春霞左龍十夜 柳亭左龍「猫怪談」

上野鈴本演芸場三月中席二日目夜の部に行きました。今席は柳亭左龍師匠が主任を勤め、「春霞左龍十夜」と題したネタ出し興行だ。①明烏②猫怪談③居残り佐平次④佃祭⑤崇徳院⑥名刀捨丸⑦らくだ⑧もう半分⑨淀五郎⑩花見の仇討。きょうは「猫怪談」だった。

「一目上がり」柳家小じか/「やかん」柳家小太郎/ジャグリング ストレート松浦/「ほっとけない娘」柳家小ゑん/「家見舞」入船亭扇遊/漫才 ホンキートンク/「幇間腹」古今亭菊丸/「厩火事」柳家さん花/中入り/奇術 ダーク広和/「置き泥」橘家文蔵/音楽 のだゆき/「猫怪談」柳亭左龍

左龍師匠の「猫怪談」、珍しい噺が聴けて嬉しかった。昔は弔いで仏様の胸元に刃物を置いて、魔除けにしたという。それはその家で飼っている猫が亡くなったご主人様に悪戯をするという言い伝えがあったことに由来するそうだ。マクラでこのことを仕込んで、本編に入った。

深川蛤町の長屋に住む与太郎、一緒に暮らしていた父親が長の患いで死んでしまった。実はこの父親は養父で、実の両親が流行り病で死んでしまい、孤児になった与太郎を可哀想に思った男が生涯、女房も持たずにこの与太郎を育てたのだった。大家は与太郎に「ここまで育ててくれたお父っつぁんの恩を忘れるなよ」と言って、弔いをあげる世話をしてあげた。

お通夜が済み、月番の吉兵衛さんと与太郎が菜漬けの樽に死骸を入れて担ぎ、大家が提灯を持って先導し、谷中の輪王寺へ向かう。丑三つ時。池之端のあたりで、吉兵衛さんが躓いて、樽から死骸が飛び出してしまった。タガがゆるんでしまっていて、使い物にならない。大家が稲荷町に行って代わりの早桶を買ってくるのでここで待っていろと言うと、怖がりの吉兵衛さんは死骸と一緒にいるのは恐ろしいので、同行させてくれと頼む。死骸は与太郎一人で番をすることになった。

養父と二人きりになった与太郎は死骸に話し掛ける。「本当に死んだの?なんで死んだの?おいら、独りぼっちになっちまったよ。世間の人はおいらを半人前だと言うから、半分ぼっちだな。色々と世話になった。今度はおいらが働いて、美味いものを食わせてあげようと思ったのに。仕事から帰ってきても、話す相手もいないじゃないか。何で死んじまったの?」。与太郎の台詞が泣かせる。

すると、遥か彼方の暗闇で何か動くものがあった。それを合図に、仏様が動き出す。ぷるぷると震えている。そして、目をぱっちりと開けて、起き上がった。「生き返ったのか?何か言いたいことがあるのか?」と話しかける与太郎。すると、今度は仏様がぴくぴくと動き出し、立ち上がり、ピョーン!と飛び跳ねた。「お父っつぁんは上手だ!」と与太郎が声をあげると、一陣の風が吹いて、仏様は上野の山の方へ飛んでいってしまった。

そこへ、大家と吉兵衛が戻る。与太郎が仏様が飛んで行ったことを話すと、大家は「仏様の胸元の刃物がどこかにいってしまっている…これはきっと猫が悪さをしたに違いない」。それを聞いて、吉兵衛は腰を抜かしてしまった。

与太郎の養父の死骸は根津七軒町の上総屋の土蔵の釘にぶらさがっていたという。猫は魔性の動物なのか。怪談というより、奇譚といった方が相応しいのではないか。実に奇妙な噺を堪能した。