落語一之輔春秋三夜 第二夜 春風亭一之輔「甲府ぃ」

「落語一之輔春秋三夜」2024春の第二夜に行きました。春風亭一之輔師匠は「館林」「馬の田楽」「甲府ぃ」の三席、開口一番は春風亭朝枝さんで「転失気」だった。

「馬の田楽」、ネタ卸し。田舎の長閑な風景とそこに住む人々ののんびりとした人柄がとても心地良い。馬に味噌樽を二つぶら下げて峠を二つ越えてきた辰んべえ、大根の種も畑の土も黒いから途中で種蒔きをやめたらわからなくなっちゃうと言う三州屋の御爺の二人が三州屋と三河屋の屋号の取り違えをめぐってのやりとり。メンコ遊びをしていた子供が飽きて、馬の腹の下で鬼ごっこをしたり、馬の尻尾を抜いたりして遊んでいる様子。味噌樽ぶら下げた馬知らないか?と訊かれ、俺は田圃の草取りに疲れてしまって、残りは明後日にしよう、明日は女房と娘は隣村の芝居を見に行って、自分は釣りに行こうと思って、明日の天気はどうなるべかなあと空を見上げたところだとゆっくり答えるところ。田舎はのんびりしていていいなあと思う。

「甲府ぃ」。甲州から出てきて江戸で一旗揚げようと思っていたら、浅草仲見世で財布ごと掏られてしまって三日の間、何も食えなくて困っていたという善吉。豆腐屋主人は可哀想に思い、飯をたらふく食わせてあげた上に、「これから口入屋に行って奉公先を探そうと思う」と言う善吉に「ウチで働けばいい」と優しい言葉を掛けてやる。女房が「どこの誰だかわからない人」と言うと、「この人の目を見ればわかる。間違いない」と、善吉を100%信用して雇う人情が素敵だ。

善吉もその親切に応え、元々愛嬌者で、心根が優しいから、近所のかみさん連中の評判も良いというのは豆腐屋主人の眼力に狂いがなかった証だろう。おかみさんたちの水桶を運んであげたり、子どもの喧嘩の仲裁に入り、一文菓子を与えたり、その親切が好感度を上げ、商売繁盛に自然と繋がるのが良い。

本当に良く働く善吉の姿を見て、豆腐屋夫婦の考えることは同じだ。十八になる一人娘のお花の婿に…。女房はお花の普段の素振りから善吉にバカ惚れ、ベタ惚れだと太鼓判を押すのは、さすが女親。あとは善さんの気持ち…と言ったところで、男親というのは不器用に出来ている。「なに!拾ってやった恩を忘れて、冗談じゃない!どこが嫌なんだ、お花のどこが気に食わないんだ!」。まだ、善吉には何も訊いていないのに、盛り上がっちゃう父親というのは愛おしくさえある。

実際、善吉にお花との縁談を切り出すと、「こんな嬉しいことはない」。トントンと婚礼へと運ぶ。益々、善吉は豆腐を売ることに一生懸命になる。若夫婦だけで店は廻り、両親は楽隠居の身の上というのだから、こんなに有難いことはない。働き詰めで心配していたところ、善吉の方から正式な伯父叔母への報告、身延山への願ほどきを兼ねて、お花を伴って甲州を訪ねたいという申し出。親父も喜んで「伯父叔母孝行して来いよ!」と送り出す。登場人物全員が善人という素敵な人情噺に気持ち良く酔った。