三遊亭わん丈真打昇進披露宴

三遊亭わん丈真打昇進披露宴に行きました。林家つる子さんと二人、落語協会では12年ぶりとなる抜擢の真打昇進である。先日、上野精養軒で二人の合同披露宴が芸人さんやマスコミ関係者などを招いて開かれたが、きょうは帝国ホテル富士の間でわん丈さんの単独の披露宴が開かれた。400人を超える出席者の半分以上がわん丈さんを応援する一般のお客様という、わん丈さんの心のこもった祝宴に胸が熱くなった。

正午、わん丈さんと天どん師匠が万雷の拍手の中、入場。司会はわん丈さんと同じ昭和57年生まれの春風亭昇也師匠とテレビ朝日の矢島悠子アナウンサーだ。

天どん師匠の挨拶からスタートした。円丈師匠が亡くなって、自分がわん丈を預かって1年も経たないうちに“抜擢真打”が決まった。全ては前の師匠の円丈の功績であり、「私は(かつて一之輔に)抜かれた側ですから」と、相変わらずの天どん節が冴える。そして、「円丈が使っていた眼鏡」を持ってきて、実際にかけてみる道化も。うちの一門は円丈がパーティーが嫌いだったので、こういう披露宴はしなかった。だから、自分が真打になったときもしなかった。でも、抜擢というおめでたい昇進なので、皆さんが「わん丈の披露宴に出席したんだよ」と後々まで自慢できるように成長してほしい。応援をよろしくお願いしますと締めくくった。

続いて、わん丈さんの出身地、滋賀県の老舗和菓子店「叶匠寿庵」の柴田社長の祝辞。ある日、近所のおじいちゃんがわん丈さんのことが書かれた新聞記事を持ってきた。そこには、「稽古をつけてくれた師匠への御礼に叶匠寿庵の和菓子をお渡ししている」と書かれていて、それ以来のお付き合いだそうだ。ちなみに、今回の真打昇進披露興行に使う後ろ幕を贈られている。

次は演芸評論家の長井好弘さんの祝辞。わん丈は“何か”を感じる落語家である、と。それは才気ではないか。「魚の狂句」や「近江八景」といった誰も演らない噺を掘り起こし、自分の工夫を加えて、手の内にしている。長編の「牡丹燈籠」をパネルを使ってチャート式で通し口演し、客を納得させている。2022年の芸術祭では「わん丈七変化」と題して、毛並みの違う落語を7席も演じた。実に多彩。同業者は心穏やかでいられない。どんどん面白いことを先にやられてしまう。司会の昇也いわく「早く潰した方がいい」(爆笑)。落語の初心者から通まで、一人も取り残すことなくわん丈の世界へ導く、それが彼の魅力だと賞賛した。

そして、鏡開き、橘右橘師匠の乾杯、桂雀々師匠の中締め、寿獅子と続いた。お待ちかねは浪曲師・玉川太福先生による「三遊亭わん丈物語」。曲師は玉川みね子師匠。近江の国の琵琶湖の畔、大津が生んだ快男児のこれまでの41年の半生を10分にまとめて唸った。高校時代に金髪で登校したら、担任が母親を呼び出した。そのときに母親も金髪に染めて行って、「遺伝です」と言い放ったという伝説はつとに有名だが、ここには裏エピソードがあった。それを指示したのは妻から相談の電話を受けた父親のアイデアだったのだ!この親にして、この子あり。

大学で人より3年間多く学び、バンド活動をしていた青年は27歳にして、池袋演芸場で落語と初めて出会う。「落語家になろう!」。一目惚れした円丈師匠の門を叩き、入門が許されたのは平成23年4月。楽屋入りすると、色々な師匠から「円丈一門の前座に古典ができるのか?」と心配されたが、円丈師匠はきちんと稽古をつけてくれ、わん丈さんも一生懸命に取り組んで、“スーパー前座”と渾名されるまでになる。平成28年5月に二ツ目昇進。その一年目で、年間1200席の高座を務め、名だたる賞レースでも結果を残した。モチベーションは「円丈が喜んでくれる」だったという。

そんな円丈師匠が令和3年12月に亡くなる。引き取ったのは、兄弟子だった天どん師匠だった。「名前はわん丈のままでいいよ」と言われ、「もしや、わんどんになるのでは?」という心配は吹き飛んで、安堵したという(爆笑)。そして、12年ぶりの抜擢真打。去年の高座は1509席だったそうだ。

余興の3つ目はアマラントさんによるサンバ。上野精養軒での合同披露宴で好評を博したため、それを観られなかった多くのファンを喜ばせてあげようという、わん丈さんの心遣いが嬉しい。わん丈さんの出囃子「小鍛冶」で踊る和風の演出もあり、会場は大盛り上がり。司会の昇也師匠が「口移しのチップは禁止です」という注意が笑いを呼んだ。

そして、本日の主役のわん丈さんの挨拶。13年前に入門したとき、「うちの一門は仕事が来ないよ」と言われ、落語を頑張るしかないと頑張った。稽古をつけてくれた色々な師匠には感謝したいと。お客様との付き合いも下手だが、それでも「頑張っているから応援するぞ」と言ってくださる皆さんにきょうはお集まり頂いた。この会場に来ている半分以上は「私の落語会に来てくれる」お客様。このお客様を減らさない、むしろ増やすように高いレベルの落語が出来るように邁進したいと決意を語った。

取材で「目標は?」とよく訊かれたが、まずは目の前の3月21日から始まる45日間の披露興行をしっかりやること。持っている古典も新作も“自分の子ども”のような気持ちで、45日間はその45人の子どもたちを見せられるようにしたいと意気込んだ。

大締めは落語協会の柳亭市馬会長。「会長はゆっくり料理を楽しんでください」と言って、私に余興をやらせなかったと笑わせる。サンバを披露宴で2回も観るとは思わなかった、天国の円生師匠は「実にどうも…」と言っているだろう、小さん師匠は「また呼ぼうな」と言っているだろうとにこやかに語り、野次を飛ばす五明楼玉の輔師匠に対し「明日から二ツ目降格だ」と冗談を飛ばす。兎に角、落語界を背負って立つ大看板になる逸材と褒め讃えたのが印象的だった。