五街道雲助・蜃気楼龍玉「真景累ヶ淵」リレー

五街道雲助・蜃気楼龍玉親子会に行きました。「真景累ヶ淵」をリレーで演じるということで出掛けた。

「堀の内」隅田川わたし/「親子酒」蜃気楼龍玉/「町内の若い衆」五街道雲助/中入り/「真景累ヶ淵 豊志賀」五街道雲助/「真景累ヶ淵 お久殺し」蜃気楼龍玉

雲助師匠の「豊志賀」。富本の師匠の豊志賀、三十九歳は男嫌いで通っていたが、下女が宿下がりしなくてはいけなくなって、とても気が利くということで煙草屋の新吉、二十一歳を下男として置くことになったのが、間違いのはじまりだ。男女がひとつ屋根の下で寝食をともにすると、どうしてもそういう仲になる。豊志賀にとって新吉は亭主のような、色のような、弟のような、息子のような…兎に角可愛くてしょうがない。そのうち、立場が逆転して、豊志賀が早くに起きて膳立てをするようになる。新吉も増長しても仕方がないかもしれない。稽古に通っていた男連中は勿論、娘をそのような不行跡なところに通わせられないと親御さんの信用もなくしてしまった。

ただ一人、せっせと通ってきたのは羽生屋という小間物屋の娘、お久。だが、豊志賀はかえってお久に悋気をおこしてしまう。どうせ新吉を目当てに通っているのだろう。そんなことないのに、勝手にのぼせを起こし、悋気の炎が燃え、身体に支障をきたす。目の下に米粒ほどの出来物ができると、どんどん悪化し、額の毛も抜け、お岩様のような形相になってしまい、瘦せ細り、寝込む。新吉は甲斐甲斐しく看病するが、豊志賀はネガティブなことしか言わなくなる。

新さん、私は死んでしまいたい。若くて綺麗な男にお婆さんを看病させてすまない。私が死ねば、新さんも楽になる。死んであげたい。でも、死にきれない。死ねば、新さんが心底惚れているお久と会えると思うから。私というものがいるから、惚れていることも隠さなければいけない。早く死んで添わしてあげたい。私が死ねば夫婦になれる。因果だよ。二人が仲良くなると思うと死にきれない。

お久が炒り豆腐を持って、見舞いに来る。嫌味を言う豊志賀。「お陰様でおいおいと悪い方へいっているよ。私とお前は何だい?師匠と弟子だろう。なぜ、見舞いに来ない?来るが、私を案じてではないだろう。新吉の顔が見たくて来るんだろう。不人情だね」。豊志賀が寝たと安心していると、新吉の背後から豊志賀が馬乗りになって、胸ぐらを掴む。「こんな顔になっちゃったよ」。

新吉はもう耐えられない、下総の知り合いのところに行こうと考える。大門町の伯父の家に行く途中で、買い物に出かけたお久に会う。寿司屋の二階で食事をしようと上がり、茶碗蒸しと握り寿司と酒を頼む。お久の田舎が下総の羽生村と聞いて、一緒に逃げようと誘う。色のように言われると困るとお久が言うと、いっそ色になって行こうと新吉は言う。「私を連れて逃げてくれますか?」と問うお久に、新吉は「豊志賀が野垂れ死にしたってかまわない」とまで言う。すると、お久は「不実な人ですね…」と言ったかと思うと、顔の目の下に出来物ができ、みるみるうちに豊志賀の顔になった。

驚いて逃げるように伯父の家に走った新吉。伯父は「ここまでやってこれたのは豊志賀さんのお陰。義理がすまない。嫌だろうが、人の道に外れることはするな。そう長いことはない。辛抱して看病しろ」と言う。そして、奥の間で豊志賀が待っているから、詫びを言えという。驚く新吉。豊志賀は「今まで了見違いをしていた。きょうは別れるつもりで来た。その代わり、死に水だけは取っておくれ」と頼む。承知した新吉は伯父が用意した駕籠に豊志賀を乗せ、根津七軒町までやってくれと言う。

