春風亭昇太独演会「人生が二度あれば」

三鷹市公会堂の春風亭昇太独演会に行きました。「鷺取り」「幽霊の辻」「人生が二度あれば」の三席。開口一番は春風亭昇りんさんで「たらちね」だった。

「鷺取り」。八五郎が考えた金儲けの方法をマンガチックに描くのが愉しい。雀を酒を含ませた米粒を餌におびき寄せ、酔っ払って南京豆の殻を枕に寝入ったところを箒と塵取りで搔き集めちゃう。羽織をバタバタさせながら、チュンチュン!と雀たちを表現するのが可愛い。

鷺に対して「サーギー」と呼ぶ声を段々小さくして、警戒心が薄れたところを金槌で首を叩いて気絶させるところ。「アーン」と言って鷺が次々と倒れていくのがこれまた可笑しい。で、帯に鷺の首を沢山挟んだために、鷺たちが目覚めて羽ばたくと、八五郎が空を舞うというのも落語らしくて楽しい。

「幽霊の辻」。小佐田定雄先生の創作落語。堀越村へ手紙を届けに行く男が茶店の婆さんに道を尋ねたばっかりに…。目印として赤子池、獄門地蔵、父子橋、首括りの松…と次々と怪奇現象が起きると語る婆さんが嬉しそうなのが面白い。

すっかり恐怖心を刷り込まれた男は、その目印に到達するたびに独りで怖がり、盛り上がり、狼狽するという…。何も怖いことなど起きていないのに恐怖心が増幅していく人間の心理の不思議を実によく表現している。

「人生が二度あれば」。自分の過去を振り返り、「あのとき、こうしていれば、もっと自分の人生は良い方向に進んでいたはずなのに」と思うのは人間誰しもがあることだ。

この噺の主人公は“松の精”の力によって、過去にタイムスリップすることができた。だが、初恋のお千代さんは思ったほどの美人ではなく、愛の告白と思った言葉は「居酒屋の付けの請求」だった。危篤になった母親に死の直前に間に合うことができたと思ったら、実は「自分は本当の息子ではなかった」ことが判ってしまう。知らない方が良かったことばかりだった。

昇太師匠が言うように「人生は一度きりだから良い」のかもしれない。昔のことをいつまでも引きずって後悔などしていても何一つ良いことはない。常に前を向いて、先のことを考えて、希望を持って生きることの大切さを教えてくれたような気がした。