼「百年目」

「白鳥・三三 両極端の会」に行きました。今回は、三三師匠から白鳥師匠への宿題が「ワクワクする学園ものの落語を作って!」、白鳥師匠から三三師匠への宿題が「三三が好きなマンガや映画を題材にした噺を作って!」だった。

柳家三三「バック・トゥ・ザ・半ちゃん」

VHSテープが擦り切れるほど観たという大ヒット映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のオマージュで、「宮戸川」の前半部分、いわゆる「お花半七」を再構築した高座。半七の父親である伊勢屋半兵衛が堅くて、霊岸島の叔父さんこと久太郎(吞み込みの久太)が締め出しを食った半七とお花を泊まらせてあげて、若い二人が夫婦になるはず…なのに、叔父さんは半七だけ泊めて、お花のことは「何か間違いがあってはいけない」と追い返してしまう。

それは30年前の叔父さん夫婦の馴れ初めに原因があって、清元のおさらいの帰りに久太郎がおみねに求婚するところを、久太郎の兄である半兵衛が間に入って久太郎を殴り、その姿に惚れたおみねは半兵衛と夫婦になったのだった。

これでは自分のアイデンティティが崩壊してしまう。半七は雷に打たれた拍子に、30年前の浜町の蕎麦屋の長寿庵で、久太郎がおみねを口説く現場にタイムスリップした。そして、半兵衛が久太郎を殴るのを阻止することに成功し、見事に久太郎とおみねが夫婦になり、半七は伊勢屋を継いだ半兵衛の息子に戻ることが出来たという…。

三遊亭白鳥「3年B組はん爺先生!」

落語の徒弟制度が変容し、学校法人で落語を教育するというシステムが確立した近未来の噺。舞台は落語協会学園で、生徒たちはお馴染みの噺家さんたちという、白鳥師匠お得意の落語界内輪ネタものに。

円丈師匠の新作落語「パパラギ」をこよなく愛する南の島からの留学生、三遊亭パパラギが転校生で来たり、落語甲子園で笑点学園と戦い、100対0で完敗したり、日本伝統芸能学園大徳寺理事長が「新作を演る奴は腐ったみかんだ!」と主張したり、笑わせれば何でもありの白鳥ワールド。中島みゆきの♬世情をお囃子の千葉しん師匠に弾いてもらって、白鳥師匠が歌う演出も「3年B組金八先生」の名作回「腐ったミカンの方程式」オマージュ。

上野鈴本演芸場五月上席中日夜の部に行きました。今席は柳家権太楼師匠が主任で、「権太楼噺爆笑十夜」と銘打ったゴールデンウィーク特別興行だ。10日間のネタ出しは①鰍沢②質屋庫③不動坊④へっつい幽霊⑤百年目⑥井戸の茶碗⑦死神⑧抜け雀⑨くしゃみ講釈⑩試し酒。きょうは「百年目」だった。

「たらちね」柳家権之助/太神楽 翁家社中/「弟子の強飯」春風亭百栄/「初天神」入船亭扇遊/漫才 ニックス/「お菊の皿」五街道雲助/「同棲したい」柳家喬太郎/中入り/ものまね 江戸家猫八/「こじらせ親分」三遊亭わん丈/「反対俥」春風亭一之輔/紙切り 林家二楽/「百年目」柳家権太楼

権太楼師匠の「百年目」。人を使うは苦を使う、とマクラで触れる。人を使うというのは楽なようで、逆に気苦労が多くて大変という意味だ。この噺の中の旦那も、番頭の治兵衛さんもそのことは重々承知であることが伝わってくる高座だった。

なんで土手に上がっちゃったんだろう、なんで酔っ払って鬼ごっこなんかしちゃったんだろう、あと一年で別家だったのに…。番頭は向島での派手な花見の遊興の現場を旦那に直接目撃されて、「ああ、もう全て終わってしまった」と後悔する。旦那の信用を失ってしまったと思い込んだ。

だが、旦那はそんな短慮の人ではなかった。「商売のお付き合いで遊んでいたのか、それとも自分の道楽で遊んでいたのか、それは見ればわかります」。そう言った上で、でも仮に商売のお付き合いだとしたら、お金で負けちゃ困る、店の信用に関わる。向こうが100両使ったら、こちらは200両、向こうが200両使ったら、こちらは300両使ってください。旦那が番頭に全幅の信頼を置いているのがわかる。

ただし、あの派手な遊びっぷりに旦那も少し心配になった。もしかしたら、店の金を使い込んでいるのではないか…、そういう疑念が0.1%に満たない数字で湧いた。「番頭さん、昨夜は寝られましたか?私は寝られなかった」。これまでは番頭さんを信用して、帳面は一切見なかった。だけど、今度ばかりは見させてもらった。偉い!これっぱかりの穴も無かった。良い番頭になられた。疑った自分が恥ずかしい、番頭さんは自分の稼ぎでああいう遊びをしていたのか、信用は益々厚くなったというところだろう。

番頭の治兵衛さんが6ツのときに奉公にやって来たときのことを思い返す。寝小便はする、二桁の算盤はなかなか覚えない、お遣いを頼むと何かを必ず忘れてくる。いっそ、国許へ戻したら?という声もあったが、私はどこか見込みがあると思い、辛抱した。その甲斐あって、立派な番頭になった。

旦那という言葉の由来。百栴檀は南縁草に露を下ろし、南縁草は百栴檀の肥やしとなる。人間は持ちつ持たれつということ。最近、店の百栴檀は見事に咲き誇っているが、南縁草が萎れているように思う。来年の別家まで、店の南縁草をあなたの露で立派に育ててもらいたい。よろしくお願い致します。

これを聞いて、番頭は「申し訳ございませんでした!」と言って、号泣する。旦那は「泣くことはない」と言って、寧ろ番頭に感謝している様子だ。旦那は番頭を信用し、番頭も旦那にそれに応えるような働きをする。経営者とプレーイングマネジャーの素敵な信頼関係である。