そのとき、豊志賀と同じ長屋に住む連中が慌ててやってくる。新吉さん、看病もしないで、ひょこひょこと出歩いていちゃ困るよ、あんたが留守の間に豊志賀さんは死んだよ。え!?さらに驚く新吉。駕籠の中を見ると、誰もいない。そして、豊志賀の家に戻ると、台所で水甕から水を飲もうとして生き絶えた豊志賀の姿があった。そして、書置きには「こんな不人情な男はいない。新吉の女房になる女は七人までも取り殺す」と書いてあった…。

龍玉師匠の「お久殺し」。新吉は下総へ逃げるが、豊志賀の怨念はどこまでも付いて回るというのが恐ろしい。豊志賀の墓参りに来た新吉は、墓の前で拝んでいるお久に出会う。お久は継母の苛めが耐えられず、下総の叔父のところに行こうと思っていると話す。では、一緒に行きましょうと新吉はお久と駆け落ち同然で、下総へ向かう。

松戸で泊まり、水街道へ出る。渡しに乗って、羽生村の近くまで着いた。雨が降り、雷が鳴っている。お久は土手で足を滑らせ、転ぶと膝に激しい痛みが走った。血が流れる。草刈り鎌で切ってしまったのだ。新吉は手当てをして、肩を貸して歩く。お久が言う。「願い叶って田舎まで、夫婦仲良く、こんなに嬉しいことはない。だけれど、新吉さんは男っぷりがいいし、浮気者。他の女と浮気をしないか。見捨てられたらどうしよう」。「見捨てるわけないですよ」と言うが、「お前は見捨てる、必ず見捨てる、だって私はこんな顔になったから…」。

お久の目の下に出来物ができ、みるみるうちに腫れあがる。新吉は怖くなり、鎌でお久を打つ。そして、その鎌の先がお久の喉笛を刺し、お久は七転八倒の苦しみをして、事切れた。茫然とする新吉。すると、これを見ていた頬被りした男が襲いかかってきた。土手の甚蔵という男。真っ暗闇の中、新吉と揉み合う。用水路に中に落ちて、泥だらけになった新吉はその男から逃げることができた。

向こうに茅葺に屋根が見える。人家だ。焚火の明かりが見える。一晩厄介になろうと新吉がそこの男に頼むと、「ここは俺の家ではない。主はいつ帰ってくるかわからない」と言う。主は博徒で、マムシと渾名されているという。すると、その主が帰ってきた。さっきまでいた男はこれで失礼すると出て行った。

「江戸の者です。小商いをしている新吉と言います。泊めてもらいたい」。すると、主は「さっき、そこで人殺しがあった。女の悲鳴が聞こえた」と言う。「よく見な。鎌を拾ってきた。血が沢山ついていたが、雨でだいぶ落ちた。でも、血が浸みこんでいる。研ぎ澄ました鎌でやりやがった」。

これはまずいと思い、新吉は「雨が小止みになったので、お暇します」。主は「今から出ても、旅籠なんかないぞ。俺も江戸の者だった。本郷菊坂の生まれ。お前も訳があって来たんだろう。俺の家に来てくれないか。俺は留守にすることが多いから、ここで商売するといい。荒物でも売ればいい。俺は土手の甚蔵だ」。

そして、甚蔵は新吉に「俺の兄弟分にならないか」と誘う。新吉は「頼るところがあったが、だしぬけになくなった。帰るところがない。どうぞよろしくお願いします」。番茶で固めの杯を交わした。甚蔵は新吉が二十二だと知り、「女が惚れる性質だな。色が抜けるように白い」と言った。

そして、「兄弟になったからには、隠し事はなしにしよう。打ち明けて話してほしい…女を殺したのはお前だな!とぼけるな。正直に言わないと、ふんじばって代官所に差し出すぞ。だが、殺したと正直に言えば、隠しておいてやる」。新吉は観念して「実はちっとばかり、殺したんで」。つかさず甚蔵は「金はいくら取った?」。強奪だと思ったようだ。

新吉は本当に一文無しなんだと言って、信じてもらうために、豊志賀の出会いからお久との駆け落ちまでの一部始終を甚蔵に話して聞かせた。そして、自分には幽霊が憑りついているという新吉に甚蔵は怖気づいてしまう。そして、この村で新吉はお累という女と出会って、また怪談が続く…。

雲助~龍玉という稀代のストーリーテラーによる素晴らしい「真景累ヶ淵」リレーだった。