三三と若手、そして春風亭百栄「料理の鉄人が出来るまで」

らくごカフェの「三三と若手」に行きました。

「竹の水仙」笑福亭里光/「錦の袈裟」桂吉坊/中入り/「妾馬」柳家三三

里光師匠。細川越中守の家来、大槻玄蕃が竹の水仙を「越中であれば200両」と言われて高額をふっかけられたと激怒して、殿様のいる本陣に走り、二本指で値段を示すと、「2万両か?」と言われ、驚愕する様子。もし売り切れていたら、御家は断絶、その身は切腹と言われ、慌てふためいて宿屋へ戻ったら、意地悪で「売り切れました」という札が立っていて青ざめる顔。愉しい。

吉坊師匠。錦の布を揃いの褌にして新町に行ってアッと驚かせる趣向をしようという5人の仲間に入れてほしい喜ぃ公(江戸落語の与太郎)は女房の知恵で和尚の錦の袈裟を褌にして一緒に遊びに行くが…。喜ぃ公の錦が飛び抜けて立派なので、店では「宮様のお忍び遊び」と思い込み、他の仲間はそっちのけで喜ぃ公だけ大層なもてなしを受けるというのがこの噺の肝だと思う。

だが、吉坊師匠の演出では他の仲間が翌朝に「全員女郎に振られた」という事実描写はない。その上、喜ぃ公の部屋に押しかけると、喜ぃ公一人で布団をかぶっている。つまり女郎と同衾していないのだ。そして店の若い衆が「今朝、帰さない」と言って、「袈裟返さないとお寺をしくじる」でサゲ。喜ぃ公だけが大層もてたことが伝わらないのだ。とても疑問に思った。

三三師匠。赤井御門守がおつるを召し抱えたいという命を受けた赤沼軍十郎が長屋にやって来るところから。四代目小さんの型を踏襲した高座だ。井戸浚いをしていた八五郎との出会い、そこから家主、母親と訪ね、その度に「豆腐屋の倅がブリの頭を金隠しに置いて、糊屋の婆さんが便所の底に落ちた騒動」を何度も聞かされるところ、面白い。

その後、おつるがお世継ぎを出産して、八五郎が屋敷に招かれて出向くところ、「ご老女のお婆さん」とか、「殿様は俺の義弟だ」とか、「三太夫、控えておれ」とか、身分の違いなどお構いなしに振舞う様子が気持ち良い。妹のおつるには「実るほど首を垂れる稲穂かな」と優しい言葉を掛け、「おふくろに孫を抱かせろとは言わないが、せめて顔だけでも拝ませてやってくれ」と頼むところなど、人間味溢れる八五郎が描かれていて良かった。

上野鈴本演芸場四月中席初日夜の部に行きました。今席は春風亭百栄師匠が主任で、「百栄のすべるかもしれない噺」と題したネタ出し興行だ。①料理の鉄人が出来るまで②絶句③休演④あたま山(改)⑤水屋の富・投手編⑥とんがり夢枕⑦フェルナンド⑧ジャム浜⑨さよなら旅行社⑩禁落語外来。きょうは「料理の鉄人が出来るまで」、初めて聴いた。

「元犬」林家十八/「犬の目」春風亭だいえい/江戸曲独楽 三増紋之助/「宿へゴースト」柳家花いち/「トイレの死神」古今亭志ん五/粋曲 柳家小菊/「下町せんべい」柳家小ゑん/「のめる」橘家文蔵/中入り/漫才 ニックス/「あるあるデイホーム」林家きく麿/紙切り 林家二楽/「料理の鉄人が出来るまで」春風亭百栄

百栄師匠の「料理の鉄人が出来るまで」。まず発想が百栄師匠らしくてユニークだし、噺の構成がしっかりしていて、笑いのまぶし方も丁度良くて、秀作だと思った。

テレビ局が社運をかけて立ち上げる「落語の名人」という番組の企画会議で、それまで練り上げた番組コンセプトをプレゼンターであるカガタケシ氏に説明すると、ことごとく否定されてしまい、最終的にその番組が「料理の鉄人」になってしまうという…。面白い。

「落語の名人」の当初案はこうだ。番組冒頭でカガ氏が「私の記憶の限りでは…名人八代目桂文楽は当時住んでいた町名から黒門町と呼ばれた」と蘊蓄を語る。そして、スタジオには落語スタジアムが設えられ、仕事のない二ツ目が50人ウロチョロしている。カガ氏は扇子を箸に見立て、蕎麦を食べる仕草をした後、「よみがえれ!落語マスター!」と叫んで、名人を呼び込む。局アナのフクイケンジ氏が名人3人を紹介。新作の三遊亭圓丈、漫談の三代目三遊亭圓歌、古典の柳家小三治。

そして、挑戦者は三代目の孫で、四代目の甥の五代目桂三木助。お題は「与太郎噺」。「落語、はじめ!」の掛け声とともに、出囃子つくまが流れて三木助登場。続いて出囃子二上がりカッコが流れて小三治登場。審査員は京須偕充、堀井憲一郎、広瀬和生、そして八代目文楽ファンとして山本益弘、その友人の岸朝子、服部幸應…。岸朝子の決まり文句は「大変お上手でございました」。バトルが終わると、「勝者、小三治!」と叫ぶ。「三木助が勝つことはありません」とするのが可笑しい。

この案に対し、カガタケシ氏は「社運をかけている割には、インパクトが弱い。落語には華がない」と否定し、「唯一気に入ったのは審査員の3人」。山本益弘、岸朝子、服部幸應だ。「3人を中心とした料理番組にしたら」と逆提案する。冒頭の台詞も「私の記憶が確かならば」、落語はスタジアムでなく寄席でやっていればいい、寧ろキッチンスタジアムにすればいい。二ツ目なんかじゃなくて、フレンチのシェフ20人が斜めに一列に並べばカッコイイ。

扇子を箸に見立てる?大学の落研じゃないんだから。仕草ではなく、実際にパプリカを一口齧ろう。名人ではなく、鉄人にしよう。フレンチ、和食、中華。「よみがえれ!アイアンシェフ!」。岸朝子の決まり文句は「大変おいしゅうございました」。「落語の名人」より「料理の鉄人」の方が100倍、200倍面白いよ!

「料理の鉄人」のパロディにするのではなく、そこから逆算して「落語の名人」を発想し、最後に「料理の鉄人」に行きつく。これほどの皮肉な笑いは百栄師匠しか創作できないだろう。

途中に挟まる「ロッキードの小佐野賢治じゃない!」とか、「PKO法案の野党の牛歩戦術じゃない!」とか、「凡人・変人・軍人の田中真紀子の方がまし」とか、その他松浪健四郎やさわやか新党など、昭和(あるいは平成)なクスグリもかえってレトロ風味で面白かった。