渋谷らくご しゃべっちゃいなよ、そして三三・左龍の会

配信で「渋谷らくご しゃべっちゃいなよ」を観ました。4人が新作ネタ卸し、そしてレジェンド枠で古今亭駒治師匠が「10時打ち」のネタ出し口演だった。

三遊亭ぐんま「前座24」

寄席の運営を差配する絶対的な権限を持つ「立前座」にスポットを当てたのが面白い。その名は桂ジャックバウアー、ふふふ。それだけで笑ってしまう。彼のところにCIAから連絡が入り、アメリカ大統領夫妻が寄席に24分間だけ滞在するという…。大統領の気分を害さないような内容に配慮しなければいけないばかりか、命を狙うテロリストが潜入しているという情報も入って、立前座のジャックバウアーの力量が試される。この危機を救ったのは代演として急遽高座に上がったナイショ亭ホウシだった…。人気ドラマ「24」を彷彿とさせる、立前座の奮闘が実に愉しい一席だった。

立川談吉「ゲル状のもの」

“ゲル状のもの”の人格化が実にユニークで、談吉ワールドの面白さが全開した。水道工事業者の主人公がパイプにゲル状のものが詰まっているという原因を発見し、問題を解決した夜。その“ゲル状のもの”が「助けてくれてありがとうございました」と礼に来る。そして「恩返しをしたい」と言う。主人公は話し相手になってくれたらいいと一緒に暮らすことになるが…。風邪をひいて発熱した主人公のおでこに“冷えピタ”のように“ゲル状のもの”は貼り付き、熱を冷ました翌朝、“ゲル状のもの”は溶けてしまった。「さようなら」と別れを告げると、悲しみを覚えた主人公が流した涙によって“ゲル状のもの”が生き返るという…。シュールでありながら、人情噺っぽい作りに唸った。

立川談洲「福耳堂」

“品にまつわる物語”の内容によって、貸す金額を決めるという質屋。そこにやって来た男は鼈甲の簪を持ってくるが…。この簪にまつわる物語をどんどんでっち上げ、何とか希望の金額を貸してもらおうとする男と質屋主人の駆け引きが面白い。泥棒猫のミー坊、火付けの藤吉、人さらいの西念和尚、首斬り床屋の長兵衛、河童の久太郎…。次から次へと、「ひょんなことから」という便利な言葉を多用して、物語を積み増し、積み増ししていく男だが、その物語が一向に面白くならないところが逆に面白かった。

瀧川鯉八「ハンサム」

主人公の女性が「男は顔じゃない」という思想を啓蒙して、ライバルを蹴落とし、自分がハンサムな男をゲットしようという企み。イケメンと言わずにハンサムと表現し、ハンサムでない男を“ノンサム”と呼ぶところが面白い。現れたカエルが「魔法をかけられた王子様?」と思ったら…。10分にも満たない高座で、鯉八ワールドを展開するのは流石真打。

古今亭駒治「10時打ち」

何度聴いても面白い名作だ。鹿児島発稚内行き、寝台特急ほしくず2号のグランシートをめぐる東京駅と上野駅のみどりの窓口の攻防戦。“黄金の人差し指”を持つスッポンのタニグチが監禁され、鶯谷駅の駅員に助けられたが…。片田舎の駅で定年を迎えた老夫婦が、そのプラチナチケットを手にするという…。熱心な鉄道マニアにとっては皮肉な結果に終わることを含め、鉄道落語の王者である駒治師匠の面目躍如たる高座だった。

三三・左龍の会に行きました。柳家三三師匠は「六尺棒」と「品川心中」、柳亭左龍師匠は「碁泥」と「花見酒」、開口一番は春風亭貫いちさんで「元犬」だった。

三三師匠の「六尺棒」。道楽息子の孝太郎を追い掛ける父親の孝右衛門。孝太郎が狭い路地に入って隠れることに成功するが、隙間から見える父親の姿を見て、「脛が細くなったな。俺がかじるからか」とか、「背中が丸くなった。苦労をかけているからな」とか、親不孝をしながらも親を思う子の気持ちを忘れていないところが良いと思った。

「品川心中」はお染の負けん気の強さだろう。板頭を張っていても、寄る年波には勝てず、紋日になっても移り替えが出来ないで、後輩たちに馬鹿にされる悔しさ。それならば、いっそ死んでしまおう、ただ死ぬのは悔しいから、貸本屋の金蔵を道連れに心中して浮名を流そう…。一旦は決心したが、大黒屋の旦那が50両を持ってきたと聞いて、態度を豹変させる強かさ。海に突き落とされた金蔵の情けなさと対照的に描くのが良い。やっぱり女の方が強いのだね。

左龍師匠の「碁泥」。人は夢中になると、それ以外のことが見えなくなってしまう。煙草は吸わないとあれだけ女房と約束したのに、煙草盆を持って来いと怒鳴り散らすし、挙句の果てには家に泥棒が入って風呂敷包みを背負っている姿を見ても気が付かない。そんな人間の弱さを可愛く描いた。「花見酒」は商売用の三升の樽酒を、二人の間で50銭のやりとりを繰り返すうちに全部飲み干してしまう馬鹿馬鹿しさが愉しい。