浅草演芸ホール 三遊亭わん丈真打披露興行「壺算」

浅草演芸ホールの三遊亭わん丈真打昇進披露興行五日目に行きました。3月21日の鈴本からスタートした興行も25日目。折り返しを過ぎた。毎日ネタを変えるという目標はずっと達成できている。きょうも浅草昼のお客様を意識した、笑いの多い「壺算」で大いに沸かせてくれた。

「一目上がり」入船亭扇ぱい/「猫と金魚」柳家花ごめ/「味噌豆」林家まめ平/無筆小咄 入船亭扇橋/紙切り 林家楽一/「出来心」三笑亭丈助/「紀州」林家鉄平/「たらちね」春風亭三朝/カンカラ三線 岡大介/「親子酒」古今亭菊之丞/「普段の袴」柳家喬太郎/奇術 花島世津子/「不精床」柳家小さん/「かぼちゃ屋」柳亭市馬/中入り/口上/「反対俥」林家つる子/漫才 すず風にゃん子・金魚/「手足」三遊亭天どん/「雑排」春風亭一朝/太神楽 鏡味仙志郎・仙成/「壺算」三遊亭わん丈

口上は下手から、喬太郎、菊之丞、小さん、わん丈、天どん、市馬。司会の喬太郎師匠は釈台を前にして、「さあ、大喜利の時間です」と笑わせる。わん丈は兎に角、明るくて元気で前のめりの落語が良い、確実に笑いを取れるところがすごいと褒め、落語協会の未来を託せる噺家ですと紹介した。

菊之丞師匠。落語協会が誇る二刀流、私が通訳になって銀行口座を教わりたいくらいだとブラックユーモア。去年の高座数が1509席。これは1日4席以上演じているということで、それだけ彼の芸の需要が高いということだと評価。すると、喬太郎師匠が「そんなにやらなくても!」とツッコミが入ったのが可笑しかった。

小さん師匠。本来、真打というのはまだ一人前ではなくて、これからスタートラインに立って、もがくものだが、わん丈の場合は違う、「出来上がっている」と讃えた。いつか天下を取る噺家ですから、後々彼が落語協会の会長になったときに「今あるのは俺のおかげなんだ」と自慢したい人は今のうちに贔屓になっておいた方がいいですよと持ち上げた。

市馬師匠。わん丈は笑いのためなら手段を選ばない、そういうサービス精神のある噺家だが、楽屋でもお弁当やらお菓子やら気配りが出来て、芸人に対するサービスも怠りがない、こういうことはこれからも続けるようにと、まるで馬風師匠のような口ぶりなのが可笑しかった。彼はホストクラブにいてもおかしくないちょっといい男…と言っても、歌舞伎町ではなく、北千住や蒲田あたりのホストですけど(笑)。「ご贔屓お引き立てのほど、隅から隅までズズズイーッと御願い奉ります」と言って、馬風ドミノならぬ市馬ドミノで場内爆笑だった。

天どん師匠。わん丈が今日あるのは全部、円丈の功績ですと。きょう、初めてわん丈の本名を知りました。ノベカワテルタツ。その後、自分の本名、ふう丈の本名、円丈の本名を立て続けに並べたのだけれど、意味は不明。わん丈の幟とともに、円丈の幟が浅草演芸ホールの前に立っているので、記念に写真でも撮ったらいかがでしょうかと勧めた。

わん丈師匠の「壺算」。水甕の買い物を頼まれた兄ィ、頼んだ弟分が「もはや買い物上手というより、詐欺師だね」というくらいのテクニックを用いて、瀬戸物屋店主のみならず、客席をも混乱に陥れるのがすごい。

3円50銭の一荷の甕を50銭負けてもらうために出した自分が幼い頃の思い出。爺さんと二人暮らしだったが、爺さんが今わの際に「酒が飲みたい」と言い出し、酒屋に走った。1円しか持っていなかったのに、酒屋店主は1円50銭から一銭も負からないと譲らず、結局酒は買えずに爺さんは死んだ。以来、50銭負けない店に出会う度に、爺さんの幽霊が出るという…。この怪談噺作戦には瀬戸物屋店主も怖くなって、50銭を負けた…だが、これは「詐欺」の序章に過ぎない。

一荷の甕ではなく、二荷の甕が本当は欲しかった。先に渡した3円と一荷の甕を下に取った3円で都合6円になるから、これで二荷の甕を貰っていくよ。店主も煙に巻かれて認めてしまうが、彼らが「いいの買ったね!と」(店主はこれを“悪魔の旋律”と呼んでいた!)と調子良く帰っていく姿を見て、「何か間違っている」と気づいて、何度も呼び止めるが…。「たとえば、俺がこれに3円足したりしたら、多すぎると感じないか?」という兄ィにどうしても論破されてしまう店主。「金と甕を足すのは初めてなんです!」。

「頭を冷やそう」と兄ィが持ち出すアラブの大富豪の話。17頭のラクダを3人の息子に譲る。長男は1/2、次男は1/3、三男は1/9。割り切れないで困っていると、通りかかった和尚さんが自分の乗っているラクダを差し出し、これを加えて計算してみろと提案すると…。長男9頭、次男6頭、三男2頭。合計17頭。見事に分配できて、和尚さんにラクダが戻せた。

同じ話で、羊を11匹。長男は1/2、次男は1/3、三男は1/6。和尚さんが1匹差し出すと、長男6匹、次男4匹、三男2匹。合計12匹!何と、和尚さんに返せなくなってしまった!どういうこと!?瀬戸物屋店主は「問題を増やさないでください!」と混乱の極みに陥るのが最高に可笑しい。

算術的ロジックが加味された、わん丈師匠らしい「壺算」はとても愉しかった。