花形演芸会スペシャル、そしてかけ橋・松麻呂 定例研鑚会
花形演芸会スペシャルに行きました。令和5年度花形演芸大賞各賞贈賞式を兼ねた演芸会である。
「やかん」春風亭貫いち/「雷電初土俵」国本はる乃・広沢美舟/「熊の皮」春風亭一蔵/「あたま山」柳家㐂三郎/「ビデオ屋の暖簾」真山隼人・沢村さくら/「七段目」春風亭柳枝/中入り/贈賞式/「噺家の夢」春風亭一之輔/「短命」林家はな平/「鎌倉飛脚」春風亭昇也/ヴォードヴィル 上の助空五郎/「不孝者」入船亭扇橋
大賞 入船亭扇橋/金賞 春風亭柳枝・春風亭昇也・真山隼人・柳家㐂三郎/銀賞 国本はる乃・林家はな平・春風亭一蔵・上の助空五郎
大賞の扇橋師匠。前座修業を一緒にした兄さんたちとこうして並ぶことができるのが嬉しい。“扇橋”という下駄を履かせてもらっての受賞だと思うと謙遜しながらも、「来年も大賞を目指します!」。受賞対象となった「御神酒徳利」と「高砂や」はどちらも市馬師匠から習ったネタだそうで、しかも「御神酒徳利」は市馬師匠が先代扇橋師匠から習ったそうだ。きょうの「不孝者」では他の出演陣を圧倒する、しっかりとした高座を見せてくれた。
柳枝師匠。去年の銀賞のときは師匠正朝は「ああ、そうか」しか言わなかったが、今回の金賞を報告したら、「良かったな」と初めて褒められたそう。扇橋からも「良かったな」と言われ、カチンときました(笑)。きょうの「七段目」、お軽と平右衛門のやりとり、鳴り物を入れて、芝居台詞をしっかり演じて、短いながらも聴かせどころを作ったのは素晴らしい。
昇也師匠。受賞者が落語協会ばかりで、芸術協会は私ひとり。一蔵に「足袋を隠された」(笑)。これだけは言っておきます、次の笑点メンバーは私ではありません!(爆笑)。きょうの「鎌倉飛脚」は上方落語「明石飛脚」を自分で改作したネタで、とても面白かった。
隼人さん。(贈賞式で司会の一之輔師匠に危うく呼ばれるのを失念されそうになり)影が薄いのでしょうか(笑)。去年が銀、今年が金ときたので、次は大賞がほしい!偉い方、大賞ください!きょうの新作浪曲「ビデオ屋の暖簾」、野球部員の高校生が学校への通報を恐れずにレンタルビデオ屋に突撃する“男のロマン”を力強い節で聴かせてくれた。
㐂三郎師匠。受賞のことより、心配でならないのは国立演芸場(の改築)がちゃんと落ち着いてくれるかどうか。大それたことは言いません、(代替会場の)渋谷にも是非お越しください!きょうの「あたま山」、独自のクスグリも随所に散りばめ、㐂三郎落語と呼べるモノにしていたのは天晴れだ。
はる乃さん。師匠(国本晴美)が泣いて喜んだ。金賞目指して、頑張ります!きょうの「雷電初土俵」、短い時間だから仕方ないかもしれないが、啖呵部分が多すぎて、もっと節で魅了してほしかった。
はな平師匠。楽屋で一緒に修業した仲間とともに受賞できたことが嬉しい。息子には「何で金賞じゃないの?」と訊かれましたが。きょうの「短命」、隠居が八五郎になぜ短命かを必死で説明するところ、無言で身振り手振りになるのがとても面白かった。
一蔵師匠。貰った賞金はボートレースにつぎ込んで、大賞の額にします(笑)。きょうの「熊の皮」の“音で覚える挨拶”、甚兵衛さんを愛してやまない先生がすっかり理解するところにオリジナリティを感じた。
上の助先生。私には師匠がいません。この受賞の喜びはチャップリンとエノケンに報告します。きょう初めて高座を拝見したが、ウクレレの音が心地良く、トランペットの口真似も上手。イパネマの娘を飛騨高山の言葉で唄うのも良かったし、シルクハットを自在に操る芸もすごいと思った。ボーイズバラエティ協会に所属し、普段は東洋館に出演しているそうだが、こういう芸人さんが落語の定席の色物で出演してくれたら嬉しいなあ。
