もちゃ~ん 春風亭百栄「絶句」、そして集まれ!信楽村 柳亭信楽「ガマ仙人」

「もちゃ~ん 春風亭百栄勉強会」に行きました。「あたま山」(改)「絶句」「野ざらし」の三席。新作二席は鈴本演芸場で4月中席夜の部の主任を勤める特別興行「百栄のすべるかもしれない噺」でネタ出しされており、その予行演習を兼ねた口演だった。

「あたま山」(改)は以前、「あたま山心中」というタイトルで演じていた噺。ある男が身投げしようとしているところを、清掃作業員が発見し、事情を訊くところからはじまるが、その後の流れは「道端に落ちていたさくらんぼを食べたら、頭のてっぺんがもぞもぞした」、そしてついには桜の木が生えてきて、挙句にその木を引っこ抜いたら、穴が空いて池になってしまったという…「あたま山」と同じ構成だ。

ただ、全編にわたって百栄師匠らしいクスグリがふんだんに盛り込まれ、とても愉しい一席に仕上がっている。池で早慶レガッタがおこなわれ、チアリーダーが応援合戦をしているとか、屋形船で宴会が開かれ、カラオケで好みのタイプの女性と思わず♬ロンリーチャップリンをデュエットしたとか。さらに磨かれて、鈴本の高座にかかるのが楽しみだ。

「絶句」は初めて聴いた。主任のヒャクエイ師匠が高座で絶句し、楽屋内や客席がパニックに陥るという寄席における騒動記を実にユーモラスに描いていて、必聴だ。立前座、楽屋番、太鼓番、高座返しという4人の前座に2人のお囃子さんがこのハプニングにどう対処するか…。

ヒャクエイ師匠は「アルパカ100頭を女子高の体育館に並べて」という言葉で絶句してしまった。この続きはどうなるのか、新作落語ゆえに全員わからない。弟子のヒャクイチ兄さんに電話で問い合わせると「俺は古典派だから、師匠の新作は聴かないようにしている」という返事。席亭に助けを求めると「落語には間というものがある。その間をたっぷりと味わって勉強しなさい」。間にしては長すぎる!

お茶子さんが「お客様の中にこの落語の続きをご存知の方はいらっしゃいませんか?」と呼びかけると、何人もの“落語通”が現れるが、全部信用できないものばかりというところ、そのディテールは書かないが、百栄師匠の真骨頂だろう。

このハプニング中もお囃子さんが地囃子を弾き続けているのは、「寄席が沈まないように祈りをこめている」という、映画「タイタニック」リスペクト。もう、仕方がない!と追い出し太鼓を叩こうとすると、高座のヒャクエイ師匠に動きが!「アルパカじゃなくて、ビクーニャだった」。調べてみると同じアンデス地方の動物で確かに似ている!この後も騒動は続く…。これは傑作、是非鈴本の高座で聴きたい。

「集まれ!信楽村~柳亭信楽勉強会」に行きました。「崇徳院」「ガマ仙人」「腰痛」の三席。開口一番は桂しゅう治さんで「真田小僧」だった。

「崇徳院」、ネタ卸し。高座を拝聴していて、“親バカちゃんりん”がテーマなのではないかとふと思った。若旦那が上野の清水さんの茶屋で前に座っていたお嬢さんに一目惚れして、恋煩いしてしまった。医者から「余命5日」と言われた大旦那は幼馴染の熊さんに「三軒長屋をあげるから、そのお嬢様を探してくれ」という。手掛かりは桜の枝に括られていた短冊に書かれていた崇徳院の歌。あとは「水も滴るような美女」ということだけ。これで熊さんが捜せなかったら、「息子の敵だ!」という父親は冷静に考えると常軌を逸している。

熊さんの言うように、そんなに好きだったら、「そのお嬢様の後をつけて、三日三晩張り込んで、自分のものにする」くらいの根性がないといけない。清水さんのところの茶店の羊羹は美味いよね!と暢気だった熊さんだったが、三軒長屋に目がくらんだ女房に尻を叩かれて大奮闘。江戸中の湯屋を18軒、床屋を36軒廻って、「瀬を早み~」を繰り返したお陰で、お嬢様のお店の出入りの職人と巡り会えたのだから、熊さんは敢闘賞、殊勲賞ものの活躍だ。信楽さんはメンヘラな幼馴染のために大奮闘する熊さんの様子をユーモラスに描いて、愉しかった。

「ガマ仙人」、僕は初めて聴いた新作。他人に自慢できるような友達が欲しいと願ったトモくんが、絵に描かれた中国の二人の仙人を見て、この仙人様とお友達になれますように…とお祈りする発想がユニークで面白い。

二人の仙人、一人は鉄拐という分身の術ができる有名な仙人だが、もう一人の仙人が誰だか判らない。肩の上にガマを載せている仙人。その仙人がトモくんの前に「ガマ仙人だよ!君の新しい友達だよ!」と言って現れ、トモくんは思わず「気持ち悪い!」と言ってしまう。ガマも気持ち悪いが、そのガマが肩に載っている仙人というのも気持ち悪い。その上、仙人とそのガマがゲロゲロと言いながら会話しているという…。

ガマ仙人いわく、友達がいないので、友達を作りたい、目立つことをすれば友達が出来るかも!と考えて、ガマを肩に載せたという。だけど、それは逆効果で、「人は皆、私を避けるようになってしまった」(爆笑)。誰言うとなく“ガマ仙人”と呼ぶようになった…だから、仙人だけど術は使えない、ただガマを肩に載せているだけの男なのだ、というのが笑える。

トモくんもそんな気持ち悪い仙人とは友達になんかなりたくない。絵の中で一緒にいる鉄拐仙人と友達になれば?と提案すると、「あれは偶然映り込んだだけなんだ」と答えるガマ仙人が可笑しい。写真じゃないんだから!ガマを貸してあげたら友達になってくれるかもしれないよ?というトモくんのアイデアを実行したガマ仙人…「友達になってください!」と友情の証にガマを渡したら、鉄拐仙人まで「気持ち悪い!」。トホホなガマ仙人なのだった。

信楽さんの豊かな発想力に舌を巻いたファンタジー落語(?)だった。