宝井琴凌真打昇進襲名披露興行、そして気になる三人かい…春風亭一之輔「水屋の富」

木馬亭で梅湯改メ四代目宝井琴凌真打昇進襲名披露興行を観ました。88年ぶりの大名跡復活だそうだ。34歳で入門、47歳で真打昇進。遅咲きの梅が開花したというところだろうか。

「塚原卜伝 無手勝流」宝井琴星/「西遊記 芭蕉扇」神田山緑/「神田松五郎」一龍斎貞友/「浜野矩随」宝井琴調/中入り/口上/「細川の茶碗屋敷」宝井琴桜/「河内山宗俊 表札が百両」宝井琴凌

口上。山緑先生。琴凌先生と同い年だそう、でも「(琴凌には)貫禄がある」。自分が入門してから暫くは女性ばかり入門してきて、今の琴凌先生が入門してようやく男性の前座が入ってきたと喜んだとか。若手男性講談師のみの「はなぶさ会」という会を始めて、今年150回を迎えるそうだが、会を支えているのはこの新真打ですと讃えた。

貞友先生。先輩に対して、ズバズバと正論を唱えるところが、この新真打の良いとろだ、山形県人らしい粘り強さ、根気強さがあると褒めた。若手というだけでチヤホヤされている講談師と一線を画し、その恰幅の良さに比例するように実力を兼ね備えているのが魅力だと評価した。

琴調先生。自分は前座時代、琴僚と名乗っていたので、楽屋で「キンリョウ」という言葉が飛び交うとドキッとするとか。琴凌という名跡は代々名人で、「天保水滸伝」を作り上げたのは初代琴凌。二代目琴凌も「国定忠治」や「天保水滸伝」を得意として、四代目馬琴になった。新真打にも何か新しいモノを拵えてほしと期待した。

琴桜先生。新真打の師匠である琴梅の妻、つまりはおかみさんとして14年間見守ってきた。みるみるうちに体格が良くなりました(笑)。琴梅はフルマラソンに出場し、自転車で全国を出前講談した体力の持ち主。だから、その弟子は体力がないと続かない。一緒にフルマラソンに出て、師匠を「お先に失礼します」と追い抜いていく器量の持ち主だと紹介した。

琴凌先生の「表札が百両」。河内山宗俊が上州屋から500両を貰って、松江侯に軟禁されているお嬢様を助け出す仕事を請け負い、上野宮様のお遣い僧に化ける悪知恵を思い浮かべるところまで。松平出羽守の屋敷に乗り込んで、持ち前の太々しさでお嬢様を救出するところが聴けなかったのは残念だったが、十分に面白かった。

特に「中村歌右衛門は熊谷陣屋の台本を質に入れて借金をした」という例を引き合いに出して、自分の表札を質種にして百両を貸してほしいと掛け合う図々しさは、流石河内山宗俊だ。「三者(医者・知者・福者)と付き合え」という故事を出し、自分はどれでもないが、「金で買えない身分がある」と言って、大大名にも膝詰めで話ができると大法螺を吹く度胸を見事に描いていて面白かった。

上州屋彦右衛門はたった一人の娘を助けたい一心だから、表札を百両で引き取っただけでなく、お嬢様救出費用として河内山が三百両を要求するところ、五百両も出し、「娘の命には換えられない」。思わぬ大金を手にした河内山だが、ただただ性質の悪い悪党ではなく、義侠心のある男だから、何とか上州屋の望みを叶えてやろうとする。そこの部分をきちんと描いているのが素晴らしいと思った。

「気になる三人かい…」に行きました。三遊亭兼好師匠が「片棒」、春風亭一之輔師匠が「水屋の富」、柳家三三師匠が「妾馬」、開口一番は瀧川鯉津さんで「熊の皮」だった。

兼好師匠の「片棒」。次男の銀次郎の提案する破天荒で未曾有なお祭り騒ぎの弔いが最高に面白かった。木遣り、手古舞、山車、神輿のリズミカルな表現が秀逸なだけでなく、親父さんのからくり人形の動きのコミカルなところ、爆笑。友人がいないため、大家が含み笑いの弔辞というのも笑った。そして、ブルーインパルス顔負けの曲技飛行で煙による「さ・よ・う・な・ら」の文字メッセージとともに、「贅沢は敵だ」のビラを撒く。近所のおかみさん連中によるチアリーディングというのも可笑しい。

一之輔師匠の「水屋の富」。水屋の清兵衛さん、800両の富くじが当たったのは良いけれど…、誰かに盗まれるのではないかと寝ても覚めても疑心暗鬼というか、被害妄想に襲われる哀しみが良く描かれていた。800両を詰めたステテコをどこに隠すか。桑折、天袋、水瓶…と悩んだ末に縁の下を選び、事あるごとに六尺棒でコツン!と感触を確かめて安堵するが。

朝、仕事に出ていくときに出会う近所の人をことごとく怪しく思い、家に戻って、コツン!そんなことを繰り返しているから、水を届けるのが遅れ、お得意様に怒られてしまう。夜は夜で、眠ったかと思うと「800両よこせ!」と強盗に襲われたり、米相場に手を出した大家から店立てを食らった長屋連中に「長屋を買っておくれ」とせがまれたり、吾妻橋で「800両落とした」と言って身投げしようとする文七に出くわしたり…色々な悪夢にうなされる清兵衛さんはとても可哀想だ。早く800両を元手に水屋を辞めて、違う商売を始めればいいのにと心配してしまう。サゲの「これでゆっくり眠れる」は皮肉だなあ。