天中軒雲月「忠僕直助」、そして古今亭駒治「鶯の鳴く町」

木馬亭の日本浪曲協会二月定席二日目に行きました。

「若き日の小村寿太郎」天中軒かおり・広沢美舟/「小田原情け相撲」東家恭太郎・水乃金魚/「鳥羽の恋塚」港家小そめ・玉川祐子/「観世の家宝 肉付きの面」天中軒月子・馬越ノリ子/中入り/「髪結新三」広沢菊春・広沢美舟/「白隠禅師」神田陽乃丸/「祐子のスマホ」玉川太福・玉川鈴/「忠僕直助」天中軒雲月・広沢美舟

かおりさん、木馬亭初舞台。落ち着きがあり、しっかりと声が出ており、音程も狂わず、上々のスタートのように素人目には見えた。天中軒門下では必ず、この「小村寿太郎~」から始めるが、力強さを感じた。雲月先生によれば、次は「琴桜」だそう。楽しみである。

姉弟子の月子先生の「肉付きの面」も良かった。彫刻師の源之助が、7年前に父の源五郎が自害した原因を作った観世太夫に対して、魂をこめた能面を彫ることで復讐をするという…。それは怨念というよりも父の無念を晴らす職人根性という方が相応しいだろう。面が観世太夫の顔から剥がれないのは、源之助が面にこめた思いがそれだけ強かったという象徴。説得力のある高座だった。

そして師匠の雲月先生の「忠僕直助」の素晴らしさ。満身創痍、渾身の一席だった。10年前に主人の岡島八十右衛門が持つ刀のことで大野黒兵衛に恥をかかされた屈辱を晴らしたいと下郎だった直助は突如姿をくらまし、大坂で刀鍛冶の修業をしていた。高座は10年後に直助が津田助直に出世して、岡島の許を再訪するところから始まるのがドラマチックだ。

主人・岡島と再会を果たし、直助は「10年前のお詫び」と言って、名刀稲荷丸と金200両を渡す。そして、因縁の3月3日の雛祭り。黒田が岡島の腰のものに目がいき、その刀の出自を尋ねると、「いささか縁故のある者から土産としてもらった」。黒田はその人物を知りたがる。

そして、黒田の前に津田助直となった直助が「きょうの来るのを待っていた」とばかりに現れ、鼻を明かす。性懲りもなく「倅の差料を頼みたい」と言う黒田に対し、直助は「千両」を要求、黒田は「天狗になりやがって」と憤る。すると、直助は黒田が自慢して持っている刀、“長谷部長兵衛国重”に「小さな傷がある」と難癖をつける…。これも直助の作戦だ。

実際、大石内蔵助の目の前で、黒田の“名刀”は武林唯七によって真っ二つにへし折られてしまった。黒田は万座の前で恥をかき、直助は主人の岡島の無念を晴らした!直助の忠義心に胸が熱くなった。

夜は上野鈴本演芸場二月上席二日目夜の部に行きました。今席は古今亭駒治師匠が主任で、「駒治新作落語ナイト10デイズ」と銘打ったネタ出し興行だ。①B席②鶯の鳴く町③ロックウィズユー④公園のひかり号⑤10時打ち⑥駅長たま⑦ラジオデイズ⑧旅姿宇喜世駅弁⑨レモンの涙⑩海芝浦。きょうは「鶯の鳴く町」だった。

「たらちね」隅田川わたし/「親不孝者」林家やま彦/奇術 ダーク広和/「権助提灯」柳家勧之助/「おもち」林家きく麿/浮世節 立花家橘之助/「初音の鼓」桂やまと/「熱血!怪談部」林家彦いち/中入り/紙切り 林家楽一/「鮑のし」隅田川馬石/ものまね 江戸家猫八/「鶯の鳴く町」古今亭駒治

駒治師匠の「鶯の鳴く町」。とある田舎町の駅に「新型車輛デビュー」というポスターが貼り出され、少年は喜んだ。駅員に訊くと、「最新鋭の電車が来る」と言う。だが、実際は元は山手線だった車輛のおさがりだった…。

少年はそれを知らずに、その新型車輛のチラシを同級生のレン君に見せた。レン君は東京からの転校生で、いつも東京のことを自慢げに話す男の子だった。チラシを見るなり、「これ、どこかで見たことがある!10年以上前の山手線だよ。騙されているんだ」。少年は信じず、「もしこれが嘘だったら、僕は丸坊主になって、裸で町を歩く」と約束する。

駅員に再度尋ねると、レン君の言うことは本当だった。レン君のお母さんは「うちの子は山手線が大好きで、山手線博士と呼ばれていたのよ」と話してくれた。レン君は生まれつき病弱で、空気の良い田舎に引っ越して暮らすことを医者に勧められ、あちこち探した結果、「この町に住みたい」と決めたのだという。

少年は考えた。レン君を“山手線”に乗せてあげよう。駅員さんと相談して、車輛は吊革もシートも広告も、東京にあったときのままのしようということになった。そして、レン君を誘って、“新型車輛”に乗った。

レン君は興奮する。吊革もシートも東京のときと同じ。広告も「予備校みすず学苑」や「深見東州の強運」、路線図も高輪ゲートウェーが出来る前のものだ。少年が訊く。「このヒグレサトって?」「日暮里だよ。僕はこの隣の鶯谷に住んでいたんだ。渋谷や恵比寿や原宿みたいなオシャレな駅は反対側。全然オシャレじゃないんだ。洋服もアメ横で買っていたし」。

少年が言う。「日暮里って、この町と同じで夕日が綺麗なんだろうね。田圃が広がっていて、鴨が飛んでいる…」「ああ、田端って田圃の端だね。鴨が住んでいるから巣鴨だ!」。そのとき、鶯が鳴いた。「気に入った!きょうからここが僕の鶯谷だよ」。

はじめは仲が悪かった田舎の少年と東京から引っ越してきた少年が山手線の旧車輛で意気投合するという…猫八師匠の粋な計らいによる演出も素敵で、ハートウォーミングな噺にホッコリした。