夜はらくごカフェに移動して、「春風亭かけ橋・神田松麻呂 定例研鑚会」に行きました。かけ橋さんは「嶋鵆沖白浪②芝山の斬り込み」「馬大家」、松麻呂さんは「慶安太平記⑱正雪の最期」「細川の茶碗屋敷」。
かけ橋さんの「芝山の斬り込み」。芸者のお虎が馬刺しの菊蔵に脅されているところを助ける佐原の喜三郎がカッコ良い。お虎は5両しか借りていないのに、「50両貸した。この証文が口を利く」とうそぶく菊蔵に対し、「50両と5両の間を取って、ニッコリ笑って証文を返してやれ」と言って、10両しか渡さない喜三郎。「なめるなよ」と凄む菊蔵に、「この証文の五と両の間の十の文字の墨の色が違う」と見破って、「出るところに出て、この証文がどんな口を利くか、白黒ハッキリつけようか」と言う喜三郎、貫禄が違う。
お虎とその母親を、自分の兄弟分の八日市場の倉田文吉のところで面倒を見てもらえるように世話をした喜三郎だが、播磨埼で待ち伏せしていた菊蔵と子分たちに留められた。菊蔵の親分筋の芝山の仁三郎も加勢しており、万事休す。お虎と母親だけ八日市場に向かわせ、30人もの敵に喜三郎は立ち向かうが、多勢に無勢。喜三郎をとどめを刺さないで傷めつけ、芝山の親分の物置の梁から吊るして、気絶するほどに殴る蹴る、水を掛けて正気に戻すを繰り返し、生殺し状態…。
このことを知ったお虎は、母親に倉田文吉に助けを求めに走らせ、自分は芝山へ。物置に忍びこみ、血まみれの喜三郎を救出し、駆け付けた文吉一家が戸板に乗せて、八日市場まで運んだ。お虎の甲斐甲斐しい介抱によって、喜三郎は全快。文吉の協力もあって、喜三郎は芝山に戻って、仁三郎を斬り殺し、見事敵討ちを果たした。だが、肝心の菊蔵は留守にしていて、敵討ち出来なかったのが心残り。お虎と母親は八日市場で商売が出来るように文吉が面倒を見ることに。そして、喜三郎は浅草安倍川町の金太郎のところに厄介になった。第2話はここまで。
松麻呂さんの「細川の茶碗屋敷」。落語の「井戸の茶碗」や浪曲の「茶碗屋敷」の原型である。松平安芸守に仕えていたが、いまは浪人となった川村惣左衛門は病気になり、苦しい暮らしをしている。娘のおしずが屑屋の太兵衛に“古びた阿弥陀様”を400文で売った。それを細川越中守の家来の田中宇兵衛が500文で買い取ったら、その阿弥陀様から50両の紙包みが出てきて…。固有名詞は違うが、大筋は一緒だ。この後が少し違う。
宇兵衛が自ら、屑屋の太兵衛に案内されて、惣左衛門の許を訪ね、50両の返金を申し出る。だが、頑固な惣左衛門はこれを辞退、両者「刀にかけても」と一触即発の状況になってしまう。これを見た屑屋の太兵衛は家主に仲に入ってもらい、「志は松の葉」と家主が言って、50両の御礼に惣左衛門が“古びた茶碗”を宇兵衛に渡すということで問題が解決した。
ところが、宇兵衛が貰った茶碗を吉田久庵という目利きが見て、「これは青井戸の茶碗。500両の値打ちがある」。慌てた宇兵衛は惣左衛門に説明すると、惣左衛門はあっさりと500両を受け取る。この話を聞いた細川越中守は松平安芸守に口利き、「惣左衛門という男は罪なくして浪人をしている」旨を伝えると、誤解が解け、惣左衛門は800石取りで帰参が叶う。
青井戸の茶碗は越中守に献上されたが、その後に田沼意次に譲渡され、その返戻金で屋敷が建った。そのために誰彼ともなく「細川の茶碗屋敷」と呼ぶようになったという。
なるほど。とても良い読み物だが、これを落語にアレンジすると、あの「また小判が出るといけない」で有名な「井戸の茶碗」になるのか。実に興味深かった。