幸太たっぷり三席 京山幸太「パンク侍、斬られて候」

「幸太たっぷり三席」に行きました。京山幸太さんが「咲くやこの花賞」を受賞したお祝いの会。町田康先生の傑作小説「パンク侍、斬られて候」を幸太さんが浪曲化したことが高く評価されての受賞である。「従来の浪曲とは一味違う現代的な笑いの要素(ケレン)をちりばめた独創的な新作に挑戦。時代の匂いをかぎながら、浪曲の新しいムーブメントを起こそうとする熱意とオリジナリティあふれる工夫は将来性を感じさせる」と公式ホームページに書かれている。

「雷電と八角」京山幸太・一風亭初月/「松山鏡」国本はる乃・沢村道世/「パンク侍、斬られて候」(前)京山幸太・一風亭初月/中入り/「パンク侍、斬られて候」(後)京山幸太・一風亭初月

芥川賞作家の町田康先生の原作が面白いので、映画化もされているし、面白くて当然と思う人がいるかもしれないが、そんなことはない。あの不思議な時代小説を浪曲にする、しかもお客様が理解して喜ぶ高座にするのには並大抵ではない努力があったと思った。玉川太福先生の「男はつらいよ」の浪曲化もそうであるが、節と啖呵で構成される浪曲は極端に情報量を圧縮しなければならない。その上で、原作の味わいを損なわず、エンターテインメントとして成立させる。素晴らしいと思った。

新興宗教「腹ふり党」が猛威をふるって襲いかかってくる危険性を、浪人の掛十之進が黒和藩の殿様、黒和直仁に進言する。相談されたのは筆頭家老の内藤帯刀と次席家老の大浦主膳。大浦はそんなものは眉唾で恐れるに足りないとけんもほろろな態度を取る。若い頃からライバルで敵対している内藤は「ここがチャンス」と思い、腹ふり党の襲撃に備えるべきだと主張するとともに、大浦失脚のためのスキャンダルをでっちあげる。素直な殿様の直仁は内藤の意見を尊重して、十之進を召し抱え、尚且つ大浦の家老職を解任、村の猿回しに左遷させてしまう。

それから一カ月が経ったが、黒和藩に腹ふり党が襲って来る気配がない。内藤は部下に調査をさせると意外な報告があった。腹ふり党は牛逐藩を壊滅した後、教祖が死に、滅んでいたのだ。これでは困る。内藤は「腹ふり党をもう一回作り直して、それを滅ぼさなければいけない」と考え、十之進に相談した。

十之進は牛逐藩にいる腹ふり党の残党、茶山半郎に「再び布教をしてほしい」と依頼する。だが、これが地獄の始まりだった…。茶山は弟子3人を伴って、黒和城下に乗り込み、演説を始めた。「ふざけ倒して、腹をふれ!」。それによって幸せが訪れると信じた民衆は、往来で暴れ、踊り狂い、騒ぎを起こす。これを見た同心の江部宗次郎は迎え撃つが、茶山の弟子のオサムに妖術によって、江部を空中に浮かせた後、破裂させ、爆死してしまった。笑い転げて踊りまくり、家々を略奪していく暴徒は増加の一途を辿る…。

「ちょっと勢いが凄すぎる」と心配した十之進は黒和城に駆けつけるが、もぬけの殻だった。殿様以下、侍たちは猿回しになった大浦の芸を見物するために、村に出掛けていたのだ。猿の謙太郎が大浦にドロップキックを食らわせ、侍たちは大爆笑。だが、殿様一人がこの笑いをしないで、「挨拶もできない猿だ」と怒りだす。猿に人間が弄ばれるという逆転が可笑しいのに、それを殿様は理解できないのだ。

そこに、十之進が駆けつけた。「殿、腹ふり党がやって来ました!」。その数は想定を遥かに超える千人規模。「お前は対策専門家ではなかったのか!」と殿様は十之進を叱るが、その暴徒が町に火を点けたと聞いて慌て始める。そこに「ちょっとお待ちください!」と現れたのは、猿の謙太郎だ。「私は日本の猿の大将だ。全国の猿が駆けつけてくれる。腹ふり党などなんのその。手助けしましょう」と名乗り出る。

黒和城に戻ると、あちこちが炎上している。茶山半郎が櫓に登り、太鼓を叩いて先導している。そこへ、猿の謙太郎が「お待たせしました!」と現れた。そこには数千万の猿たちが集結している。さあ、馬鹿と猿との大喧嘩がはじまる…、さあ、どうなる!?というところで、「ちょうど時間となりました」。

惜しい切れ場だが、浪曲としてはここまでにとどめておくのが正解なのかもしれない。続きを知りたい方は、是非、町田康さんの原作小説をお読み下さいということだろう。町田康的世界観を浪曲に昇華した幸太さんに拍手喝采である。